絵師と時間 #1
「弟子にしてください」
そういったことはしていないのだと突っぱねた。こういったことを言われたのはたった一度ではない。無名の絵師だが、数回の申し込みは丁寧にお断りしてきた。
それでも一人だけ、しつこくつきまとい幾度も頭を下げる人物がいた。
私は、おそらく、この世界のための体を持っている異世界人だと思います。
私からすると、現実に当たる世界から、片足を突っ込んでしまったような状態のようで、転生でもなく、召喚でもなく、生まれてしまったようです。
また、名前も思い出せる気がするのですが、もやがかかって、夢が覚めてしまうような気分がするので、自分で名前を考えました。
「初めまして!ノボリツキ・サキです」
とりあえず、近くにおうちを見つけたので、一晩お世話になります。
「ああ、初めまして。こんな夜更けに…おひとりでいらしたんですか?」
「はい!気付いたら大きな泉のほとりにいて…迷ったみたいです!」
はきはきと言ってみました。反応はどうでしょう。
おどろいて、うろたえています。面白い人!でも、悪い人じゃなさそうなので、ご用事を言ってしまいましょうか。
「お宅に一晩泊まらせてください!お願いします。外が寒くって。倉庫でもどこでも構いません!」
いい人ならば、開いていそうな奥の部屋を使わせてくれるとは思いますが。
「そうですね。最近の夜は冷えます。奥に空き部屋があるのでそこで休んでもいいですよ」
「ありがとうございます」