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Eid-アイト-  作者: つよちー
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第一章「束の間の幸福」

【前回のあらすじ】

恋人になった亮太と奈美は、思春期特有の性に対しての好奇心に彼らは身体を交わそうとしたが、春香に見つかり止められてしまった。

目を覚ますと奈美が隣で寝ていた。亮太を抱き締めたまま離さずに。あれから眠くなって二人は昼寝をしていた。抱きつく彼女の腕を解こうとするが、彼女は寝たまま抵抗する。仕方なくそのまま彼女が目を覚ますまで待った。奈美の寝顔は可愛らしく、それを見た亮太は少し罪悪感を覚え見えないように目を閉じた。しばらくすると彼女は目を覚ました。眠たそうに目を擦る。

「....あ、亮太」

「ぐっすり寝てたね」

意識がはっきりとした奈美は状況を把握する。そして亮太を抱き締めていることに気付き顔を真っ赤にする。

「ご、ごめん....」

咄嗟に謝って奈美は絡めている腕を解き亮太から離れた。

「別に恋人同士なんだから....いいんじゃないかな」

亮太は恥ずかしさを感じながらもそう言うと奈美はもう一度亮太を抱き締めた。互いの体温が感じるくらい密着した。

「な、奈美さん....」

「....なに?」

「抱きつくのはいいんだけど....さすがにくっつきすぎじゃないかな...」

苦笑いしながらそう言うと、奈美は自分の胸が彼の体に触れていることに気付いた。その瞬間、顔を真っ赤にしてまた咄嗟に離れた。

「ごめんなさい!」

遂に恥ずかしさに耐え切れず逃げ出すように部屋を出て行った。


時間も遅くなり亮太は帰ることにした。春香は途中から雨が降ると言って彼に傘を渡した。奈美も見送りをするために自分の傘を取って亮太と一緒に家を出た。そして手を繋ぎ隣に並んで歩き始めた。しばらく歩いていると、春香が言った通りに雨が降ってきた。亮太は傘を開いて上に掲げる。すると奈美が彼にくっついてきた。

「私、相合傘してみたかったんだ」

無邪気な子供のような笑顔を浮かべる。亮太はそれを見て微笑んだ。香を泣かせたあの日も雨は、嫌いだった。でも、この雨は好きだ。湿ってじめじめして薄暗くて気持ちがどんよりするのに、今はそんなことはない。雨の一粒が輝いて見える。亮太はそう思い奈美が濡れないように傘を握っていた。傘の影で暗くなった彼女の顔は赤く染まっていた。しばらく歩いていると、遂に彼女と別れるところに来てしまった。

「じゃあ俺はこれで、気をつけてな」

「うん、亮太もね」

奈美は持って来た傘を開いて亮太の傘の影から出る。

「またね」

「ああ、またな」

手を振って彼女に背中を向け歩き出す。恋人が出来て嬉しい。こんなにも幸せで、もう何も欲しがる必要なんてない。彼女さえいればやっていける。亮太はそう思ってそっと微笑んだ。そして歩みを止め彼女の姿を見ようとゆっくりと後ろを振り返った。目に映ったのは、倒れて動かなくなった奈美。手に持っていた傘を落とし、亮太は咄嗟に走り出した。そして奈美を揺さぶる。

「奈美!奈美っ!!!」

名前を呼んでも返事がない。涙が溢れてきたが、雨と混じって彼は気付かなかった。雨に打たれながら彼女の名を無我夢中に叫んでいた。その声は、雨が降る街に酷く響いた。


病院の待合室で、亮太は落ち着かない様子で待っていた。息が楽に出来ず呼吸が荒くなる。少し時間が経ったところで待合室の扉が開き、春香と蓮が入ってきた。

「奈美は....?」

蓮は椅子に座り、深く息を吸った。

「あいつは大丈夫だ。今は眠っているだけで何の問題もない」

それを聞いた瞬間、亮太は大きく安堵した。

「でも念の為にしばらく入院する。お前と出会って学校に登校するようになったからな。多分無理をしていたんだろうな」

体に無理をしながらも自分に会おうとする彼女の気持ちを考えると、亮太は今にも泣き出しそうになった。

「あいつはずっと体が弱いことを気に病んでたんだ。だから、今のあいつをお前が支えてやってくれ」

蓮がそう言うと春香も頷いた。亮太は了承の返事をする。それを聞いた二人は部屋を出て行った。俯き、沈んだ気持ちを落ち着かせる。しばらく休んだ後、亮太は奈美が眠る病室へ入った。殺風景な部屋にベットがあり、そこで奈美は眠っていた。早く目を覚ましてくれ、そう思い亮太は彼女の手を握る。蓮の言葉を思い出す。

