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精霊郷の宝石(2)

 手のひらで転がる一粒一粒を夢中で眺めても、眺めても、眺めても、宝石の海は終わりそうにもなかった。


「これだけの中から、選ぶのって」


「選べる自身がないですよ……」


「私もだよ……」


サイモンは苦笑いして懐中時計をみる。まだ三十分も経っていなかった。


「ね、サイモン。覚えてる?」


「ん?」


すきとおった水晶の玉をのぞき込むようにして、アメリアは言った。


「天の川を三人で見た日。あんなたくさんのお星さまの中を泳いでみたーいって、あれ誰が言い出したんだっけ」


「アメリアでしょう、それを聞いたレイがすごく盛り上がって、俺は素潜りして、星屑いっぱい取るんだーって」


「私だったか!」


「アメリアだよ!」


「あのときの話、叶っちゃったと思わない?」


きらきら光る、宝石の、星の海。


「たしかに、叶いましたね」


両手いっぱいにすくい上げては、指のすき間からざらざらこぼれ落ちる宝石たちに埋もれながら。


二人は笑って、そうして唐突に現れた白い門を見た。

都会の神殿にあるような、太い石膏の円柱が二本、積み重なる宝石をせき止めるように建っていた。


「もう一つめに着いちゃったね」


「超えても良いのは、あと一つですね」


これがモルガナから与えられた助言二つめ。


「この洞窟はね、私たち精霊の国に繋がっているの。宝石も、ほとんど向こう側で採れたもの。でも安心して、ちゃんとこちら側に戻れるから」


「こちらと向こうの間には、門が三つあるわ。最後の三つめの門を越えたら、そこは精霊の国よ」


「三つめの門を越えなければ、ちゃんと帰ってこられるわ。気をつけて行ってらっしゃい」





「モルガナ様。私も洞窟へ入れていただきたい」


屋敷へ戻ったモルガナを、見送ったばかりの妹にそっくりな兄が待っていた。


「あなたなら、いつでも入ってきてよかったのに。やっと顔を見せてくれたのね」


「アメリア・ポラリスがお世話になります。レイ・ポラリスです」


きちんと頭を下げるレイに、モルガナも優雅なお辞儀を返す。


「ずっと庭にいたのじゃ疲れたでしょう。まずは上がって、ルビーはいかが?」


「あの」


「私たちは鉱石を食べるの、知っているでしょう?」


「それは、ええ、はい」


「あなたも気に入ると思うわ。一度口にすれば」


レイは真顔ですこし考えて、首を横にふった。


「せっかくのお誘いですが、遠慮しておきます」


「あら、そう。食べたら私の下働きになる契約なんかじゃないのだけどね」


「今は、旅を見届けないといけませんから」


「妹想いなお兄さんだこと」


レイはきょとんと数秒固まって、それから首をかしげた。


「違うの?」


「私は……妹のアメリアと、親友のサイモン、二人が大切で、だから心配で」


急にクスクスと笑い声がふってきたので、レイはすこし目を見開いた。


「そう、二人が。そうなのね。だからそう思い切りが良いのね」


「分かりますか」


「そんな顔してるもの。よく頑張るわね」


「顔」


透きとおった頬を、透きとおった指でむにむに摘まむ。


「さ、洞窟まで案内してあげるわ」


「いいんですか」


「私ね、悪い魔女役がやりたい訳じゃないのよ」





 さすがに魔女がつくった毒リンゴではないだろうけれど。

焼きたてのアップルパイを前にして、アメリアとサイモンは困惑していた。


「これは怪しいですって」


「うん、でもね、そのまま素通りするのって、失礼になるんじゃあ」


「とりあえず水、飲みますか?」


「ありがとう、それにしてもほんとうに美味しそうなアップルパイだねえ」


「焼き色もちょうどよくて、つやつやしてて、いえいけませんよ、こんなところにあるアップルパイなんて」


宝石の海の真ん中を行く通路のど真ん中に木の丸テーブルがあって、銀の大皿に載ったアップルパイが湯気をたてていた。


鮮やかな色彩の宝石を見続けていた二人にとって、素朴なパイの焼き色はいつもより魅力的に映った。


「だめだめ、いただくにしてもよ。まず作ってくれた方に挨拶してからじゃないと」


「そうですよ、パイは冷めてからだって美味しいんですから」


「あっ」


「アメリア?」


「見つけた」


それは、彼女に備わった霊感の一種だったのだろう。

アップルパイの誘惑を振り切ろうとぶんぶん首を振っていたアメリアの目に、光が飛び込んできた。まっすぐに宝石の山へ歩み寄って、迷わず一つの石を手にした。


「あ、俺も」


サイモンも、アメリアから少し離れた別の山に吸い寄せられた。


「うん。これが私の宝石」


「これが、俺の助けになる……」


さっとしまい込んで、帰ろうかと振り向いた二人の前に、アップルパイはもうなかった。

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