新しい自分!
家族に前世の一部を打ち明け、その家族に受け入れられ、キャサリンは再び生まれ変わったように感じていた。ここで、ハッピーエンドにならないのが悲しいくらい。でも、新たな始まりである。
NEW ME (新しい自分)
なんか、一皮剥けたみたい。景色が全然違う。自分が王子の婚約者ではない、と知った瞬間の歓喜、そして五年前に取り憑かれた最大の恐怖(ヒロインの第一標的)からの開放。お兄に話し、パパンとママンに話し、理解を得られ、受け入れられた喜び、自分が自分でなくなった感覚。
ここまで違うなんて!前世では、心理学を専攻してその分野に進む予定だったけど、やはり、自分で経験するまで本当の意味で理解は出来ないものだ、ということが痛いほど実感できた。恐怖に苛まれた心が見る景色とそれから開放されて見る景色とでは全然違う。天と地ほど違う。この五年間、恐怖に苛まれる余り、心が狭くなっていたみたい。人の言うことは信じられず、信じたいと思っていても、それを否定して、自分を卑下し、疑心暗鬼になっていた。みんな自分を裏切るのだ、と思い込み、自分から他人を排除していた。あんなに気遣って思いやりを見せ、愛していてくれる家族さえも、この人達もいずれ自分を冷たい目で見て、否定して、断罪するのだ、と思い込み、心の底では拒絶していた。傷つけられるのが怖くて、自分を守るために、相手を否定して拒絶していたのだ。こんな人間を彼らは変わらず支え、愛してくれた。もし、自分が自分のような人と接触していたら、そのような人を受け入れるなど、私には出来ないだろう。こんな私を受け入れてくれたみんなには感謝しかない。
それにしても、前世の自分が幸せだったのも幸いしたと思う。愛し愛された記憶があったからこそ、今の家族を全否定、全拒絶することが出来なかったのだから。恐怖の方が強かったとはいえ、心の奥底では今の家族を信じたい、愛したい、愛されたい、という思いを断ち切れなかった。多分、それが表面に浮き彫りになっていたと思う。無自覚にも、私を愛してほしい、認めてほしい、見捨てないでほしい、と垂れ流していたことだろう。体が子供だったから、感情を完璧に制御するのは不可能だったし。だからこそ、今の家族も離れることなく側にいてくれたのだろう。今の家族の支えがなかったら、私はとっくの昔に潰れていたかもしれない。かなり欝気味で自信がなく、自分を認めることが出来なかったから。愛してほしい、と願いつつ、その可能性を自分で否定して諦めようとしていたのだから。
なんか、これからは本当にやっと新しい人生が始められそう。よかった!まだ、十歳だで。まだまだ、再スタートは簡単にできる。何でも出来る気がしてきた。そして、何にでもなれる気がしてきた。
やっぱり、第一標的(当事者)から傍観者になると、心に余裕が出来る。あの恐怖のヒロインに頭からバリバリと食われる恐怖がなくなると、全然心境が違う。心が軽い。あの押し潰される感覚がもうないよ。恐怖がなくなると心がとても楽になる。今までぼや〜っと色褪せて見えていたものがハッキリと見える。世界がきれいだったのがやっと分かる。ずっと、曇だった空がやっと晴れたみたいな感じ。
空はこんなに澄んできれいだったんだ!
花もこんなにきれいだったんだ!
お兄の笑顔も、パパンとママンの笑顔もこんなに愛情深く、きれいだったんだ!
私は愛されていたんだ!
そして、私もみんなを愛していたんだ!
全てに感謝したい。声を大にして言いたい。ありがとう、と。
ここで、ハッピーエンドで終われればとても幸せなんだけど、残念ながらそれは無理。なんせ、あの鬼畜ヒロインが主人公の世界なのだから、このまま何もなく終わるはずがない。あのヒロインが実在するなら、必ず自分の幸せの為に他人を踏みにじり不幸に陥れる。際限なく。あのタイプは他人を不幸にするしか、他人を踏みつけにして自分が上に立つしか、自分を幸せに出来ない。それ、そのものが不幸とも知らず、そうすることにしか生きがいを見いだせず、エスカレートする。この世界にいる限り、彼女をどうにかしないと巻き込まれるのは必定。お兄と親友がその攻略対象者なのだから、最前線で巻き込まれる。一先ず、傍観者の立場を手に入れたから、前よりはやりやすくなった。ヒロインに会うまで、あと五年ある。自分に何が出来るか、ヒロインにどう対抗するか、対処するか、じっくり考えてみよう。
私はもうひとりではない。私には私を信じ愛してくれる人達がいる。心強い。本当にみんなと幸せになるために頑張ろう。年をとって、自分の人生を振り返った時に、良い人生だったな、と思えるように頑張ろう。
何をすべきか?
もう一度原点に戻ってみよう。答えはゲームの中にあるはず。全てを見返してみよう。そして、気付いたことを付け足していこう。
私はゲームをしたことがないから、妹がしている側で見ていただけ。画面に表示されていたので、今までに気付かなかったことは?
