白雪姫に転生したらしい。
どうやら白雪姫に転生したらしい。
「ちっ……ついてねぇな」
私はぼやいた。
童話のヒロインっつーのがまずイケてない。
『美女である』というだけのアベレージであり、常に待ちの態勢だ。
そして有り体に言うならば、男運が悪い。
シンデレラは散々虐められ、こきつかわれた挙げ句足フェチとしか思えない野郎に探し出されるし(足のサイズなんて合うヤツ他にもいんだろうが!)、眠り姫は寝ている間に勝手に唇を奪われる。
特に男運が悪いのが白雪姫と言えた。
本によって内容が異なるが、眠り姫と同じか、『死体でもいいから頂戴』とかぬかす、更にキメェ男に貰われていくのである。
大体にして、親父がクソだ。
悪い女にアッサリ籠絡されやがって。
童話に出てくる王子や王はどうしてこうも碌でもない男ばかりなのか。
(いやでも、この世界……ひとりいい男がいたな……)
ただ、先にも述べたように童話は本によって若干内容が異なる。
私は密かに王妃とは違う魔女を捜しだし、その男が存在するかを確認することにした。
「姫様、王妃は半端ない魔力を持つ魔女っす。 自分じゃ到底かなわねっす」
「別にアンタに『闘え』だの『私の身を守れ』だの言ってるワケじゃないのよ」
及び腰の魔女を言いくるめ、油断している王妃の部屋に盗聴器的なものと隠しカメラのようなものを取り付ける事に成功。
その日を待った。
「アナタにはあの娘を殺ってほしいの。 証拠として肝を持ってきて頂戴」
キタ────────!!!!!!
私は歓喜の雄叫びを堪えながら、シャドウボクシング的に拳を前後させてその言葉を聞く。
そう、『白雪姫の隠れイケメン』……彼は『狩人』。
『狩人』は妃に雇われた暗殺者である。
年端もいかない可憐な白雪を撃つのに躊躇いが生じた狩人は、代わりに猪を撃ち、白雪を森へと逃がしてしまうのだ!
ワイルド&クール!!
正に私の理想の男!!
しかも魔女である妃に猪の肝を渡してトンズラ!
大胆不敵!!
怖いもの知らず!!
きっと報酬を貰った上に、猪の皮と肉も売っ払ったに違いない!
『肝以外も大事に使用しました』!
なんて経済観念のしっかりした男性!!
好き!! 養って!!!
私は嬉々として自ら王妃の部屋に出向いた。
そりゃ~もうご機嫌だ。
スキップ・スキップ・ツーステップ位の軽快なリズムで進む。
「お義母さまァァァァァァァ!!」
────バァンッ!!
「ヒッ?!」
扉を勢いよく開けると王妃は肩をビクリと揺らす。
私は満面の笑みでこう告げた。
「森までちょいと亡き母の墓前に捧ぐ花を摘んできやっしゃぁ!」
「あ、あ……そう? いってらっしゃい……」
興奮のあまり早口になった為か、舌ッ足らずさがいい感じのチンピラ感を醸す。
だが私は、10代前半にして鏡も認めた世界一の美少女・ミス・ユニバース白雪である。
『スキップ・スキップ・ツーステップ』から『ツーステップ・ツーステップ・はい、回転♪』位の更なる軽快な動きを見せながら森へと向かう。
疲れる動きだが、まだ10代の私には余裕だ。
若いって素晴らしい。
とりあえず花を摘んでみると、緑の汁が手についた。
なんだか青い匂いがする。
青春だ。
(まだかな~? 狩人まだかな~?)
──ざっ……
振り向くとそこには猟銃を携えたフードの男。
キタッ!狩人さん!!
一応魔女ッちに作って貰った身を守る為の護符はある。
王妃の魔力には敵わないが、もし狩人がハズレでも人間風情ならばなんとかなるらしい。
……魔女有能~。
王妃なんか、別にこんな小国のおっさんなんぞ誑かさんでも国なら手に入れられたんじゃないのか?
(あれれ? じゃあもしかして王妃が私を狙う理由って……)
──パァンッ!!
「プギィィィィ!!!」
銃声と共に猪の断末魔の叫び。
我にかえった私は狩人の方を向く。
「────フッ……」
息を吹きかけて猟銃に微かに残る火を吹き消し、パサリ、と音を立て狩人さんはフードをとった。
「!!」
そこには精悍な顔立ちに無精髭を生やしたワイルドイケメンがニヤリと笑っており、あまりの衝撃に言葉を失う。
なんたる僥幸ッ!
当たりの狩人っつーだけでなく、超ドストラーイク!!
ストレートど真ん中ッ!!
「俺ぁ女子供は撃たねぇ主義でね……逃げな、おじょーチャン」
なんと!?
