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静かな夜の流れ星

 星の降る夜が好きだった。

深く深く青い空に輝く星と、隣で肩をすり合わせる二人の輝く瞳を見るのが好きだった。

大熊座から北斗七星を辿って、乙女座や獅子座を探しては笑い合う。

そんな三人の密会が好きだった。


 たき火に枝を足しながら、空を見る。

さそり座の胸が赤く光っている。ゆるい風が吹いて、たき火をかき混ぜていく。

赤い火がゆらめく。よく晴れた星見日和に、アメリアは安らかに寝息をたてている。

サイモンは魔物よけの香木を出して、赤いたき火に投げこんだ。これでもう眠るばかりだ。


 二人きりの夜にも、慣れてきたとサイモンは思う。

アメリアは安全な木の実と果物の収穫を覚えたし、こちらだって火をおこす段取りが巧くなった。

なにも人食い竜を狩りに行くわけでもなし、二人旅に不安はない。


「心配はしてない、けど」


一人起きていると、つい独り言が口をついて出る。

三人一緒がよかったとは、言わないけれど。


「三人、居るよ」


「ひゃっ?」


こうやって、とっさに剣を構えることもできるんだから。不安なんて、


「君がしっかりしてくれてるから、心配いらないね。サイモン」


不安がどうとか吹き飛んだ。

ついでにまた風が吹いた。


 森がざわつく位の風にも揺らがないそれは、星を見つけた時の笑顔でサイモンの隣に立っていた。

かつて三人で星を見た、そして先月死体になったレイ・ポラリスその人が。


「しばらくじゃないか」


平凡な挨拶に、


「旅の従者への選出、おめでとう」


にこやかな祝辞が返る。


「君以外が選ばれるはずないって、分かっていたけどね」


「俺より頼りになりそうな候補は何人もいたんだけど」


「それでもね。最後に決定権を持つのはアメリアだもの。君以外が選ばれっこないんだよ。サイモン」


「なんだよそれ、選定の時の緊張返してくれよ」


口をとがらせるサイモンに、幽鬼は笑う。


「そうか、君も緊張したか。それはかわいそうなことをしたな。でもああいうのは形式が大事なんだよ。出来レースなのが分かり切った上でも、選定された事に意味があるんだ」


「形式ねえ、大人たちはそればっかりだ。俺たちも、もうじき大人になるのかな」


「それが残念、もう始まっているのさ。選定の、準備段階から。もう僕らは組み込まれてるし、君たち二人はその中心じゃないか」


幽鬼に人差し指を突きつけられて、たき火がぱちりと爆ぜて、失言に思い当たったサイモンは慌てて頭を下げた。


「レイ、ごめん、君は」


「何を謝ることがあるの?」


「だって、大人になるのはもう」


「そうだよ。レイ・ポラリスという大人はもういない。代替わりの前に呪い殺されたからね」


 この国の祭司を代々取り仕切るポラリス家、つまり最強の霊的血統に呪殺を仕掛けた愚か者がいたこと。そして若き次期当主は呪いをはじき返せなかったこと。

二つの忌まわしい事実は当然徹底的に隠された。


従者に選ばれるほどレイに近かったサイモンも、事実を伏せられたまま旅立ちの日を迎えたのだ。


「仕掛けてきたあいつに呪い返しまでは出来たんだけど。自分が生き残るのは、あの力は強すぎた」


「レイは……呪いで殺されたの」


まるで世間話をするようにレイが喋るので、ようやくサイモンに恐怖心がかえってきていた。


「すごーく不服だけど、勝てなかった」


「じゃあ、じゃあ! なんで誰も教えてくれないんだ!」


「わかるよ、サイモンの怒り」


「レイ一人じゃ済まないだろう、これ! レイが居なくなっても、アメリアがいるんだから! レイの双子の妹のアメリアが!」


「問題ないと判断したんだろうね」


そんなわけないだろ、と幽鬼に八つ当たりを投げる従者の顔に、冷たい指が触れた。


「次の標的は間違いなくアメリアだ。代替わりが完了する前に双子を消せればいい」


幽鬼の指がサイモンの顔を撫でる。


「僕たちは向かってくる者をすべて片付ければいい」


体温は抜けていくばかりで、指は少しも温まらない。


「アメリアがこの旅から帰り、正式に代替わりするまで僕らが守り抜けばいいんだから、何も問題ないんだよ」


「生きている君と、死んだ僕とで」


 レイに真正面から囁かれた言葉は恐ろしいと感じたけれど、青い瞳がいつも通りに綺麗だったので、それで恐怖心は消えた。

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