闇の塊、出逢い
漆黒の塊に飲み込まれたキャサリン。その塊の前で呆然と立ち尽くす、兄ラルフ。ラルフは混乱していて、為す術もない。これは、闇属性による、光・聖属性への攻撃なのか?
闇の塊
キャサリンが兄のラルフとお庭でお茶をしていた時、突然、黒い塊がキャサリンに向かって一直線に飛んできた。あっという間に、その塊はキャサリンを飲みこんだ。
ラルフは呆然と見つめるしか出来なかった。我に返った時、ラルフは溺愛する妹の名を叫んだ!その悲痛な叫びは屋敷全体に響きわたった。影もいつもどおりの配置で万全の体制で、二人を見守っていた。その影らも、全く反応できず、呆然とするしかなかった。
それは、影によってすぐマリーザに伝えられた。ライアンは城に登城していたので、連絡をマリーザから受け取ると、駆けつけた。祖父母にも連絡が行き、彼らも駆けつけた。
彼らが見たものは、真っ黒な大きな球体が空中に浮かび、その前には、為すすべもなく、呆然と焦燥しているラルフの姿であった。
ラルフが混乱しているようなので、影に事情を聞くマリーザ。キャサリンにいつも付いてる二人が見たままを伝える。何があっても動揺しない二人も、抑えようとしているが抑えきれないほど動揺していた。
ライアンとマリーザは、キャサリンを飲み込んだ黒い塊を冷静に観察、分析してした。勿論、魔力量や、その中の状況など。
彼らはお互いを見つめると、頷きあって、一言。”闇属性の魔法ですわね(だな)。”
二人は、闇属性でありながら、攻撃性を見せていない塊に、キャサリンを傷つける意思が感じられない事に、少し、安堵していた。ラルフだけは、動転しすぎて、それに気づけなかった。
そこへ、祖父母が到着した。祖父は顔をしかめつつ、一言。”闇属性の魔法か!”
祖父母にも、それが闇属性でありながらも、攻撃的ではないことに即、見た瞬間気付いた。
その祖父母の側に、ラルフを支えつつライアンとマリーザは近づいていく。
”お義父様、キャッシーが中に閉じ込められているそうです。彼女を助け出す手段はありますか?”
”残念ながら、ないな。闇属性の魔法に対抗できるのは、聖・光属性の魔法だけ。つまり、キャサリン本人だけ、ということになる。幸いにも、この黒い塊からは悪意などは感じられない。そして、闇と聖・光はお互いを無効にすることが出来る。だから、中のキャサリンは身体的には傷つけられない。ただ、精神的には......分からないが。”
”そんな!” ラルフは黒い塊を見つめながら、その場に泣き崩れた。普段は全てに優れ、他の追随を許さない、自信満々のラルフが、見る影もなく、呆然と為すすべもなく静かに泣いていた。妹の安否を慮って。
そこでゲラルドが水晶を取り出し、どこかに報告をしだした。その相手は、国王。
”トレド、緊急事態だ。キャサリンが闇属性の黒い塊に閉じ込められた。情報を開示する必要がある。”
ゲラルドは水晶を塊の方に向け、国王にその様子を見せる。
じっと見つめた後、決意を決めた強い眼差しの国王が重い圧のある声で命令を発した。
”許可する。速やかに、遂行するように。”
ライアンが人払いをした後、遮断の術を使う。その内側にいるのは、家族だけである。
いざ、ゲラルドが王室の極秘事項を話そうとした時、黒い塊が光によって霧散した。
そして、そこにはキャサリンが静かに佇んでいた。
”キャッシー!”
キャサリンはラルフと両親に抱きしめられた。そこで、キャサリンは気を失った。
夢の中での会合
キャサリンは気を失った後、朝まで目覚めなかった。そして、その晩、約束通り、キャサリンは闇属性の女の子と夢の中で会った。闇の中なので、お互いの姿は、容姿は見えなかった。正確に言うと、夢の中での姿はキャサリンは光の塊で、相手はその光の塊を囲い込んだ闇の空間そのもの。そして、その真ん中に核があった。
”嬉しい。約束通り、来てくれたんだね!”
