4人と4台〜チューニング〜
〜チューニング1〜
部屋に無機質な音が響く。442ヘルツに合わせたAの音だ。
四人は椅子に座り、楽器を構えてAの弦を弓で擦る。
第一ヴァイオリンの音が違うようだ。彼はすらりとした手を伸ばし、ペグを回す。一度下げ、慎重に上げる。
上げすぎた
もう一度下げ、向こう側へ回す。
ぴったりとチューナーの音と合った
そのままDとA、DとG、AとEを合わせていく。今日も美しい音である。
第二ヴァイオリンの音が違うようだ。彼は眼鏡の奥の瞳を細め、ペグを回す。一度さげ、慎重に上げる。
上げすぎた
もう一度下げ、向こう側へ回す。あと一ミリ。
今度は低すぎる
もう一回手前に回し、今度こそ確実に正確に一寸の狂いもなく⋯
結局上げすぎた
ヴィオラの音が違うようだ。彼は柔らかなな表情のまま、アジャスターに手をかける。くるくるっと回し
ぴったりとチューナーの音と合った
小さな音で、AとD、DとG、GとCを合わせていく。今日もまろやかな音だ。
チェロの音が違うようだ。彼は特段変わることなく、ペグを回す。一度下げ、慎重に上げる。
ぴったりとチューナーの音と合った
そのままAとD、DとG、GとCを合わせていく。途中、フラジオを混ぜ、音が合っているかしっかりと確認する。
ようやく第二ヴァイオリンが五度調弦に移行したようだ。一度下げては上げ、下げては上げを繰り返し、皆が静かになって少し経ったころ、ようやく彼のチューニングは終了する。
「おい、これだと俺が無能みたいじゃないか」
「そんなことないよ。神経質なだけだよ」
「そのペグ調整してもらった方がいいんじゃね」
「早く始めるぞー」
〜チューニング2〜
チェロが、チューナーを駒に取り付け、針が真ん中を刺すようペグとアジャスターを駆使して調整する。
第一ヴァイオリンが動いたようだ。譜面に置いた楽譜をめくり、ポジションや指を確認する。ある程度確認できた頃にはチェロのチューニングも終わっているので、楽器を構え、チェロのAの音に、ヴァイオリンのAの音を乗せる。
第二ヴァイオリンは動かないようだ。
チェロのチューニングが終わり次第、素早く楽器を構え、チェロのAの音に、ヴァイオリンのAの音を乗せる。
ヴィオラが動いたようだ。早々と楽器を鎖骨に置いておき、辺りを見回したり、晩御飯のことを考えたりする。そのうちチェロがチューニングを終えるので、チェロのAに、ヴィオラのAの音を乗せる。
「帰りにレストラン行こうぜ」
「いいね!」
「まだ練習もしてないんだけど、何言ってるんだ」
「早く始めるぞー」
〜チューニング3〜
部屋に無機質な音が響く。415ヘルツに合わせたAの音だ。
(なんか低い)
(なんか低い)
(なんか低い)
(なんか低い)
みんなの心が一つになった瞬間である。