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Eid-アイト-  作者: つよちー
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第一章「愛の誓い」

【前回のあらすじ】

体に負担をかけすぎた奈美は倒れてしまい、入院することになった。亮太は彼女を独りにしないと決意したが、彼女の病状が悪化し、昏睡状態に陥った。

暗い分厚い雲が空を覆いやがて大雨を降らす。騒がしい雨音を鳴らし街を濡らす。そんな中、亮太は傘をささずに雨に打たれながら歩いていた。奈美はあの後、昏睡状態に陥った。いつ目を覚ますのかわからない。見えない希望に縋り付くくらいなら、いっそのこと捨ててしまう方がいい。そう思いながらも、亮太は奈美のことを忘れられなかった。街には何日も雨が降った。まるで彼の悲しみを表すかのように。家に着き扉を開ける。家は静かだった。体から滴る雨が地面に落ちる。その音が亮太には煩く響いた。濡れた服を脱いでタオルで体を拭く。何もできない現実を悔やみ、亮太は堪え切れずにそのタオルを投げ飛ばした。

「どうして....こんなことになったんだよ」

どうしようもない悔しい気持ちをただ吐き出す。心が苦しくなり、彼は情けなく泣き出した。嗚咽を必死に堪えながら肩を震わせて泣く。溢れる涙が雨のように流れていく。静寂に包み込まれた家に、彼の小さな泣き声は広く響き渡った。


それから亮太は、事故に遭って左手が動かなくなった時のように周りの人間との関わりを断ち切った。誰にも話しかけず、話しかけられず、死人のような目で毎日を過ごしていた。病院には行かず、家に着いたら部屋でただ寝る。それの繰り返しだった。彼の両親はそんな彼を心配していたが、彼はそんなことに目もくれず死んでいるように生きていた。そんなある日、香と徹が彼の家を訪ねた。丁度その日、彼の母は仕事が休みで家に居た。彼の母に入れてもらい二人は亮太の部屋に入った。二人はその瞬間に言葉も出ない程に固まった。部屋はゴミが散乱して汚くなっていた。そんな部屋のベットに亮太は眠っていた。二人は彼を起こさずに散乱したゴミを片付けようとした瞬間

「出て行ってくれ」

と亮太が言った。

「なんだ、起きてたのか。こんな汚い部屋じゃ気持ち悪いだろ?」

「私たちが片付けるよ」

苦い笑顔を浮かべながらそう言う二人に亮太は怒鳴った。

「さっさと帰れよ!」

それを聞いた瞬間、香は泣き出しそうになった。徹が彼女の背中を宥めて落ち着かせる。

「悪かった....また今度来るよ」

そう言い二人は静かに出て行った。心を病み完全に心を閉ざした彼は、遂に学校にも行かなくなってしまった。


目を覚ますと、聞きなれない声が聞こえてくる。蓮が亮太の体を揺さぶっていた。亮太は何も言わずにそっと体を起こした。

「亮太、旅行行くぞ」

唐突な言葉に亮太は驚きを隠せなかった。

「え?」

「拒否権はなしだ」

そう言って蓮は笑った。亮太はしばらく唖然としていたが、大人しく彼の言う事を聞き支度をした。亮太の母には蓮があらかじめ説明をしていたので、準備をしてくれた。荷物が入った鞄を持ち亮太は家を出た。何週間ぶりの外出だった。家の前に車が止まってあり、後部座席に荷物を置くと、蓮は車に乗り込んだ。亮太も隣に乗りシートベルトを締めた。車が発進すると、登坂山からどんどん離れていく。窓の景色を渋々眺めていると蓮は亮太に行き先を行った。

