はじめましては突然に
「は?」
口から出たのはそれだけだった。
それが後々後悔すべきことになるなんて思わないし、娘のイタズラだと思ったのだ。
***
これはそれ程昔でも無い昔のお話。
しっかりしてたはずなのにうっかりミスでヒロインになっちゃうシングルマザーのお話。
賢い可愛いママさんはお昼は会社でテキパキ仕事。
でも夜になると悪い敵と戦う素敵なヒロイン。
そんな真面目だけどうっかりさんなヒロインのお話です…。
***
「じゃあね」
常盤翠に小さく手を振り曲がり角を曲がった。
するとすぐそこに幼女が居て、ぶつかりそうになる。
「おっとと…ごめんね」
咄嗟に謝ると幼女から意外な一言が出た。
「スーパーヒロインに、なってくださいっ!」
「はぁ?スーパーヒロイン?」
鳩羽あやめは怪訝な顔をした。
おそらく悪い夢だと自分に言い聞かせ幼女を避ける。
「まってくださいよぉ!」
そうだ。こんな可愛い女の子に声をかけられる筈がない。
そう思い足を早める。
しかしあやめも結構可愛い方で、濃藍の髪をツインテールにしている。
吊り目だが瞳は紫根色で美しい。
吊り目ということでいじめられたことがありあやめはコンプレックスに思っているが、透明感もあり綺麗な色だった。
「私はシルヴィ。シルヴィ・ミネルヴァ。あなたを導く者です…!」
幼女…もといシルヴィは必死に訴えてきている。
…少しくらい、話を聞こうか。
***
「ヒロイン?世界を救う?何言ってるのよ」
そう声を上げたのは鳩羽すみれ。
シングルマザーだがキャリアウーマンとして働いており、娘への愛情が疎かにはなっていたかもしれない。
だからってこんな嘘で気を引こうとするとは…
すみれは深い溜息をついた。
「あやめ?お母さん忙しいの。そんな冗談いらないから、さっさと寝なさい」
適当にあしらおう。
ここまでは正解だった。
だが、次の一言は…
***
「後継者を探しているのです」
シルヴィは必死に説明する。
ごっこ遊びの話だろうか。
そう思った瞬間シルヴィはキッと睨みつけてきた。
「ごっこ遊びじゃありません!」
あやめは驚いた。心を読まれでもしたのだろうか。
「何を驚いているのですか?私は女神の娘。それくらい簡単です!なーんでも分かりますからねっ!」
シルヴィはふふん、と胸を張った。
「なら、私の名前は?」
あやめは意地悪な質問をする。
分からないだろう。
「んーと…」
シルヴィは考え込んでいる。あやめは分からないな、とほくそ笑んだ。
「あやめさんですよね?」
笑みが凍りつく。
「鳩羽あやめ。16歳ですね。」
今度はシルヴィがにっこりと笑みを浮かべた。
***
「でも、お母さん…!」
娘はどうしても遊びたいようだ。
しかしそんな時間はない。
だからって、あんなこと言っちゃいけなかったのだ。
だがもう、遅い。
「そんなのお母さんが適当にやってあげるから、寝なさい!」
そう言った瞬間辺りが輝いた。
「あなたが、時期ヒロインルピナスなのですね…?」
いつの間にか居た幼女が微笑んでくる。
その子はどこか神秘的で、儚い、不気味な美しさを放っていた。
「なに、あな、た。。。誰、よ?」
その雰囲気に圧倒され思わずどもる。
幼女は聖母のような、イタズラがバレた子どものような笑みを浮かべた。
「やはり親子は似るものですね」
羨ましい、と悲しげに呟く。
「私はシルヴィ。シルヴィ・ミネルヴァ。あなたを導くものです…!」
次回!スーパヒロイン、オリーブ登場!
オリーブはあやめの知ってるあの人で…!?