その不思議な空間にすすり泣きが木霊する。
”勿論だよ。私は約束したことは守れる限り絶対に守るよ。”
キャサリンは力強く頷いたつもりだが、実際は光の塊なので、その塊が少し揺れただけである。
この空間は闇属性の少女の警戒心の現れであり、その闇に飲まれない為に、キャサリンは無意識にも光の塊になってその闇属性の魔法に対抗しているのである。闇の核が認識出来るのは、闇の空間が核より色が薄いからであった。
闇の彼女が落ち着くまで、キャサリンは辛抱強く待っていた。しばらくすると、泣き止んだ彼女は、自分を恥じるように、辿々しく、お礼を言ってきた。”ありがとう”と尻すぼみしながら。
(表情は見えないが、少し、警戒心が溶けたみたい。)
”私はキャサリン、あなたは?”
ここで、彼女はまた泣き始めた。”......あ.な...たっ......わっ...た......名......うっ......”しゃくりあげながら、話そうとしていた彼女は、名を言った時点で、号泣した。
キャサリンはまた我慢強く彼女が落ち着いてくれるのを待っていた。泣き声か小さくなった時、
”勿論、私はあなたの名前が知りたいわ!” と笑顔満点の代わりに、光が一瞬輝いた。
彼女は、その輝きに驚き、凝視した。そして、その言葉が嘘ではないことに気づき、はずんだ、そして、すこし照れたような、躊躇した感じで、でも、ハッキリと、
”私の名前は、アリーシャ。 アリーシャなの!” 二度、確かめるように言った。
その夜は、アリーシャが望むように、彼女の名前を呼び、彼女は嬉しそうに”はい”と応えた。
闇の中の取り決め通り、密会は一刻で終了した。密会中は、お互い無防備になるので、初めから時間を取り決めていた。彼女に危険が及ばないよう、それを最小限に抑えるよう、誰の訪れもない、漆黒の一刻に決めていたのだ。
***この世界の時間、一刻は二時間。一日は4つに別れている。漆黒、明星、光明、宵闇で、6時間づつ区切られている。漆黒六時間の分類は、漆黒の一刻、二刻、三刻である。ちなみに、漆黒の一刻は、夜10時から、深夜12時である。キャサリンが前世の記憶を思い出した当時は、その記憶の方が強かったので、頭の中で自動変換が行われていて、日本時間に変更していたため、同じ時間が使われていると認識していたのだ。今は、もうこの世界に慣れたので、逆転しているのだが、偶に変換している事があるようだ。
お互いに別れを告げる時、
”アリーシャ、おやすみなさい。また、明日ね。”
"...うっ......キャサ..リン...お..や...すみ..な...さい。うっ...グスっ...あ...り..が...とう..グスっ....(ふう〜).....、(シャキ)、また明日ね(力強い声)。”
彼女の父が亡くなってから、初めて名前を呼ばれ、おやすみなさいの挨拶が出来、そして、それを返してもらい、明日の約束まで出来た、彼女にとっての嬉しい青天の霹靂だった。
こうして、彼女との夢の中での会合・交流が始まった。
昨日の出来ごと(キャサリン)
キャサリンが目覚めたのは、まだ明星の一刻(午前4時)。色んな事が起こりすぎて、かなり混乱しているので、ちょっと整理してみる。いつも通り、書いてみることにした。
突然、真っ暗な闇に包まれた。突然のことで、呆然としていたところ、声が聞こえてきた。
”誰でもいい。一人でいい。お願い、私の声を聞いて!私を見て!”
とても悲痛な、心が切り裂かれそうな叫び。その声に、悲しみに、苦しみの感情に飲まれた。いたたまれない。胸が苦しい。涙が頬を伝う。あまりの悲しみに私はしゃくりあげながら泣いてしまう。
”だ、誰、誰かいるの?” 少し怯えた声が木霊する。突然の話し声に驚いて、涙が止まる。
”えっ、私の他にこの暗闇の中に誰かいるの?” 私は目を凝らして、周りを見回してみたが、真っ暗で、一寸先は闇の状態。
”あなたは、私の声が聞こえるの?”
”はい、聞こえます。あなたにも私の声が聞こえてますよね?”