「今から行くとこは俺と春香の地元だ。綺麗な街だ、きっとお前も気にいるさ。奈美は既に何度か行ってるけどな」


気付かぬ内に亮太は寝入ってしまった。目を覚ますと、丁度車を駐車場に停めるとこだった。

「着いたぞ」

シートベルトを外しドアを開ける。全く知らない土地に着いていた。一体ここはどこだろうと亮太はしばらく辺りを見渡していた。

「こっちだ」

鞄を背負って蓮に着いていく。空は快晴でとても綺麗な青色だった。風が心地よく、亮太はその気持ち良さに慕っていた。

「着いたぞ」

前を見ると少し大きな家。表札には琴原という苗字が書かれていた。

「ここは春香の実家だ。あいつは先に中で待ってる」

玄関の扉を開けると、春香が二人を出迎えてくれた。

「ようこそ、亮太くん」

「....どうも」

小さな声で挨拶をする。廊下の奥から見知らぬ人が顔を出した。少し老けているがそれでも綺麗な顔立ちをした女性だ。

「彼女は早苗さんで、春香の母親だ」

早苗は亮太に向かってにっこり笑って会釈をした。亮太も会釈を返す。

「さ、ご飯にしよっか」

手を叩いて春香は嬉しそうにそう言った。


食事を終えると春香は亮太の耳元で

「後で私とお散歩しよ」

と囁いた。亮太は頷いて了承した。食器を片付け終えると春香は亮太の背中を押す。

「さーさーいきましょー!」

陽気な彼女に着いていけずに困惑する亮太にお構いなく春香は亮太を連れて家を出た。しばらく歩くと街の全体を眺められる少し大きな丘の頂上に着いた。何か話でもするのかと亮太は春香の方を見た。彼女は愛おしい表情でその風景を眺めていた。亮太も同じくその風景を眺めた。丁度綺麗な夕焼けで街は赤く染められていた。風は少し強く、春香の長い髪をゆらゆらと靡かせる。

「ここでね、蓮くんに告白されたんだ」

彼女の話を亮太はただ黙って聞いていた。

「それからはすごく幸せだった。亮太くんと奈美が幸せそうにしてるみたいにね。それでね、私は事故に遭ったの。トラックに轢かれて頭を強く打って、その後遺症で記憶喪失になったんだ。そのせいで蓮くんのことを忘れちゃったんだ。そのときの辛さは、本当に想像も出来ないほど苦しいものなんだろうって思う。それでも蓮くんは、私の側に居てくれた」

彼女は振り返り亮太を見つめた。その瞳には涙が浮かんでいた。

「奈美も....亮太くんが側に居てほしいって思ってるんだよ。あの子が大好きな君に。私からもお願いするよ。あの子の側にずっと居てください」

そう言って彼女は頭を下げた。亮太は咄嗟に彼女に頭を上げさせた。

「そんな深々とお願いしなくても、大丈夫ですよ」

優しい声でそう言う亮太に春香は嬉しそうに笑った。

「ありがとう、あの子をよろしくね」

亮太は奈美の言葉を思い出した。

『もう独りは嫌....どこにもいかないで....っ』

そうだ、奈美は孤独に怯えているんだ。俺が彼女を支えてやらないといけない。なのに俺は一体何をしていたんだろうか。本当に馬鹿だな。彼女を独りにさせない。俺がずっと側に居ないといけないんだ。亮太はそう決心した。ここは奈美の生まれ故郷。彼女が生まれた街で亮太は空を見上げた。夕陽は沈み、星々が顔を出していた。綺麗な夜空を見上げ亮太は深く息を吸い込んだ。

「俺が守ってやるんだ」

そう呟く亮太を見て、春香は昔の蓮と重ねた。


学校が終わると亮太は香の元へ行く。

「奈美の見舞いに行こうぜ」

「うん」

香は嬉しそうに笑って亮太について行った。徹も後から続き、三人で奈美の見舞いへ向かった。病室の扉を開けると、静かに眠る奈美がいた。

「奈美、今日も来たぞ」

亮太はそっと奈美の頭を撫でる。安らかに眠る彼女を優しく見つめる。心なしか嬉しそうに笑った気がした。

「私たちも来てるよー」

香も陽気に奈美にそう言う。楽しい日常が元に戻った。そして月日は流れ、季節は何度も巡り卒業式を迎える。本来いるべき奈美の存在を惜しみながらも、亮太は胸を張って卒業した。

「卒業だねぇ」

少し寂しそうに呟く香。

「奈美は目を覚まさなかったけど、それでも俺は彼女の側に居続ける」

桜が吹く季節に亮太は空を見上げた。奈美の卒業証書を手に持ち、香に別れを告げた。奈美にこれを渡すために病院へ向かう。病室を開けると、いつもと変わらない景色。目を覚ましている期待を微かに抱く自分に笑いながら彼女の手に卒業証書を握らせた。

「卒業おめでとう、奈美....」

そう言って奈美の髪を上げてそっと額にキスをした。奈美の頭を優しく撫でる。彼女がいつか目を覚ますまで、彼女の側にずっと居続ける。彼はそう思い眠る彼女の額にそっとキスをした。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

今回で第一章は完結です。

過去作のキャラを出すのは非常に面白かったですね。今まで書かなかったことを書いてみたりと、いろいろ挑戦してみました。奈美は目を覚ましませんでしたが、それは決して悪いことではないです。この苦しみを乗り越え、二人の誓いは更に強くなっていくでしょう。

感想や指摘など頂くと嬉しいです。

続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。

(第二章の製作によってしばらくお休みさせて頂きます)


これらに登場する人物、地域、団体は全てフィクションです。

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