声も台詞も格好いいとは!!
衝撃のあまりに腰を抜かしてしまった私をよそに、狩人さんは猪をひょいっと担ぐとそのまま去っていった。
「あっ?! 待って! 待ってぇぇぇぇ」
消えた狩人に私はうちひしがれ、その場で突っ伏した。
「あああぁぁぁぁ……名前すら聞けなかった……」
仕方ないので七人のサムラ……もとい、七人の小人の家を探す。
白雪の野郎(今私だが)は、RPGの勇者よろしく他人様の家の留守中にずかずかと入り込み、図々しくもベッドで眠るという居直り強盗的な暴挙をやらかすとんでもない姫な筈だ。
明らかな不法侵入であり、不審者である。
美少女でなければ許されない。
むしろ本来は美少女でも許されんわ。
家を見付けた常識的な人間の私は、七人(家主)のお帰りを玄関先で待つことにする。
「あ、姫様~ここに居られましたか~」
「魔女ッち! 待ってたわ!! 今どうなってる?!」
魔女ッちには「多分七人の小人の家に行くことになるから」と予め伝えてあった。
私が食い気味に魔女ッちに尋ねると、魔女ッちは徐に水晶玉を取り出す。
勿論映し出されるのは王妃の部屋。
そこには狩人さんの姿も!
「────ホラよ、約束の品だ」
ドチャリ、と水気を含んだ音を立てて、狩人さんが放り投げた白雪の肝が床に落ちる。
「仕事が早いこと。 流石凄腕と言うだけあるわね」
そう言いながら、こんどは王妃が金の入った袋を投げた。
「……口封じしようものなら全てが詳らかになるように手は打ってある」
「──用意周到じゃないの。 アナタこそこの事を漏らしたら……」
ふん、と鼻を鳴らす王妃に「俺は依頼の他言はしねぇ」と言いながら、狩人さんは足下に転がった金子の入った袋を持ち上げる。
「報酬は貰ってくぜ……」
王妃に背を向けた狩人さんはそう一言吐きながら一度だけ振り返り、またニヤリとダーティな笑みを浮かべ、その場を辞した。
「…………かぁっこいいいいぃぃぃぃぃ」
私は悶絶した。
「こうしてはいられないわ!! 狩人さんを探して押しかけ女房にならなくては!! さぁ魔女ッち!」
「魔女使い荒いっす~」
文句を垂らしながらも魔女ッちは働いてくれ、七人の小人の協力も得た私は隣国王子の襲来も回避し、見事狩人さんのところへ辿り着くこととなる。
その間に怪しい老婆に扮した王妃も襲来したが、それは回避せず、説得を試みた。
何故ならば魔法の鏡が『世界一美しい』と言ったのは、王から見た姿だと気付いてしまったから。
あれから王妃を盗撮、盗聴し続けた結果、得た答えである。
父はおそらく自分の娘に劣情を抱くような男ではない。
この『世界一美しい』は親の欲目ってヤツだ。
きちんと思い出し、考えてみれば義母は一時期まで私にも優しかったし、国が傾くような浪費もしない。
……むしろしっかりしたいい王妃である。
恋をした今ならわかる。
彼女は嫉妬に駆られただけだ。
私にかつての母を重ねて見ていたのだろう。
私は老婆に扮する王妃に悩みを相談するふりをしてそれらをぶちまけ、最後にこう言った。
「もし真実を知らしめる道具があるのなら『王が女として現在最も愛しているのは誰か』がハッキリするのに~」
もし父がいい人ヅラを装い、幼い娘に劣情を抱くような男ならば、嫌悪感が凄くて許容できそうにない。サクッと殺って貰った方が世の中の為ではないだろうか。
当然ながらそれは要らぬ心配だった。
今義母は、いい王妃として国を支えている。
「めでたしめでたし☆」
「いや、なんもめでたくねぇ」
私は今、押しかけ女房になるべく絶賛努力中である。
残念ながら、今はまだ『押しかけ居候』と言ったところだ。
「なんで?! こんな美少女なのに!」
「俺はロリコンじゃねぇ! つーか自分で言うな、図々しい!!」
市井に降った(勝手に逃亡しただけだが)私はすっかり日に焼け、最早『白雪』でもなければ『姫』でもない。
『雪』と名乗って生きている。
だがそんなことは些細な問題だ。
「大丈夫! そのうち育つから!! むしろ育てて! 貴方色に染め上げて!!」
今の一番の問題は狩人さんのハートを射止めること!
すっかり仲良くなった義母からのプレゼントとして、魔女ッち経由で媚薬のレシピが送られてきた。
グッジョブ! 義母!!
よ~し!今夜は頑張っちゃうぞ♪
ジャンルを『童話』から『異世界転生(恋愛)』に変えました。
どっちにしようか迷ったんですが……