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鬼道

 百襲媛は白馬を飛ばしていた。

 背中には朱色の強弓を背負い、白装束に紅い袴という巫女姿の戦支度である。もちろん、下にはクサビ帷子(かたびら)を着込んでいる。


 鬼ノ城の戦いから数年、一度も着ることが無かった戦装束(いくさしょうぞく)を再び纏う決断は一瞬だった。

 だが、鬼ノ城の戦いを、あれほどの大乱をほどんど身ひとつで収めた、あの男はもういない。

 百襲媛には今回の反乱を上手く収める手立てを思いつけなかった。


「……あはっ!」


 だが、天啓のような閃きが彼女に生まれ、おもわず笑みがこぼれそうになる。

 鬼道の中でも禁術に属する「死人舞いの術」の使用は、さすがの彼女にも若干、ためらいがあった。

 だが、考えようによっては、父子の対面や娘との再会も果たせて、永年の懸案も解消できるかもしれない。


「百襲媛、何か良からぬことを考えているな?」

 

 歴戦の勇者である稚武彦は、馬を並走させながら、察しよく大和朝廷最強の戦巫女に釘を刺す。


 彼の背後には100騎ほどの騎馬隊が続いている。いずれも鉄製の鎧を着込んでいたが、機動力重視で、比較的軽装の騎馬隊であった。

 鬼ノ城への山道は狭く、西門の攻撃隊はそれが限界で、背後の北門、東門にそれぞれ200騎づつの騎馬隊を配していた。

 南門は特殊部隊を編成して攻略する予定である。

 讃岐の猿王配下の猿飛率いる忍者部隊を編成していた。その名の通り、(ましら)の如き体術のもち主ばかりだ。


「まあ、この非常時に背に腹はかえられない。力の出し惜しみもできないわ」


「止めても無駄のようだが」


 稚武彦は自分の姉でもある百襲媛の気性を知りつくしていた。


「嘘でしょ!」

 

 百襲媛の白馬が鬼ノ城への山道で、突如、止まった。

 

「まるで、死人にでも会ったような顔だな」

 

 右目に眼帯をつけた、頼もしくも懐かしい男が振り返ってそこにいた。

 黒いマントにクサビ帷子をまとい、背中に鉄棒を背負い、銀色の鉄仮面をつけている。


「まさか、温羅(ウラ)なのか?」

 

 さすがの稚武彦も驚愕している。 


「まあ、そんなところだ」


 鉄仮面で素顔は見えぬが、その声音(こわね)は温羅そのものであった。


「さて、わしはどこから攻めようか。稚武彦?」


 温羅はまるで散歩にでも行くような感じで尋ねてくる。

 

「もちろん、正面でお願い。私は朱弓で援護するわ」


 呆気にとられてる稚武彦に代わり、百襲媛が指示をだす。


「助かる」

 

 温羅は指笛を吹いて大鷹を呼びよせ、身軽に飛び移ると、一緒に空に舞い上がった。

 道術の式神であろうが、いつ見ても見事な体捌きである。

 

「さて、面白くなってきたわ。我が子はどう対応するか楽しみだわ」


 大和朝廷では大将軍とも呼ばれる百襲媛は、にやりと笑って、朱弓を引くと最初の一撃を放った。

 朱弓は温羅の大鷹が降りる先の物見の角楼(かくろう)の兵たち数人を根こそぎ倒してしまった。

 無人の角楼の上にふわりと降り立った。

 伝説の鬼神の登場に、兵たちは恐怖で動けなくなった。  

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