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鍛冶屋(仮)

「ここは?」


目を覚ますと、そこには首都とはまた違った雰囲気を放つレンガが広がっていた。端的に言えば汚かった。埃こそ落ちては来ないが、薄汚れていて心地よい睡眠など期待できる状況ではなかった。そもそもここがどこかわからない現状で寝る気など微塵もしないのだが。

いつまでも天井の染みを数えていても仕方がない。体を起こしてみて驚いた。お世辞にも整っているとは言い難いが部屋中に立て掛けられた様々な剣が自分の目を奪ったのだ。竹刀だけをひたすらに振ってきたがそれは他の剣に対して興味を無くすものなどではなく、むしろ剣技を磨いてきた自分にとって、それらの剣は余りにも魅力的だった。それゆえに、まぬけにもベッドから這い出ようとするときまで足元で眠る少女に気がつかなかった。自分を看病してくれていたのだろうか。ベタにも水の入った桶と濡らしたであろう布を手に持ちながらそのまま力尽き眠ってしまっていた。可愛らしく柔らかい寝顔の少女は不格好な繋ぎを着ていた。このままでは寝苦しいだろうと思い少女をベッドに寝かせようと手を伸ばしたとき、扉の方から声が聞こえた。


「目が覚めたの?」


自分を案じているような言葉とは裏腹に体の芯まで凍りつくような殺気に咄嗟に手を引っ込める。目の前の親しみのある少女とはまったく反対の鋭利なナイフのようなするどい目付きの女性がこちらを睨んでいた。


「あぁ、すまない。主に言われて助けてはみたが、まだお前が何者かなんてわからない。正直少し警戒しているんだ。」


「少し!?少しなもんか!殺気が尋常じゃなかったぞ。」


殺しあったあの魔術師ですらここまでの純度の殺気を放ってはいなかった。だが、助けてもらった相手にこんな接し方をされてはどう対応していいのやらわからない。


「助けてもらったことは感謝してる。ありがとう。」


とりあえず、自分の気持ちを口にしてみることにした。


「俺は命令されただけだ。確かにお前を担ぐのは骨を折ったがな。それにいきなりだったので警戒はしたが、こんなところで主を襲う意味もあるまい。」


少し穏やかになる彼女の顔つき。左右の目の色が違うということにすら気がつかないほど恐れていたか。安心して気が緩んだと同時に一つ疑問が浮びあがる。肩にかからない程度の長さの黒髪にジーパンのような生地の短パンを履き腰辺りまでの丈の真っ赤なコートを着込んだ派手な格好のあいつは女性のような声で俺と言った。果たして男なのか女なのか。


「お前、男なのか女なのかどっちなんだ?」


素直に口に出してみるとほぼ同時に眉間に銃口が向けられていることに気がついた。数m先に立っていたあいつが反応すらできない早さで目の前に移動し青筋をたてながらこういった。


「おい、一回目は許すが俺は女だ。それともお前は無駄な脂肪がなけりゃ女と認められない痛風野郎なのか?」


「イイエ、ソンナコトハアリマセン。」


今にも引き金を引いてしまいそうな‘彼女’に圧倒されて片言ながら反射的に謝罪した。


「ん?もう朝??」


明らかに場違いな声が足元から聞こえた。


「あら目が覚めたのね。ってアル!!」


即時に銃を隠し何事もなかったかのように離れていくアルとやら。


「仲良くしてくれるのはいいのだけれど喧嘩はダメよ?」


どうやら少し抜けているらしい。一方的に銃口を突きつけられているのを少なくとも別世界あっちでは喧嘩とは呼ばない。


「私はクイナっていうの。こちらはアルテミス。なんだか仰々しいからアルって呼んでるわ。」


「俺は…カナトと言います。」


「あら、それだけかしら?こんな町の入り口で倒れていた理由を教えてもらいたいのだけれど。それは食事の後にでもしましょうか!」


少女はルンルン気分で部屋をでて料理の準備に取りかかりに行った。部屋から出たのを確認したアルテミスが静かにこちらに近付いてくる。先ほどの続きか?と思い少し身構えると、彼女は耳元でこう呟いた。


「お前、料理できないか…?」


「は?」


思わず間抜けな声がでる。


「主は犯罪的なほど料理が下手でな…兵器としちゃ一流だが肉や野菜を使って劇物ばかり作られたんじゃたまらない。そこでだ。張り切ってる主をなんとか厨房から連れ出すから料理を作っておいてくれると助かるんだが…」


先ほどまでの彼女とはまるで別人の、すぐにでも泣き出してしまいそうなアルテミスがそこには居た。



「きゃっ!」


少女の悲鳴が厨房から聞こえる。アルテミスは瞬時に部屋を出ると厨房には切った野菜が散らばっているだけでそこに少女の

姿はなかった。


「クラウンめ…」


アルテミスは先ほどまでの自分に向けていたものとは比べ物にならない殺気を出しながら家の外へとかけていく。

寂れた家と家の隙間を駆けていく馬車を見つけるや否や、彼女は手に取ったライフルの引き金をひいた。数百メートル先にある敵の足を寸分狂わぬ撃ち抜くはずの銃弾は一つの影によって阻止された。


「私、今苛立っているんだ。あなたが遊んでくれるの?」


10歳程度の見た目の少女は長い袖の和服から出た手のひらでアルテミスの銃弾を遊ばせていた。


「奇遇だな。俺も今最高に最低の気分なんだ。お前で気分転換してから主を取り戻しにいかせてもらおうか。」


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