第三章「猫と少女」
お久しぶりです、つよちーです。
約二ヶ月の間、第三章を制作していました。すごく時間が掛かってしまって申し訳ありません。
それでは「Eid 第三章」をどうぞ。
灰色の雲に覆われた雨の降るある日。一人の女の子を見つけた。同じ制服。傘もささずに彼女は雨に濡れながらただ何かをじっと見つめていた。後ろからそっと近付いて彼女が見ているものを眺める。そこにはダンボールの中に入っている生まれてからそれ程日が経っていない捨て猫が居た。
「何してるんだ?」
そう声をかけると彼女は驚いたように振り返った。そしてそっと猫に視線を戻し小さな声で
「どうするか悩んでるの....」
と言った。彼女の隣に座って彼女も濡れないように傘を傾けた。
「可哀想だよな....」
「そうだね....」
彼女はそっと子猫に手を差し伸べた。小さな猫はその手の温もりを感じたいかのように彼女の手に擦り寄ってきた。
「俺、こいつの面倒見るよ」
そう言って立ち上がると彼女は少し心配するような目で見つめた。その心配は猫に向けられたものだろう。傘を閉じてダンボールを持ち上げる。
「大丈夫なの?」
そう聞かれて首を縦に振る。そして彼女に別れを告げて雨の降る道を歩き出すと彼女は
「待って....!」
と呼び止めた。立ち止まり振り返る。
「名前....教えて」
少し戸惑いながらそう言う彼女にそっと微笑んで名を名乗った。
「鷹ヶ峰拓也。君は?」
「東雫」
「東さん、よろしくな」
そう言うと雫は小さく頷いた。そして拓也は再び歩き出した。両手が塞がって傘をさせないにで彼は雨に濡れながら家へ帰った。度々ダンボールから聞こえてくる子猫の鳴き声が少し寂しく感じた。
家に着いてネットで捨て猫について調べた。使わない毛布を少し大きめの箱の底に敷いて子猫をそこへ移動させる。甘い鳴き声を聞いて少し安心する。子猫を持ち上げて洗面所を向かう。お湯を出して子猫がびっくりしないように手でお湯をかけた。体全体をお湯で温めてシャンプーで洗い始めた。子猫は鳴きもせずただじっと体を洗われていた。人間慣れしているのか人懐っこいのか、子猫は一切の抵抗を見せなかった。これだと最低限の苦労で済みそうだ。汚れを落とし子猫をタオルに包む。そしてドライヤーで体を乾かした。箱の中に戻すと子猫は急に鳴き始めた。箱から顔を出して拓也に向かって必死に鳴く。
「なんだ、どうした?」
拓也は子猫をそっと持ち上げると鳴き止んだ。
「お前はこうしてる方が落ち着くのか?」
そっと子猫を撫でる。ふと時計に目をやるともうすぐ日付が変わる頃だった。拓也は溜め息を吐き夕飯を食べようとキッチンの棚からグラタンのインスタント食品を取り出した。レンジの中に入れて温める。その間に彼は子猫の名前を考えた。タマやミミなどありきたりな名前を浮かべたがどれもしっくりしない。そう悩み続けているとレンジがチンと音を立てて出来上がりを知らせた。レンジからグラタンを取り出して机の上に置いた。子猫を箱の中に戻すと再び鳴き始めた。どうしたものかと拓也は頭を抱える。その寂しさを訴えるような鳴き声を聞いていると胸が苦しくなるが、拓也はそれを我慢して食事を始めた。グラタンを頬張りながら、再び猫の名前を考える。が、猫の鳴き声でなかなか集中できない。スプーンを置いて猫のところへ行く。
「また抱っこしてほしいのか?」
そう言って鳴き続ける猫を抱えると素直に鳴き止んだ。椅子に座って猫を膝の上に乗せ、食事を再開した。すると猫はひょいと机の上に乗ってグラタンを食べ始めた。
「おい、勝手に食べちゃ駄目だぞ」
そう言って猫を抱えて膝の上に戻すと、また机の上に乗った。
「グラタンが欲しいのか?」
グラタンをスプーンで掬って息を吹きかけて冷まし小さな皿の上に乗せた。猫はそのグラタンを満足そうに頬張る。その瞬間、拓也は猫の名前を思いついた。
「お前の名前はグラにしよう。これからよろしくな」
そう言うと猫は心なしか嬉しそうに鳴いたような気がした。
