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濁玉(ゴギョク)
それは世界が滅びる前の話。
深い、深い森の中、つつましく暮らす人々がおりました。
村を形成して、自給自足の生活をし、しばしば森の外から商人も来る。
その村には若い女の薬草師がおりました。あらゆる技を用い、どんな病も治してしまう。
尊敬されていた彼女は生活には困らなかった。
しかし、新しい薬が彼女の生活を圧迫する。新たな薬はたちどころに人々の抱える症状を消し去った。
そして、人々は彼女の薬には頼らなくなってしまった。
ある日、村の少年が死んだ。
彼の命の責任を問われ、薬草師は村を追われ、森へと逃げ込んだ。
彼女の無念を知る者はいない。ついに、彼女の命は森の中で果てた。
それから百数十年か経った頃、彼女の怨念におびき寄せられた怨霊が互いの無念を食らい、混じり、大きくなって一つになった。
今も彷徨い続けるそれは、彼女の記憶もあらゆる技もそのままに、よみがえった。
復讐を果たすべき村も、世界さえも滅びた世界で、あてもなく、それは漂い続ける。