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魔術師たちとその歴史たるレポート

作者: だいたいたい


魔術―――という技術が存在する。


万物を制御し、あらゆる事象をコントロールするその技術はこの世においては無くてはならないものであった。


その魔術を扱う者たちを魔術師と言い、世界を騙くらかしその法則を意のままに操る。その姿はいたいけな少女を食い物にする悪い男のようだとは概世の言である。


世界の法則を好き勝手に弄り倒しいたいけな少女であるところの世界を騙くらかし搾取を続けた魔術師達が世に疎まれるのは自明の理であり、一時は環境団体による排斥運動も起こった。しかし人類は一度便利を覚えると堕落していく生き物だったので魔術師達がその地位を盤石とするのにそれ程時間はかからなかった。


魔術を発動するためには世界を騙すための口八丁である呪文とそれを世界に無理やり聞かせる声である魔力が必要である。


魔術の黎明期である数百年前は火を一つ起こすのにも大量の口説き文句と大げさな声が必要であったが世界を欺す為の研究に研究を重ねた結果、最盛期である現在では熟年離婚を控えた老夫婦のような淡泊な要求で事を済ませるようになってしまった。


過去魔術師達の中には世界を好き勝手にする余り、傲慢にも自分こそがこの世を支配するに相応しいと主張する者が現れる。それらは俗に魔術師の王―――魔王と呼ばれた。


歴代魔王たちはそのほぼ全てがある程度暴れるとその姿を消している。各国が仕向けた刺客に暗殺されただとか、勇者が討伐したからだとかと毎回噂されていた。


その実情、支配だとか征服だとか無縁の途轍もなく下らないものだったとしても知らぬ民達にとっては恐ろしい存在には違いなく、その影響力は計り知れない。一度現れるだけで大恐慌が起こり武器や食料は高騰し無辜の民達は仕事をほっぽりだし我先にと逃げ支度を始める。


魔王が現れるたびにいろんな意味で五臓六腑を引っ繰り返しそうになる王族たちは犠牲を払いつつ遂に真相にたどり着き


 「悪魔は悪魔を知る」


という号令を発し、宮廷専属万能魔対策課―――通称魔対課を立ち上げ、嫌がる魔術師を放り込み対応をブン投げることを決めた。突然ネタ晴らしとなるが魔王たちは世界の支配が目的ではない。研究に行き詰った彼らは、憂さ晴らしのために尤もらしい理由を取り付け暴れているだけなのである。勿論気が済めば適当に魔術で証拠を隠滅し、素知らぬ顔で表の世界に戻ってくる。


基本プライドが手足が生やし口を利いていると言われ、自身の研究にしか興味のない彼らもこの事に関しては流石に思うところがあるのか渋々ながらであるが研究費を援助するという触れ込みで協力を取り付けることに成功する。


市井調査による『将来なりたい職業』と『なりたくない職業』のぶっちぎりの頂点を戴く魔術師は伊達ではない。普段他人とろくに会話しない魔術師達が、和をもって貴しとなすと嘯きながら孤独を気取った魔王を何倍もの勢力で叩き潰す。民達はドン引きした。マウントを取られ半泣きで殴られ続ける魔王と半笑いで殴り続ける魔術師の映像を魔術によって全世界公開され更にドン引きした。ちなみに『なりたくない職業』トップには魔術師と同着で王族がランクインするらしい。


ここまでやりたい放題すれば魔王も二度と現れなくなるだろうと半ば呑気に考えていたがそうは問屋が卸さなかった。まだまだ魔王は現れ続ける。彼らは基本的に自分こそがナンバーワンであるという確固たる自身を持っているので、我こそはと次々に魔王が台頭してきたのだ。もうここで魔王の存在理由がブレブレであるがまだまだこれからである。


どんどん現れる魔王に現実逃避したくなるが現実はソレを許してはくれなかった。なんと魔対課からも魔王を輩出してしまったのだ。ノリノリで魔対課の弱点を語る彼が魔対課の怒りを買いどんなひどい目にあったのは筆舌に尽くし難い。制裁の内容は省くが自業自得とは言え同情を禁じえなかった。


魔対課に加わったステキマスコットの彼は逆十字に縛り付けられ譫言をつぶやいていた。思い出すたび夜トイレに行けなくなるのでやめてほしい。


結局関係各所からの突き上げにより責任問題に発展し幾名かの役人の首が飛んだ。監督不行き届きという名目だ。責任の所在とそれを取らせるだけで煩い人たちを黙らせることができるので英断であった。


勿論首を切られた役人には別のポストが用意されており実質的な天下りである。


そうした誰も得をしていない悲惨なイタチごっこを繰り返した結果順調に魔術師の絶対数は減り続ける。そうした結果失伝しかねない魔術が出てくると今度は逆に魔術師達の保護と育成が始まった。


という訳で教育機関を設置することとなる。しかし人間というものは学ぶもので過去と同じ轍を踏むわけにはいけない。教育課程においてその半分を『道徳』が占めているという事実がそれを裏付けている。


魔対課の中で生き残った魔術師達は『魔王にならなかった』というだけで魔術師の中ではという注釈が付くものの人格者という扱いになり教育課程の魔術部分を教える教師を勤める事となった。勿論助教授という名の監視付きではあるが。道徳なんぞ母親の胎の中に置いてきたか糞と一緒に放り出してきたと言わんばかりの連中に人の道なぞ教えられる道理はありはしないと魔術師自身が豪語するものだから、道徳の授業は教会に一任されることとなった―――。













―――――ある高官は言った。


 「誰が道徳を教会に任せやがった!」


宗教というものは得てして腐敗するものである。本来国に対して発言権を持たない教会が腐敗しようがその力が及ぶのは精々教会内の権力闘争か抑えが効く程度の住民感情であったのだが、魔術師の力というものはどうしても規格外であるのだ。


今までなら放って置くと自浄作用が働き教皇以下数名のメンバーを覚え直すだけでよかったのだが、事が国家転覆となると話が違ってくるものである。教会独特の腐敗した道徳を叩きこまれた魔術師達は教徒として蜂起する。こんな筈ではなかったなんて言っている暇もなくあわや、という所まで追い詰められた。


遂に私の命運も尽きることとなろう。城の皆は既に捕縛され謁見の間に集められているそうだ。外で新しく教皇となったという男が大声でそう言いながら出頭を勧告している。私の部屋の向こうでは呪文の詠唱が聞こえる。魔対課の誇る防壁もいつまで持つかはわからない。


せめてもの反抗として正しい歴史を後世に伝えようとここまで書をつらつらと認めてきたが沸々と怒りが沸いてくるではないか。


何という理不尽、何という不条理、こんな事があっていいのだろうか。いいやよくない。怒りか恐怖か判別はつかぬが手が震える。私もこの国きっての魔術の教育を受けた天才だ、最後まで抗って見せようじゃないか。外で吠えているあのゴブリンとオークの雑種みたいな奴に好き勝手させて堪るか。


生き残る事ができればまたこの書の続きを書こうと思う。






では、行こうか


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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔術師が疎まれているのはよくわかりました。 [気になる点] オチがちょっとわかりづらかいです [一言] 論文みたいな感じですね
[良い点] 面白かったです
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