よくよく思い出してみると、メインの画面には、補足のように小さな画面が何個かいつも付け足してあった。注意してみないと見逃してしまうくらいの小さな画面が。
そうだ!私はあの画面に注目していたが、妹はいつもスルーしていた(妹は一度見たけど、“全然、ゲーム攻略に関係ない!”って怒ってその後は全く無視するようになったし)。あの画面から、私にはヒロインの本性が、彼女の汚いやり方が分かったのだ。私には本編がどうでもよかったから、いつもそのサブ画面を見ていたんだ。もう一度、始めから思い出してみよう。
1つ目のサブ画面がついた画面
1ページ目は、確か、オープニングで、ヒロインが編入してきて、私のクラス(王子も、メインキャラもいた)に教師と伴に来た。その教師がお兄だった。そのお兄に連れられて、不安そうに心細そうにでも必死に笑顔で挨拶するシーンだった。その側に3枚付与されていた。
一枚目:綺麗な母娘。三人の中年男性 (30−45ぐらい)。綺麗な格好だけど、母親は胸の大きく開けた派手なドレス姿。子供の方は普通の平民のドレス。その母娘の前に土下座で、頭を足蹴にされている中年男性。怒っている様子はなく、彼女の足にキスしそうな感じで陶酔している男性。もう一人は、プレゼントを捧げている。主従関係にしか見えない。でも、服装から見ると、母親はまるで高級娼婦のよう。三人の男性はお客さんかな?服から見ると多分、貴族かお金持ちの商人。母親の表情は、三人を見下しながら、愛想を振りまいていた。外野から見るとその蔑みがハッキリと見て取れる。でも、この三人には見えず、まるで女神様(20〜22歳ぐらい)のように見えているみたい。そして、その母親の横で同じ微笑みを浮かべるまるで天使のような女の子(五歳ぐらい)。髪の色がどちらもヒロインの色。目もブルーっぽい。これがヒロインと母親だろう。
とにかく、このサブ画面は1.5x1.5cmぐらいのとても小さなものだったから、私はよく妹が休憩する時に、大きくして観察したんだよね。妹はなんで私がそんなものに興味を持つのか不思議だったみたいだったけど。多分これに注目するプレーヤーは1割もいなかっただろう。これらのサブ画面らはゲームのヒントではなかったのだから。ゲームのヒントは別にあったし。でも、これこそが私(ゲームの中で生きるている)には最大のヒントになるのかもしれない。ゲーム本編に全く興味がなく、妹の付き合いだけでゲームを見ていた、この事が今役立つかもしれない。人生、何が幸いになるか、分からないものだよね。
二枚目:馬車の中で、強盗・野党に殺される母親と息子。物陰から確認するように覗いている一人の男性。全く驚いた様子もなく、計画していたものが、その実行が成功したかどうかを確認しているように見入ってた。その男性は、初めのサブ画面いたプレゼントを渡していた人だった。(このシーンはゲームの私が殺される瞬間とほぼ同じもの=同じ手口)。
三枚目:貴族令嬢のような格好で着飾った母娘。母親はあの三人以外の中年男性からエスコートされながら、屋敷へ迎い入れられた様子。その男性を蔑みながらでも、そうと分からせることがない魅力的な微笑みを浮かべる母娘。嬉しそうな男性。(目が全く笑っていないんだよね。この表情は後のヒロインと全く同じもの。つまり、同類)。
ここから読み取れるのは、綺麗な笑顔で平気で人を利用する母娘。下僕のように使われる男達。しかも利用される=彼女の役に立つ事に至福の喜びを感じている男たち。あのヒロインの鬼畜さが誰から継承されたかは明白だ。彼女の母親からだ。母親は、邪魔であるヒロインの正妻と息子を手下を使って殺させた。そして、その後釜に入ったのだ。ヒロインはこういう事を平気でする母親のもとで、その行為をつぶさに見て育ってきたのだ。遺伝、環境、性格、全てがこの母親と似ている、または殆ど同じみたい。まるで、罪悪感などなく、天使の微笑みで相手を見下しているのだから。たった五歳で。そして、13−14ぐらいで、完璧な邪悪な微笑みを特定の相手には天使の微笑みに見せるぐらいになる。
後のヒロインのやり口を考えると、母親が小物に見える。ヒロインはこの母親より更に酷い。母親の行動が可愛く見えるくらい。
最初の画面だけでも、結構情報が盛り込んであった。作成者はこのヒロインの二重性に気付いてほしかったのか、ほしくなかったのか......。多分、気付ける人がいるのかどうか、見たかったのかもね。この製作者かなり捻くれているね。
でも、この作業神経ガリガリ削られるな。しかも、恐怖心が湧き上がってくる。かなりきつい。かなり疲れる。
今までそれ程意識していなかったけど、お兄に話すときにも思ったけど、感情移入が酷い。まるで、自分で経験したみたいに。あの強盗に刃物で刺殺された瞬間の刃物の冷たさと刺された場所の熱さやイロイロ。どうして?でも、一方では他人事のように感じている自分もいる。この作業を続けていけば、もしかしたら分かるのかも。
そして、ヒロインのことを考えるだけで、冷や汗やら、恐怖心やら、心身共に削られる。ゲームという感じではなく、自分に起こったことのように感じる。どういうことか、今はまだわからないけど。とにかく、この作業は心身共に削られるので、少しずつやったほうがいい。一週間一回、サブ付きメインの一画面しておこう。その間、自分の好きなことをして、ゲーム内容は考えずに心のバランスを取るようにしよう。
新しい自分でみんなにあってみたい。みんな、新しい自分を受け入れてくれたらいいなぁーー。
新しいキャサリンは、みんなに受け入れられるのか?




