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病床記  作者: 中川大存
4/11

入院1日目③――「はじめてにウキウキ」



治療方針としては、点滴により抗生剤投与と栄養補給を行い、腸の炎症を押さえる、といったところらしい。

物の消化には腸に相当の負担がかかるそうで、治療中は絶食とのことだった。


この絶食というのが、看護師さんにしても周囲の人にしても相当辛いように思われているらしいということが会話からなんとなく察せられたが、案外僕は楽しみだった。

入院という非日常の中で、もひとつ絶食という非日常を味わえるのだ。堪能しなくては損というものだろう。苦しいかもしれないが所詮は期限つきだし、ばっちこいだ。

高橋源一郎の小説で、自殺志願の男女四人が締め切られたマンションの一室でゆるやかに餓死していく話があった。ちょっとそれを思いだしたりする。


まあそんなわけで、僕の入院ライフは食事というおそらく入院患者唯一の楽しみが存在しないパターンということで決まった。

処置は当分の間点滴だけだし、検温だの点滴の入れ替えだのは看護師さんがベッドまで来てやってくれるから、基本的にはたまに検査をする以外は自分のベッドでぼけっとしている、というまことに贅沢な生活である。


結局、入院一日目はとくになんのアクションも起こさず寝ることとなった。

寝る前にトイレくらいは行ったが。

正式名称をなんと言うのか知らないが、両端に点滴の袋を装着できるようになってて、手で持ってカラカラと押して歩く「車輪つき衣紋掛け」みたいなやつを使えたのが新鮮だった。ザ・入院患者ってかんじで。


体力が尽きかけていたとはいえ、7時前に眠りにつけたのは不眠気味の僕にしては珍しい。

しかしそこで気づいたのが、点滴しながらだとものすごく寝づらいことである。

僕は寝るときは寝返りを打ちまくりたいタイプなので、腕からチューブが出てるとどうにもうまくいかない。

高熱のせいもあり、8時半、10時、12時、3時と、何度も目が覚めてしまった。


寝返りが打てないと意識しながら寝ているせいか、身体中が変に凝ってしまって気持ち悪い。

起き上がってのびでもしたいところだが、急に動くと脇腹の痛みが本格化しそうで怖い。

結局、休めたか休めなかったのかよくわからないまま、夜は明けたのだった。

まあいずれ、僕も往年のジャイロのように体をまったく動かさずに熟睡できるようになると信じたい。

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