窓から朝陽が射し込む。その光で目を覚ますと同時にグラの鳴き声も聞こえてきた。拓也の胸の上でずっと鳴いている。拓也が体を起こすとグラはベットから降りた。時計に目をやると登校時間の三十分程前だった。ベットから立ち上がり歯を磨く。グラはずっと拓也に着いて行き彼の側にいた。朝食を食べて拓也は制服に着替えた。その辺りで丁度登校時間になった。鞄を手に取り靴を履き替えて玄関の扉に手を掛けるとグラの鳴き声が耳に入った。
「行ってくるな」
そう言って扉を開けた。グラはずっと鳴いていた。拓也は足を止めてグラを見つめる。
「抱っこか?」
彼はグラをそっと抱えるとグラは鳴き止んだ。しばらく抱っこした後、床に降ろすと再び鳴き出した。拓也は溜め息を吐きしばらく悩んだ末、グラを学校へ連れて行くことにした。グラを抱えて扉を閉める。先生に怒られそうだと心配しながらいつも通りの通学路を歩いた。流石に堂々と学校へ連れ込むのはどうかと思い拓也は少し躊躇いながらもグラを鞄の中に隠した。バレないかハラハラしながら教室の席に着いてひたすら時間が過ぎるのを待った。しかし、時間が早く過ぎろと願ったときに限って時間の流れは遅くなる。拓也は緊張感に押し潰されそうになり机に突っ伏した。
気がつくと拓也は眠りについてしまった。やけに周りが騒がしいと思い顔を上げるとグラが机の上にいた。
「グラっ!?」
焦りながらそう言うとグラは鳴きながら拓也の頰に擦り寄ってきた。周りを見渡して状況を判断する。女子がグラを目当てに拓也の周りに集まっている。そしてグラは何故か鞄の外へ出ている。咄嗟にグラを抱えて鳴き止ませる。
「その猫可愛いー」
「何で学校に連れて来てるの?」
「私にも抱っこさせてー」
頭が混乱した拓也は咄嗟に立ち上がり
「ごめん!」
と一言だけ言ってその場から逃げ出した。校舎裏で頭を抱える。即効でバレて緊張感は無くなったものの、激しく後悔をした。しばらくすると放送で呼び出され、渋々拓也は職員室へグラを抱えて向かった。
「校内に猫を連れ込むとはどういうことかな?」
笑顔でそう言う担任の波原紗江に怯えて縮こまる。
「いや、本当すみません」
「言い訳だけは聞いてあげるよ?」
「その、昨日捨てられてたこいつを見つけてそれで面倒を見ようと思ったんですが、俺から離れるとずっと鳴くので、仕方なく....」
俯いてそう言う拓也に紗江は小さく笑って
「それなら事前に連絡してね。やむを得ない事情ならこっちも許可はするから」
と言った。その笑顔に少し安心したのか拓也は少し顔を上げた。
「は、はい」
「グラちゃんもちゃんと言うこと聞くんだよ?」
そう言って紗江は楽しそうにグラの頭を撫でた。グラは嬉しそうに鳴いた。拓也は紗江に礼を言って職員室を出た。グラの頭を撫でながら教室へ戻っていると、向こうに見覚えのある姿が見えた。東雫だ。後ろから肩を叩いて呼びかける。
「おはよう、東さん」
「鷹ヶ峰くん....」
小さな声でそう言うとグラを見て安堵したように微笑んだ。
「その猫、ちゃんと面倒見てるんだね」
「うん、グラって名前にした」
「グラちゃん、よろしくね」
そう言って彼女はグラの頭を撫で、グラもその手に擦り寄るように頭を擦った。
「病院には連れて行った?」
「まだ、今日連れて行く」
「そっか、病気ないといいね」
彼女の言う通り、捨て猫は何か病気を患っていることがよくあるとネットにも書いてあった。拓也はそれがないことを祈り、彼女のその言葉に同情した。
「そうだな....」
そう呟いたところでチャイムが鳴り響いた。もうすぐ授業が始まる。
「もう授業だな。またな」
手を振って教室に戻ろうとすると彼女は拓也の服の袖を掴んでそれを止めた。そして少し戸惑いながら
「私も行っていい?」
と言った。拓也は少し驚きながらも頷いてそれを承諾した。
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