元始の魔導士リリ #1
あたたかい昼の日の光を浴びて、丘の坂に寝転がる女性がいる。黒い色の体に布を一枚巻いて、顔には本を開いたまま乗せていて、くつろいでいるのが分かる。気がついたのか、女性は腕を本へと向かわせる。
「ん…?ああ、寝てしまったか…」
本を少し持ち上げて、目を陽の光に少しずつ慣らしていく。やわら起き上がると、本の栞を探して辺りを見回した。一つの木を囲むように隆起した丘が、きらりと陽の光を反射する栞を受け止めていた。
「良かった。風に飛ばされなくって…」
拾い上げた金属光沢のある栞が、持ち主の顔を映す。しっかりと開かれたたれ目がちな目。それが風になびく色素の薄い髪を、邪魔に思って瞬く。遠く、丘を登る小さな影が近づいている。
幼い手が白いドレスを持ち上げて、丘を駆けのぼる。丘の上から少女は、本を持った女性を見下ろして、叫ぶのだった。
「おねえちゃーん!こーこーに、いたー!!わ、あ、あっキャー」
少女はドレスのフリルを踏んづけてしまい、丘の上で体勢を崩す。
「あっ!」女性は走り出す。手を大きく、大きく広げて。
もうだめかと思ったその時、少女はあたたかいものに受け止められた。少女は白い羽毛に包まれている。
「あ、これは…」そっと、少女は羽毛の壁をなでる。
「わっ!くすぐったい」額に、髪の毛が触れて、少女は後ずさるように体勢を立て直す。白い翼は、素早く女性の背中に隠れた。
「あ、ありがとう、スカイお姉ちゃん」
スカイは困った顔をして笑い、自分より色素の薄い髪をなでた。
「リリが無事なら、よかった。怪我ないよね?」
土のついてしまった本の表紙を一瞥して背中に隠すスカイ。顔を少し赤らめたリリはドレスをつまんで示して言った。ツインテールが柔らかく揺れる。
「スカイお姉ちゃんのご本と私のドレス以外は無事だと思うの。
ごめんなさい…」
スカイは再び微笑んで、片手でリリを示す。
「本と服は、後できれいにしましょう。ご用事を先に教えて?」
「はい。私、家庭学習の時におっしゃっていた、光魔法の衝撃式のヒントをつかんだんです!半年もかかったから嬉しくって!」
はつらつと言いはなつなり、木に向かって走り出した。スカイは少女の側へ駆けだす。体を横に構え、左側に木を見て少女は立つ。手を銃のようにして、幹の横、ひらひらと舞う葉を狙う。
「…なにを…」「集中します!」
強く言い放ち、少女は沈黙する。
それは一瞬の出来事だった。シ、と妙な音を立てて数枚の木の葉と、小枝が刻まれた。ゾク、と戦慄したスカイは前のめりになって尋ねた。
「リリ、終わった?確認しても?」
少女は自慢気な顔で振り返った。
「どうぞ、先生!」
スカイは落下物を確認に走った。