「俺はお前から絶対離れないから....」

彼女の手をより一層強く握る。気が付けば消灯時間になり、看護師の人が部屋に入ってきた。

「もう消灯時間なのでお帰りください」

「....わかりました」

そう言って亮太は奈美の手を離した。荷物を持ち病室を出る。夜の病院は、最低限の明かりしかなく、薄暗くて少し気味が悪かった。


目を覚ますと見知らぬ部屋の天井が映る。奈美は体を起こして辺りを見渡す。窓から射し込む月の光が真っ暗な部屋を小さく照らす。不安と孤独感が彼女の心を蝕み、それに耐え切れず彼女は泣き出した。

「亮太ぁ....うっ....亮太....」

助けを求めるように彼の名前を呼ぶ。暗い部屋に独りなのは心細くて、頼りなくてどうしようもない。服の袖で涙を拭っても、涙はどんどん溢れて止まらない。

「奈美....」

誰かが彼女の名を呼んだ。奈美は嗚咽しながら声の主を探る。扉の向こうに亮太がいた。奈美はベットから立ち上がり、躓いて転びそうになりながら彼に抱き着いた。

「亮太ぁ....!」

子供のように泣き噦る彼女を見て、亮太は心が苦しくなった。彼女を包み込むように抱き締める。

「もう独りは嫌....どこにもいかないで....っ」

「俺は何処にもいかない。ずっとお前の側にいる」

嗚咽して肩を震わせる奈美を、亮太は強く抱き締めた。小さく泣く彼女を切なく感じる。小さくてか弱い体を、彼は離さない。孤独に苦しむ彼女をもう独りにはしない。

「ほら、もう寝よう。奈美が眠るまでずっと側にいるから」

優しい声でそう言った亮太に奈美は小さく頷いた。ゆっくりベットに寝転んで布団を被る。亮太は彼女の手を握り締めて隣で座って見守っていた。

「明日、お見舞いに来てくれる?」

「もちろん、出来るだけ早く来れるようにするよ」

そう言うと彼女は嬉しそうに小さく笑った。亮太は彼女の額にそっとキスをした。安心した奈美は目を閉じて眠りにつく。


それから亮太は毎日病院へ通った。殆どの時間を、彼女と共にしていた。消灯時間を過ぎても病室にいることが大半で、睡眠不足になりながらも亮太は彼女の側にいた。そして今日は香たちも見舞いに来てくれる。先に病室で彼女と待っていると、二人は病室に入って来た。

「加藤さん、大丈夫?」

少し不安な表情を浮かべてそう問いかける香に、奈美は優しく微笑んで頷いた。香の後に続いて入ってきた徹を首を傾げて見る。

「この人は....?」

「佐藤徹、俺の親友で、香の恋人だ」

「よろしく加藤さん」

「こちらこそよろしくね、佐藤くん」

しばらく駄弁った後に亮太は徹と共に香と奈美を病室に残して病室を出た。

「本当に大丈夫なのか?」

扉を閉めた瞬間、徹がそう亮太に質問した。亮太は頷いた。それを見て徹は安堵の溜息を吐いた。

「そうか....よかったな」

「今の所順調に回復してる。退院のことも考えてるところだ」

そう言って亮太は退院してからのことを想像していた。いろんなことを彼女と一緒にしたいと考える。そして彼は不意に笑みをこぼした。早く退院すればいいのに、そう思いながら亮太は病室の扉を開けた。

「加藤さん!」

その瞬間中から香の叫び声が聞こえてきた。亮太は驚き何事かと思い扉を開ける。目に飛び込んできたのは、吐血をする奈美の姿。どうすればいいのかと焦る香の姿。亮太は呼び出しのボタンを押して奈美の元へ走った。

「奈美!!」

苦しそうに吐血する奈美に亮太は必死に名前を叫んでいた。血に染まった手で亮太に手を差し伸べる。弱々しく震える手を亮太は掴んだ。

「大丈夫だ!絶対に大丈夫だ!」

根拠もないことを彼は必死に叫んだ。奈美はそっと亮太の手を握り返す。そしてそのまま気を失った。

「奈美!!おい奈美っ!!」

彼女の名前を叫び涙を流す。そして彼女に縋り付いて泣き出した。情けない声で泣き叫ぶ。そのすぐ後に医師が病室に入って来た。彼女に縋り付く亮太を徹は離して必死に彼を抑えた。奈美はそのまま緊急手術室へ運ばれていった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

大切な人を失う恐怖は、僕には想像できないものです。

感想や指摘など頂くと嬉しいです。

続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。


これらに登場する人物、地域、団体は全てフィクションです。

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