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首無し馬車とおせっかい

 わあわあわあわあと女たちが泣いている。

全身の力を泣くことに注ぐように、終わらない輪唱のように、高く低く、泣き声が届く。


なにがそんなに彼女たちを泣き叫ばせるのか、女たちがいる所で何があったのか、知りたいと思わせる。

引力を持った泣き声。


「また泣いてますね。おやすみなさい、アメリア」


「おやすみ、サイモン」


だが、神代の森を旅する二人は知っている。

夜深い禁足地の森を行き来する泣き声は、バンシーのものだということを。


死に人が出る際に集団で泣くという妖精たちを伴って森を渡り歩くのは、死を嗅ぎつける首なし騎士デュラハンであることを。


今夜はどこの家に向かうのか、泣き叫ぶ妖精の一行は森の中を遠ざかっていく。


「ほんとうによく遭うよね。ちゃんと眠れてる? 泣き声が耳に残ったりしてない?」


「平気だよ、彼女らが俺たちに向かってきても逃げ切って見せるよ」


「そうでなくちゃ困るよ。死から逃れる旅をしてるんだから」


夜ごとに現れる幽鬼は、今夜も星の淡い光を透かして笑った。


「三人一緒なら、平気だって、思えるから」


呪文を唱えるようにそう言ったサイモンの顔を、幽鬼の青い目がのぞき込む。


「レイ?」


「従者らしくなっちゃって」


「レイと約束したから」


「そうだね」


この国の祭司を継承する双子に仕掛けられた呪い。

兄レイは肉体を失い、妹アメリアへの攻撃も現在進行形。


今のところ、幽鬼となって呪いを得たレイが追っ手の始末をしてくれているが。


 いつかはサイモンが手を下す日がやってくる。


こんなもので終わるはずがないのだ。神代の森にいる今、どんな呪いもアメリアに届くことはないけれど、実力行使までは防いでくれない。


血を好む妖精も争いをけしかける精霊も、森の暗い場所に潜んでいるのだから。


「ねえサイモン、僕が怖い? 四人を死に引き渡した幽鬼が怖いかい?」


澄んだ青い目が、サイモンの間近に迫る。


「それは、アメリアのためだろ」


「そうだよ。かわいい妹を跡継ぎに据えるためだ」


「それなら、俺も同じ所へ行くから少し待っていて。二人でアメリアを守るって約束なんだから」


笑って荷物の中から取り出したのは、柄頭にアイオライトを嵌め込まれた短剣だった。

精霊の洞窟から持ち帰った宝石と、精霊の職人に誂えてもらった細身の剣。


お昼に魚を捌くのに使ってみたら、骨までよく切れた。


「永く使えそうな、いい剣だね」


「嫌な言い方するなあ」


「なんでそうなるかな。君にはずっとアメリアの隣にいてもらわなくちゃならないんだから、頑張ってくれよ」


「ずっと、って、そのつもりだけど、面と向かって言われると、ちょっと」


「いいよ、照れても。僕が兄さんなんだから、妹の恋人を見極めるのは僕の仕事なんだよ」


得意満面でたたみかけるレイは、生前みた何時よりも生き生きして見えた。


「恋人じゃないな、婚約者だよね、君」


「そうだけど。そうだけどさあ!」


「サイモン真っ赤になってる、かわいい義弟だなあ」


「公認ありがとう、レイ義兄さん……何の話だっけ」


レイは半透明の手をサイモンの剣を持つ手に重ねた。


「かわいいアメリアを任せられるのは、君だけって話だよ」


「うん、頑張るから」


すっかり火照ったサイモンの顔を、透明な夜風がなでていく。このまま風の音を聞いていれば、よく眠れそうだった。


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