”はい。” 少し声がはずんで、でも、直ぐその後、こわごわと、”...あなたは、私を傷つけるの?” 恐怖心が私を直撃する。なんか、この人の感情がそのまま、私に伝わってくるみたい。
”えっ、そんなことしないわ。なんで、そんなこと聞くの?”
”ほんとに!?私を殴ったり、怒鳴ったり、気持ち悪いことしたり、怖いことしたり、しないの?”
”もちろん、そんな事するわけないじゃない。”
”ほんとに!?本当なら、嬉しい。”
”もちろん、絶対にそんな事しない。” ここで、信じて、とは言えない。もし、虐待されてきたのなら、人を信用するのは難しいだろうし。私も恐怖心に囚われていた時は、周囲がどんなに優しくしてくれても、信じられなかったもの。でも、この感情の波.....この周波......は、悪夢で体験したものと同じものだと思うのよね。たぶん、この子だと思う。今までは、私が一方的に悪夢としてこの子の感情や考えを受け取っていたみたいなんだよね。今、彼女と繋がったらしい。あの黒の塊が私を飲み込んだ時。感情や考えだけだから、彼女がここにいるわけではない、と思う。でも、核は彼女の一部だと思う。
こちらを伺っている気配は感じるが、彼女は沈黙してしまった。たぶん、怖いのだろう。なんか、怯えみたいなのを感じる。私に出来るのは...待つ?......ことかな?.....焦らずに待とう。
しばらく沈黙が続くと、戸惑ったように、彼女が話し出す。
”あなたからは、嫌な気配がしない。怖くない、と思う。もし、嫌でなければ、私の話を聞いてもらえる?”
”もちろん。”
そこで、彼女は今まで起こったことを話し出す。聞いていて吐き気がするほど、気分が悪くなる話だった。悪夢でも、ある程度伝わってきたが、背景、家族構成、家族関係、その他はまるでわからなかったので、今、全貌が見えた。吐き気がする。この子はやっぱり、悪夢の子で間違いない。
悪夢では、”どうして、なぜ、私を憎むの?どうして、愛してくれないの?私は家族じゃないの?” ここ最近では、”私に触らないで!私はキャロラインじゃない!気持ち悪い。そばに来ないで。” などの感情が流れ込んできた。これだけでも、かなり憔悴した。
この闇、かなり深い闇だね。負の感情、主に悲しみ、苦しみ、などで埋め尽くされる感じ。普通なら、この感情に飲み込まれそう。多分、これは、闇属性の闇。私の中から、光の部分が呼応している。そして、それを中和している。相殺って言ったほうが良いのかな?光と闇が拮抗していて、こちらまで闇が届くことはないみたい。
そして、この子が闇属性なら、彼女が先読みで見たヒロインと同じ容姿の人かな?つまり、ヒロイン?まるでゾンビのように表情、感情を亡くした人で、ゲームのヒロインとはまるで違うんだけど。ヒロインかそうでないかは、今は置いておこう。
”私の話を聞いてくれてありがとう。”
心からの謝辞を述べる彼女。話すことによって、少し心が楽になったのかも。辺りが少し闇が薄くなったかも。
彼女のこと抱きしめたい、でも、この状態では無理。たぶん、彼女は不用意に触られるのを嫌がる。まあ、今の私は光の塊なんだけど。
思わず、光の球体の自分が近づこうとすると、彼女はビクッとした。私は、即、止まった。その様子を見て、彼女は少し警戒を解いた。その後、待っていたら、
”分かってくれてありがとう。優しさをありがとう。”
少し、空気が揺れた。今度は悲しみでも、苦しみでもない。少し、ホワ〜としたものを感じた。思い切って言ってみる。
”私とお友達になってくれない?”
”ふぇっ....と...とっ..友達?..わ......私と?”
そんな事はありえない。という感じで、少し、戸惑い、若干拒絶?を感じる。
”そう、おともだち。ダメかな?” 敢えて軽い感じで。
”私と、こんな役立たずと、能無しと、本当に、私と?”
