第四章:二年目からは体術訓練。家族の暗躍 其の壱
二回目の王子様のお誕生日会は、アリエルとおにいがエスコートしてくれた。両手に花。幸先の良い社交になりそう。よかった!
2回目の第一王子のお誕生日会
自分の六歳の誕生日から、二ヵ月後、また第一王子の誕生日会が来てしまった。あまりいい思い出ではないけど、不参加は認められないので、アリエルと一緒に参加することになった。
おにいももちろん参加で、今回は前回を踏まえて、おにいの目の届く範囲にアリエルと一緒に社交することになった。
入場した時、一斉に注目されたのは緊張したけど。アリエルとおにいが一緒だから、顔面偏差値がとても高いのでまあ、仕方ないよね。その後、王子様とのご挨拶も何事もなく終わったし。まあ、私は殆ど話さなくてよかったし。本当に、おにいは頼りになる。
去年の出来事ゆえ、身構えていたが何も起こらず、楽しいお茶会―誕生日会だった。
あのいじめっ子たちにも出くわしたが、彼らはそそくさと私達を避けるようにどこかに行ってしまった。なんかすっごく怖がられているみたい!私ってそんなに怖い?アリエルは、彼らを見た時、少しビクッとしたけど、手を握ったら、とても可愛い天使の笑顔で答えてくれた。とても癒やされました。同じ年頃の子供達とも会話できたし。とても平和な一日だった。
私とアリエルのお揃いの衣装(上半身の衣装がお揃いのデザインで、下半身がドレスとズボンだった)に、みんな興奮気味に褒めてくれたのも嬉しかった(特に、同じテーブル座っていた3人の令嬢たちの熱気は凄かった)。気迫もすごかったし、ちょっと怖かったくらい。でも......
分かる、分かるよ!アリエルは本当に美人さんだから。でも、できれば、私がズボンの方を着て、アリエルにドレスを着てほしかったなあ。まあ、それは、アリエルを含めたみんなに却下されたけど。逆の方が絶対にもっと豪華で美しかっただろうに。クロスドレッシングはこの世界では受け入れられないみたい。本当に残念!
キャサリンは、この3人がアリエルの美しさに称賛を送って熱い目で見ている、と思っていた。この3人は、初めての王子のお誕生日パーティーの時にも、キャサリンが散歩に行く前に座っていたテーブルに座っていた。キャサリンの美しさに称賛の目を向けていたが、そのことに、キャサリンは気づいていない。その後の騒ぎで、キャサリンがアリエルを庇ったことを知り、この3人はキャサリンの勇気に敬意を払っていた。この時から、この3人はキャサリンに注目していた。この時の彼らのキャサリンに対する印象は、美しく気高い、素敵!だった。勿論、アリエルの美しさにも、称賛の目を向けていた。アリエルに対しては、美しくて儚げ、だった。この3人が熱い視線を二人に向けるようになったのは・・・・・二人がお揃い衣装で現れた時。
このパーティーで、キャサリンとアリエルが入場してきた時、彼らを呆然と食い入るように見ている幼女・少女が3人いた。その3人は別の場所から熱い視線を送っていたが、フラフラっと彼らに引き寄せられるように、彼らの方に近づいていく。彼らに視線が釘付けだったので、周りが見えておらず、3人は彼らの元に辿り着く前に、お互いにぶつかってしまった。お互いに非礼を詫び、視線を彼らに戻す。そこで、お互いに気づくことになる。同じ思いであることに。そこで、ご令嬢の3人は、硬い結束で結ばれることになり、共同戦線を張り、彼らと同じテーブルに同席することに成功した。二人の前では、淑女らしく、貴族令嬢として会話を楽しんでいた。ここで、知己となったこの三人は、今後の公式な集まりでは、二人の側に必ずいることになる。この三人は後にこの二人を守る要になる。
家族の暗躍と婚約回避の布石
その夜の報告会で、ラルフは何事もなく無事にお茶会が終了したと両親に報告した。公爵は去年自分の娘を突き飛ばした子供達のことについて聞いた。ラルフは彼らがキャサリンに近づくことなく距離をとっていた、と黒い笑みを浮かべながら報告すると、当然!と言う顔で公爵夫妻も同じように微笑む。みんな黒い笑顔で悪い顔をしていた。未だに、キャサリンには見せていない一面であった。
去年のいじめっ子たちの失態 (たった一人をよってたかっていじめて、それを庇った公爵令嬢を突き飛ばした)を知らされた彼らの親達は血相を変えて公爵に謝罪してきた。公爵は冷たく一瞥すると、厳重注意した。もう二度と娘には近づかないことを念書にサインさせて。もちろん、その念書には約束を破ったときの罰則(王都から遠く離れた所に家族もろともに飛ばされて、二度と王都には近づけなくなる)も書いてあった。彼らの親達は瀕死の顔色と怒り心頭の形相で、彼らを叱り飛ばした。これゆえ、彼らはお茶会でキャサリンに遭遇したときそそくさと逃げていったのである。
そして、キャサリンの家族はキャサリンの為に別の布石を打っておいた。キャサリンとアリエルがお揃いの衣装で参加することを快く推奨した事こそが布石であった。仲睦まじくしている幼い二人の姿を公のものとしたのは、婚約者の打診を回避するためであった。まだ、幼いので、婚約はしていないがこの先それも想定内である、というような牽制である。
キャサリン自身は気づいていないが、彼女が天使と賞賛するアリエルと並び立って見劣りしないほど、彼女が美しい容姿をしていることは誰の目から見ても明らかであった。身分だけでも、キャサリンは第一王子の筆頭婚約者候補である。それに加えて、キャサリンは容姿、頭脳、運動神経、その他もろもろ、ブッチギリである。しかし、王子に対して少しも興味を示さず(未だに名前さえ知らない)、目立ちたくない様子のキャサリンにとって、王子の婚約者を望むことは皆無であると、彼女の家族は確信していた。
