表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Eid-アイト-  作者: つよちー
14/26

第二章「手を伸ばしても届かない」

お久しぶりです。つよちーです。今日から第二章を投稿していきます。主人公は第一章にも登場した徹と香の物語です。第二章は第一章の番外編という感じですね。なのでとても短いです。ではどうぞ。

中学の入学式、友達を作らないといけないのに、香は昔虐められていたトラウマのせいでなかなか踏み出せずにいた。周りの人達はみんな仲良くして友達ができているのに、彼女だけがずっと机に座ってじっとしていた。また虐められたくない、そんな感情が彼女の勇気を蝕む。気付けば時間は過ぎ、教室から人が消えた。香は臆病な自分を罵り独り寂しく教室を後にした。亮太は友達ができただろうか。ふと香はそう思い空を見上げた。こんなにも綺麗なのに、どうして荒んで見えるのだろう。満開の桜が風に煽られ花びらが散る。その様子はまるで彼女の傷付いた心のようだ。


何も行動に移せないまま時は過ぎ、香はどんどん周りから孤立していった。昔はよく香と一緒だった亮太も、部活で彼女と関わることがなくなった。毎日、孤独と隣り合わせ。そんな生活に耐えられる訳もなく、彼女は段々心を病んでいった。そんなある日、偶然亮太と会う機会があった。彼は昔のように彼女に陽気な笑顔が向ける。その笑顔が彼女には輝いて見えたようで、しばらく見惚れていた。

「どうした、香?」

「ううん、何でもない」

手を横に振って誤魔化す。亮太は特に気にせず香に話を始めた。

「クラス違うけど、どうだ?友達いっぱいできたか?」

何も知らない彼の笑顔が痛い。香は一瞬本当のことを言おうか迷ったが、嘘を吐いた。ここで彼に助けを求めるのは傲慢だろう。

「うん、沢山できた」

彼はそれが嘘だと気付いていた。彼女がずっと独りでいるのを、彼は知っていた。しかし彼は敢えて追求せず、彼女の言葉を信じた振りをした。

「そうか、よかったな」

少しだけ寂しさが混じった笑顔で微笑む。香はその寂しさを自分と一緒に居られないことによる寂しさだと勘違いし思い上がった。

「佐々木、ちょっと用があんだけど....」

突然彼に背後から見知らぬ男が声をかけた。その男は香の存在に気付くと話を中断した。

「お前、彼女いたのか?」

少し険しい表情でそう言う彼に亮太は可笑しく笑った。

「違うよ、幼馴染だよ。ついでに紹介するよ」

そう言うと亮太は香の背中を優しく叩いた。

「こいつは、高嶺香。んであいつは佐藤徹」

徹は少し戸惑いがちに香に会釈をした。彼女も同じく会釈をした。

「二人共仲良くしてやってくれよな」

二人の背中を叩いて嬉しそうに笑う亮太。これが、香と徹の出会いだった。


「あ....」

「高嶺....さん」

廊下でばったり徹と会ってしまった。気不味さに目を逸らす。徹は少し戸惑いながらも香に笑って挨拶をした。

「おはよ」

香もそれに釣られて少し笑って挨拶を返した。

「うん、おはよ」

そしてまた沈黙が生まれる。徹はその沈黙を破る様に彼女の名前を呼んだ。

「高嶺さん....!」

「な、なに....?」

少し驚いた彼女を見て徹は気を取り直すように咳払いをした。

「亮太とは....長い付き合いなのか?」

「うん、小学校からずっと一緒」

「そうなのか....」

それを聞き徹は少しいじらしい笑顔で彼女に

「じゃああいつのこと好きとか....?」

と言うと香は顔を真っ赤にして俯いた。

「え....マジで....」

彼女は恥ずかしそうに徹から顔を逸らした。

「え、えっと俺は応援するぜ....!が、頑張れよ....っ!」

拳を握って彼女に焦りながらそう言う。香は何も言わずにただ頷いた。

「....なんか、ごめん」

申し訳ない気持ちになり徹は彼女に謝った。彼女は首を横に振って

「謝ることないよ....事実なんだし....」

と言った。冷静を取り戻していたが顔はまだ赤いままだった。


「私さ、隣のクラスの佐々木亮太って人が気になるんだよねー」

平凡な休み時間にふと香はその話を聞いた。その話をしていたのはクラスで目立つ傘波静香(かさなみしずか)だ。盗み聞きしたつもりはない。堂々と話しているのだから。香は溜息を吐いて勝手に静香に呆れを抱いた。まるで周りの女子に彼は自分の物だから手を出すなと忠告しているかのようだった。机に顔を伏せて目を閉じる。

「香〜」

聞き覚えのある声が彼女の名を呼んだ。顔を上げると、思った通り亮太が教室の外から香を呼んでいた。彼女はゆっくりと立ち上がり彼の元へ向かう。

「どうしたの?」

「今度さ、久しぶりに一緒に遊ぼうぜ。部活もしばらく休みだし」

香はそれを聞いて嬉しい気持ちに満たされたがその気持ちを表に出さないように抑えた。背後から刺さる静香の視線が痛い。香は苦く笑って

「気持ちは嬉しいけど、ちょっと都合が悪くて無理なんだ....」

と言った。亮太は少し驚いた後に寂しく笑った。

「そっか....残念だなぁ....」

「ごめんね」

「謝らなくていいよ。仕方ねえし」

亮太は彼女の頭を軽く叩いてその場を去った。香はその場で呆然とし、しばらくしたところで席についた。案の定、静香は香のことを睨みつける訳ではないが、良い印象を抱くような目で見ていなかった。彼女はそれから目を逸らし顔を伏せた。