”そうだよ。もちろん、あなたとだよ。ここには、私とあなたしかいないでしょう。”
”ほんとに......本当なら、すごく嬉しい......だって、初めての友達だから。”
”そうなんだ。これから、よろしくね。”
”でも、私は、ここから出られないの。だから、あなたに会いに行くなんてできない。そして、誰も私のところに来れない。だって、私は存在しないから。”
”大丈夫だよ。あなたはちゃんと存在しているし。こうして話せているでしょ!それにね、なんか、あなたとは夢で繋がれそうな気がするんだよね。今みたいに。”
”ほ、ほんとうに、そうなら、嬉しい。”
”試しに、約束してみない?今晩、漆黒の一刻に、私の名前を呼んでくれない?”
”うん、分かった。やってみる。”
”その約束を果たすためにも、今の状況を解除しなくちゃね。”
”ごめんなさい、私、どうしたらいいのか分からない。” とても、申し訳無さそうに謝る彼女。
”大丈夫。私もハッキリとは分からないけど、なんか、こうすべきかな?ってことは何となく分かるから。試してみてもいいかな?”
”うん、勿論。やってみて。”
”じゃあ、あなたに近づいてもいいかな?”
”ありがとう、いままで、私に許可を求めてきた人なんかいなかったよ。” 少し、涙ぐんでいるよう。
”こちらこそ、ありがとう。じゃあ、少しずつ 少しずつ、近づくね。”
光の塊である私は闇の核に近づく。私の光が少しずつ彼女に浸透する。
”なんか,暖かい。ずっと寒かった心が少し暖かくなってきた。”
闇が少しずつ薄くなり、私の周りの闇が消滅した。そこには、家族がいて、その周りには結界が張られていた。
家族の顔を見て、安心して、私の意識は遠くなった。
・〜・〜・〜・〜・〜
そして、今、不思議な出会いをした彼女、アリーシャを思い返して書き出してみる。
アリーシャ:
闇属性 (闇属性がどういうものかよくわからないけど、私の力と共鳴、相殺、していたから、多分、間違いないと思う。まだ、断定出来ないけど)。
日常的に虐げられている。加害者は彼女の家族(母と姉)。
我慢の限界を超えそうになって、助けを呼んだ、その心の声が私に物理的に届いた。そして、今、夢で繋がるようになった。
祖母の力に共鳴するみたいに視えるようになった真っ暗な夢、感情だけが一方的に流れ込んでくる夢。これを発信していたのも彼女。同じものだったから。
祖母と共有した先読みの力で視た未来の戦闘図。私とヒロイン(ゾンビのように表情が抜け落ちた、ゲームとは全く違う)。このヒロインは抜け殻のようだった。自我を感じなかった。
闇属性は稀にしか現れない。遺伝とかは関係ないはず。
アリーシャには双子の姉がいる。瓜二つの、つまり、一卵性双生児。アリーシャだけが闇属性か、それとも、双子で共通するのか、それはまだわからない。
ゲームの中では、ヒロインは双子ではなかった。そんな話はサブ画面にも載っていなかったはず。でも、全部が思い出せていないので、断定できない。
ヒロイン(双子姉)がどういうつもりか分からないが、アリーシャを自分の良いように使い潰すつもりみたい。
でも、闇属性は、他の人を瘴気で染めて操るんだよね。???先読みでみた彼女、闇堕ちしてゾンビのようになっていて、操られているみたいだったけど。まるで、意思を感じなかったし。操り人形が闇属性の人って、ありえないよね。う〜ん、分からない。
そして、アリーシャ、彼女は闇属性で間違いない。でも、攻撃性は皆無。どちらかというと、自分自身に瘴気が向かっている感じ。やっぱり、わかんない。
つまり、現状では結論を出せない、ということだよね。一先ず、可能性ということにしておこう。
このキャサリンの疑問点は、直ぐに、真実を歴史を継承するものによって明らかにされるのである。
キャサリンは漆黒の塊であり、悪夢の中の少女、アリーシャに出会う。色々な疑問がキャサリンの心を一杯にしている。彼女が将来の敵なのか、という疑問点も。でも、キャサリンは彼女の友だちになる。彼女にとっての初めての友だちに。様々な疑問点は、ある人によって解消される。その人は......




