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剣技対魔術

見渡す限りのレンガ通り。活気があり人で溢れかえっている。果物を売る店から武器屋まで、少し裏の通りではなにか怪しげな店も。これだけ人がいれば道を聞くのには困らない。近くに居た若者に声をかける。

「ちょっといいですか?町外れにあるという鍛冶屋に行きのですが、ご存じですか?」

「勿論だ。この町に住む人間なら誰しもが知っている。」


彼の言い回しには違和感を感じたが、話を詳しく聞いてみなければわからない。

「行き方を教えていただけますか?」

「そうだな。僕からはその鍛冶屋への行き方を教えよう。それで、君は僕に何を与えてくれるのかな?」

「はい?」

「だから、交換条件さ。等価交換は常識だろう。それとも何か、君には僕は親鳥にでも見えるのかい?」

少し癪にも障った。彼の言葉が真実ならば他の住人に鍛冶屋の行き方はわかるだろう。しかしその他の住人もまた何か要求してくるのだろう。

「何をお望みですか?」

「こちらからはなんとも。君のカードはわからないさ。」

「では、これではどうでしょうか?」

ポケットに入っていた時計を差し出す。

「これは?」

「時計というもので、電池という物が入っています。分かりやすく言えば、魔術を必要とせず針を…」

「おお!これが時計が。最近この町に入ってきた最新の異世界の道具なんだよね。本当にいいのかい?」

「ええ。俺には必要のない物なので。それより早く教えて頂けないでしょうか。」

「これだけの物を渡されたのなら僕からも少しおまけをしよう。」


彼が言うには町には幾つかの区域があり、階級ごとに住み分けているらしい。現在の区域が最上位層。鍛冶屋があるのは最下位層。最も醜く最もおぞましい区域。誰が住み誰が死んだのか認知されない場所らしい。その地獄でこの区域にまで存在が知られている場所が二つだけある。その片方が鍛冶屋というわけだった。

宮殿のあった区域から離れていく。歩けば歩くほど町は廃れ陰険な雰囲気に包まれていった。地獄に向かって真っ直ぐ進む自分は回りから見れば奇異に見えるだろう。

そして目的の区域にたどり着くや否や、この最低の区域に合わない綺羅やかな装飾を身に付けた三人組に表れた。

「よう。新人さん?まずはここにはルールがあるんだ。教えてやるよ。」

三人のうち一番背の高い男が体を乗り出してくる。

「ここはごみ溜めだと聞いていたんだが、燃えるゴミと燃えないゴミをきっちり分けようっていうルールか?お前はどっちに仕分けされたいんだ?」

いきなり高圧的な態度の男たちに絡まれたせいか、こちら言葉が荒くなる。

「そうだな。じゃあまずはお前をゴミ箱に入れるとこから始めようか!」

前衛二人が襲いかかってくる。即座に足元にある鉄パイプを拾い上げ、愚直に向かってくる男達の足の骨を砕く。景気よく響いた骨の音とは反対に男達は苦悶の声すら上げられない。

「後はお前だけだな。なんだ魔術師ってのはこの程度か?」

最後に残ったフードを被った男はこう告げる。

「彼らは別に魔術が使えるわけでもないんだがな。まあいいさ。上に立つものとして彼らの仇はきっちり取っておこう。」


男はフードを脱ぎ、目眩ましとして自分との間に広げる。科学が彼らにとって未知であるように魔術は自分にとって未知である。純粋な乱戦ならば負けない自信はあったが、後方に飛び退き距離をとる。まずは見極めなければならない。男の実力を。そして、魔術を。

隙を作らぬようにマントを凝視する。

「穿て。」

男が呟くと同時に無数の光弾が襲いかかってくる。咄嗟に体を翻し回避を試みる。しかし、光弾は正に無数。いくら回避しようがまた新たな光弾が襲いくる。遂には右太ももを撃ち抜く。

「どうしたんだい?あれだけでかい口を叩いたんだ。もう少しくらい踊ってもらわなきゃ気が晴れない。」

男は耳障りな笑い声と共に再び光弾の雨を降らす。走れる余裕なんてない。一か八か、光弾を弾くしかない。幸いにも目では追える。無心になり、ただひたすらにパイプを振るう。

「なっ」

一秒に10は放たれたであろう光弾を全て弾く。

「俺は昔から雨が嫌いでね。空からやって来るあれに比べれば、数だって大したことないな。」

「ぬかせ!」

余裕を無くした男は光弾の数を増やす。10弾かれたのなら20を。それでも自分を撃ち抜くには至らない。一度腹をくくってしまえば男の光弾なんて取るに足らない。しかし男の光弾は防げるとは言っても太ももを撃ち抜かれ右足には力は入らない。遠く離れた男を打倒するにはまだ足りない。世界一優れた剣豪でも狙撃主は倒せないのだ。

お互いに決定打を欠いたまま、時間ばかりが過ぎていく。

「そろそろ終わらせようか。」

男が勝ちを確信した様にそう告げる。

「おまえの豆鉄砲じゃ無理だ。」

「おまえの相棒がその豆鉄砲で死んでんだよ。」

体は限界に近づいてはいたが、男も疲労を隠せていない。体力面では五分だろう。しかし鉄パイプでは無数に襲いくる光弾を受けきれなかったのだ。既に原型をとどめてはいなかった。

「じゃあな。」

男は腕をこちらに向けて構える。

自分はこんなところで死ぬのか。何も成し遂げず、何も救えないまま。

光弾は3つ。頭首胸。急所を寸分狂わず飛んでくる。どうせこれで最後ならと渾身の力を絞って光弾めがけて振り抜いた。

「ゴフッ。」

口から溢れる大量の血。撃ち抜かれた感覚はないが全身には焼けるような痛みがやってくる。耐えきるだけの気力はなく力無げに倒れこむ。気を失うまでの数秒間、何故か遠くで人が倒れる音が聞こえた。

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