「ねえねえ高嶺さん」

突然静香に声を掛けられたが、香は無愛想に彼女の方を向いた。

「なに?」

「佐々木くんと仲良さそうだけど、もしかして付き合ってるの?」

下らない事を聞くなと香は内心呆れながらも首を横に振った。

「ううん、ただの幼馴染だよ」

「そっかぁ....」

安堵したような表情で笑う。その笑顔を香は不愉快に感じた。

「それだけ、じゃあね」

それ以外は興味ないかのように颯爽と香の元から去った。彼女を強く睨みつける。

「亮太は私のものなんだから」

小さな声でそう呟いた。自分の事しか考えていない自己中心的な人間は香が一番嫌いな人間だった。香は溜息を吐いて机に突っ伏す。それから香は度々あの女子が亮太と一緒に居るのを見かけた。その度に強い嫉妬心を抱く。言葉にできない悔しさが彼女の心を包み込んだ。

「ねえねえ、最近佐々木くんとはどうなの?」

「結構良い感じだよー」

「本当に?じゃあもう告っちゃいなよ」

「そうしよっかなー」

陽気に話す彼女らの会話は香にとってただの雑音でしかなかった。亮太は誰とも付き合わない。誰のことも受け入れない。彼女はそれを酷く理解していた。だから静香達が陽気に話すことは全て夢物語に過ぎないのだ。だが、それでも、香が静香に嫉妬していることは確かだった。

「じゃあちょっと佐々木くんのとこ行ってくる」

静香はそう言って教室を出て行った。途中で香と目が合ったがすぐに逸らした。


掃除当番でゴミを捨てに行く途中、偶然見かけてしまった。静香が亮太に告白するところを。咄嗟に隠れて何故かその一部始終を見ていた。

「私、佐々木くんのことが好きです!付き合ってください....!」

彼女の緊張を思わず感じ取ってしまい、香も胸をドキドキさせていた。亮太は顔を赤くして照れ臭く笑った。しかしその赤面もすぐに消えた。

「ありがとう、気持ちは嬉しいけど....傘波さんとは付き合えないよ」

静香はあまりのことに驚きを隠せなかった。しばらく沈黙が生まれる。

「どうして....?」

顔が見えなくても、今にも泣きそうなのは声でわかった。しばらく沈黙が続き香はその場を離れようと足を動かした瞬間、静香の嫉妬に包まれた重い声が耳に響いた。

「高嶺さんがいるから....?」

香は足を止めてそれをただ黙って聞いた。亮太は首を横に振って

「違う、香は関係ない」

と言った。それでも静香は食い下がらずに問い続ける。

「名前で呼び合ってるし、恋人同士ですることだってしてるじゃん....!」

「俺がそうしてるだけで恋人じゃないよ。あいつはただの幼馴染」

「嘘つかないで....本当のこと言ってよ」

「嘘じゃない....」

街に響く環境音は、何故かこの時だけ騒々しく聞こえた。亮太は優しく笑いながらも、その笑みには罪悪感があった。

「恋愛とかしたくないんだ。だから傘波さんとは付き合えない....ごめん」

静香は小さく泣きそして亮太に悲しい笑みを浮かべながら

「謝らなくていいよ。気持ち伝えれてよかった。ありがとう....変なこと聞いてごめん」

と言い残しその場を去って行った。亮太は溜め息を吐き颯爽と歩き出す。そして香と鉢合わせてしまった。

「香....いつからいたんだ?」

「ごめん....盗み聞きするつもりはなかったんだけど....」

「....そうか、じゃあさっさとその仕事済ませないとな」

そう言って亮太は香が持つゴミ袋を手に取りゴミ処理場に置いた。香はふいに彼にこう質問した。

「亮太にとって、私はただの幼馴染なの?」

期待と共に恐怖を感じる。葛藤を生む質問の答えを彼女は待ち続けた。亮太は苦く笑って

「大事な幼馴染だよ」

と言った。それには恋愛感情など一切ないことに香はすぐに気付いてしまった。香は足を止めて亮太をじっと見つめる。

「用事あるの忘れてた。先帰ってて」

「そうか....」

亮太は少し寂しい笑顔を浮かべて香に手を振った。

「じゃあな」

「うん、バイバイ」

去っていく彼を香は見えなくなるまで眺めた。叶わない恋かもしれない。今、想いを伝えたらきっと元には戻れない。そうなるくらいなら、伝えない方がいい。香はそう思い、胸を苦しくする。涙を抑えられずそのまま蹲り静かに泣き出した。

「何やってんだ?」

突然後ろから声をかけられ香は驚いた。振り返るとそこには徹がいた。涙を流す彼女を見て驚く。

「ど、どうした....?」

何故か徹にことを見るとより一層涙が溢れてきた。顔を伏せて彼に見えないようにする。涙を何度も拭っても止まらず服の袖がどんどん涙で濡れていく。徹はただ何も言わず彼女に側に寄り添った。子供のように泣く彼女の背中を躊躇しながらも優しく摩った。

「何があったかわかねえけど....とりあえず泣き止めよ....」

「できないよっ....涙が止まらないもんっ」

放課後の校舎裏で彼女の泣き声が静かに響いた。これが彼女の恋の一つの挫折。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

中学生の頃の香の話でした。幼い頃からずっと恋していた分、亮太が奈美へ好意を抱いたときのショックは相当大きいものだったでしょう。

感想や指摘など頂くと嬉しいです。

続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。


これらに登場する人物、地域、団体は全てフィクションです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