その気持ちを慮り、牽制の意味で、お揃いの衣装を促進したのだった。今回の衣装は、公爵夫人がデザインして、お抱えの仕立て屋に頼んで仕立ててもらい、アリエルに送ったものだった。目論見通りに、王家からの打診も他の貴族からの打診もまだ届いていない。そして、二人がペアだという印象はパーティーに参加したものには根付かせることが出来た。三人ともうまくいった、とほくそ笑んでいた。
これ以降の公式のお茶会では、キャサリンとアリエルのお揃いの衣装が定番となったのは言うまでもない。公爵夫人主導のもと、アリエルの母が加わり、そしてご婦人会のメンバーが一人、また一人、と加わり、専属のデザインチームが結成され、この国の服の流行は作られていくのであった。可愛い天使ふたりをいかに可愛く着飾らせるか、を熱く議論するのがこの国の婦人たちの最大派閥となった。
親衛隊の結成と婚約回避という偶発的結果
王子の誕生日会で、キャサリンとアリエルと同じテーブルに座り、熱い視線と称賛の嵐で二人を褒め称えた3人の令嬢たちがいた。この三人が後の親衛隊の幹部である。彼女たちの熱狂的なファンのような行動に同調する者たちがこの二人が参加する公的な集まりで徐々に増え、親衛隊を結成するのである。不可侵条約が彼らの間で固く結ばれ、親衛隊はこの二人の鉄壁の壁となり、この二人を守るようになるのである。
その後、この二人のお揃いファッションは、狂喜乱舞の有体で年齢を問わず、人々に受け入れられ、年々ファンを増やしていった。一人一人でも、綺麗で可愛いのに、二人合わせるとそれが倍増し、笑顔を向けられたり、話しかけられたりした人は、感激のあまり赤面症と失語症になってしまうような有様だった。アイドルに会ったときの熱烈なファンのような反応だった。貴族令嬢の皆様は、騒いだりは表立って取り乱したりすることはなかった。表に出せない分、ファン集会ではみんな思いの丈をぶちまけるのであった。
年々、益々、相乗効果の美貌が増し、お揃いの姿で現れる二人には羨望の眼差しが注がれた。この状況は乙女ゲームの中での、ヒロインとアリエルのツーショット効果に類似している。ヒロインとキャッシーの違いは、ヒロインとアリエルは同類的な儚げな美しさで守ってあげたい美しさであり、どちらかというと、男の子たちに人気があった。反対に、キャッシーは武道を嗜む人達に共通する静寂の中に何か一本筋が通ったような、犯し難い気品のある凛々しい美しさであり、疑似恋愛のような感情を少女たちに起こさせ、熱狂させた。そして、そのキャッシーの隣にはいつも、儚げな美しさのアリエルが寄り添い、そのシーンは少女たちを熱狂させるには十分な程の威力だった。
目立ちたくない、傍観者の立場でいたい、と思っていたキャサリンには想定外な状況だった。しかし、さすがは熱狂的なファンである。控えめな態度のこの二人の気持ちを慮り、彼らを前にして騒ぐ人は皆無だった。それ故、キャサリンは自分がこの上ない程、目立っていることに気づくことはなかった。
親衛隊の存在は極秘にされ、本人らが知る由もなかった。その美貌の二人の前には、誰一人として、その間に割って入ろうとするものは現れなかった(正確に言うと、誰か入ろうとする前に、極秘に親衛隊によって潰された)。驚くべき情報網と結束、連携であった。
この熱狂ぶりには、王族でさえ近寄るのを忌避させる凄まじいものがあった。王子も何度かこの二人に話しかけたが、挨拶程度でいつも即終了した。王子も無言の圧力には耐えられなかった。
この二人には、見えない‘不可侵’の札が貼られ一定以上、彼らに接近しようものなら、殺気を伴った視線が360度から向けられ、瞬殺される有様だった。熱気を帯びた少女たちの気迫は凄まじく、熱狂的なファンと化していた。そこには身分差はなかった。彼女たちも一対一で王族と接したなら、身分差を弁えた対応をしただろう。しかし、不特定多数の無言の圧力や殺気は一斉に向けられるものであり、王子様といえども、その圧力に抗うことは出来なかった。
知らぬは本人ばかり、の状態でキャサリンは平和を享受していた。この親衛隊は、始めこそ、同年代の女性のみであったが、年々多様化していき、彼らが成人を迎える頃(15歳)には、国のアイドル状態になっていた。密かに、絵姿などが出回っていた。もちろん、お揃いの服を着た二人の絵姿である。ちなみに、あの3人の令嬢たちは、全てのお揃い衣装を着た二人の絵姿のコレクションを手に入れていた。
そのお陰で、キャサリンは意図せずに第一王子の婚約者にならずに済んだ。ここで、既に乙女ゲームの歯車の一つが狂ったことになる。第一王子は、十歳の時、一歳下のマリア・カスターニャ、4侯爵家の一つ、と婚約したことで、ゲームの悪役令嬢役はキャサリンからマリアに移行したのだった。
この時点で、キャサリンはゲームでの傍観者としての立場を知らずに手に入れることになった。ゲームの第一王子の婚約者は回避できていたが、残念ながら、誰よりも注目を集めるアイドルになったことは、本人だけが知らない(アリエルは、第一王子が婚約した時点で気付いたが、周囲を察して知らないフリをすることにした)。そして、このことはキャサリンの周り全ての人たちによって、今後もキャサリンには内緒にされることになる。
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