子犬がこの国で分かってきた事
兄とあの女の人は付き合っていないらしい。
子犬はがっかりしたし、自分の鼻が利かなかった事にも納得がいかなかった。
自分があの時抱いた感情を振り返ると、正確には何だったのかよく分からない。兄に対して大きな想いがあって、まだ名前が分からない感情もある。その一部が恋心だったのかも知れない。
いずれにせよ、兄は自分を拾って名前を付けてくれて、いつも側においてくれる。あれが失恋だったとしても子犬は充分に満たされていた。
子犬は折り返してある袖を見る。
兄に弟が出来たと知った人達が色々な物を譲ってくれた。おかげで子犬は既にちょっとした物待ちだった。服もちょうど良いお下がりを着ている。その上にあの日兄が肩に掛けてくれた服を着ていた。当然大き過ぎるそれを子犬が肌身離さず持っていたいのに気付いて、袖や身幅を直して着られるようにしてくれたのはあの女の人だった。袖口もただ折り返すのでなく装飾が見えるようにして、きれいに縫い止められていた。
兄が誰かと一緒になるならその人であって欲しかった。でもそれは分からない事らしい。それでも二人は他の誰よりも仲が良く見えた。
他にはあの女の人は兄より少し年上で、小さなこの国を治める家の一人と言う事。
兄はその家で働く大勢の中の一人で、若輩ながら才を買われている事。
そして今の家族は自分一人だと言う事。
2020.03.08 誤字訂正と一部修正