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ハーヴェイ、異世界召喚される。

DH side3で出てきた姫ちゃんの護衛騎士リーダーの話です。

彼ら魔族が嫌っている勇者として召喚されたら、と考えてできました。

ほぼシリアスです。

中編(本当は短編目指していた)ですので、展開が早いです。

―――国を脅かす邪悪の存在顕われし時、祝福を受けし聖なる者降臨せし―――

                        (黄昏の丘の唄)





   * * *






 そう長くもない螺旋階段を下りると、すぐに木製扉に突き当たる。先導するおじいちゃん魔術師が皺のある手で押し開いてくれ、続いて私はそこへ入った。平均身長が高いこの世界の人間に合わせた天井と、大人20人が余裕で入れる広さの部屋の中央には、まだ淡く光を放つ魔法陣があり、その上に若い男が立っている。

 先におじいちゃん魔術師に教えてもらったから、彼は自分と同じ世界から呼び寄せられた事は知っている。ここに私が呼ばれた理由は、そういう事だ。さて、どう説明したものか。じっと眺めていた事が分かったのか、魔法陣の上に立つ彼がじろりとこちらに視線を寄越してきた。

 自分もそうだったが、突然見知らぬ場所に居り、見知らぬ人物に囲まれて警戒しないわけはない。成人しているだろうしっかりした体の造りに、故郷でも多い茶髪と濃い茶色の目を持つ彼は、顔立ちは整っているものの目付きが鋭く、いくら彼の説明役を任された自分でもちょっと話しかけにくい雰囲気だった。私の及び腰に気付いたか、おじいちゃん魔術師が彼に向って一番に声をかける。

「ようこそおいでくださいました、異界の方。私はこの国で異界の方のお世話をしている、ロスコゥと申します。また、こちらの方は、貴方様と同じ世界からいらっしゃった、ミズハ様です。さぁ、ミズハ様」

 おじいちゃん魔術師に促され、私は顔に掛かったフードを取った。不思議な事に、おじいちゃん魔術師の言葉や、周囲の人とは顔立ちが違う私の顔を見ても、彼の顔に変化はない。それに少し不思議な気持ちになりながら、私はぺこりと会釈する。召喚の魔法陣には少し時差があるが、こちらの世界の言葉を翻訳する機能がついているらしく、当然彼もこちらの言葉を理解しているはずだ。けれど、彼を安心させる意味でも、私は、自分たちの世界に広く普遍している共通語で話しかけた。

『はじめまして、私は瑞葉=フェオーレ。惑星シティスタリスの出身で、今年19になります』

惑星シティスタリス……アース系、東洋領か』

 鋭い視線に変化はないものの、私の言葉を受けて彼が思い出す様に呟いた。懐かしい言葉と、私と同じ世界でなければわからない意味を聞き、嬉しくなって思わず微笑む。

 私、瑞葉=フェオーレは、460年ほど前に惑星シティグランディスに住む異星人と接触して宇宙へと繰り出し、人が住めなかった惑星を次々と植民地化していった惑星シティアースの人類の流れを組む。尤も、あの世界の人類は、そういったアース系の流れを組む大多数の人類と、今なお秘匿性・神秘性のあるグランディスの人類の2種類しか確認されていない。アースがグランディスの存在を知らず、まだ一つの惑星で生活していた時代、それも石斧を作って、共通の言語もない、多数の国が乱立する太古には、人という種族を糧に生きる魔族という凶悪種族が居たとの伝説が残っているが、アース系人類で広く信仰されている蒼穹信仰イースファルロットの経典に載っているのみで、滅びかけていた人類を救う為に蒼穹の女神が降臨した際に絶滅したとされている。そういう世界であり、そこに住む人間ならば、惑星の名前を言っただけでどこの流れを組む領地や国かと理解できるのだ。ただ、彼は同じ惑星の出身ではないなと勘をつける。

 ここで改めて彼を、いや彼の服装を眺めた。どこか荒い繊維でできた、質素というより原始的な服は、間違ってもブティックにあるYシャツには見えない。それから分厚いジーンズ生地のズボンと警備隊ガーディアンが使う物々しいブーツ。ここで腰に銃でもあれば、砂漠と紛争地帯である惑星ベリアの傭兵かと思えただろうが、何故かどの都市でも見ないような剣を挿している。一瞬だけ本気ガチ勢のコスプレかと考えるが、彼が持つ雰囲気がそれを否定していた。

『突然ですが、ここは、私たちの世界とは違う世界になります。私もまた、その魔法陣で呼ばれた人間です。信じて頂けないでしょうが、本当の事です』

 自分も最初にそう言われて混乱した事を思い出しながら、なるべく彼を刺激しないように優しく声をかける。自分もその言葉が信じられずにこの場から飛び出し、外の景色を見て動揺し、夜になると見える三つの月を見て納得してしまったのは半年ほど前の事だ。ただでさえ良くわからない状況なのに、さらに混乱させては可哀そうだと熱心に言葉を紡ぐ私であったが、怪訝そうな顔をしたままの彼は唐突に口を開いた。

『この世界が異界である事はすぐにわかる。それより娘。俺はそこの異世界人と話がしたい。少し黙れ』

 こっちは気を使っているというのに、何て言い草だ。少しカチンときつつも、冷静な彼の様子を見て、さらにおじいちゃん魔術師が空気を読んでにこりと微笑んだのを見て、私は口を噤んだ。

「何か御用でしょうか、異界の方」

『俺は北方領間、第二等華ハーヴェイ。元よりこの世界に来るつもりは毛頭もない。元の場所に帰してもらおう』

 おじいちゃん魔術師は始終、異世界の言葉で話をしている。その異世界語がはっきりと分かっているタイミングで、彼は私たちの世界の共通語を使って返事をした。少なくとも私には馴染みある言葉だったので、これでは無理かなと通訳に口を開きかけた私を遮り、おじいちゃん魔術師は「おぉ」と驚いて見せる。

「こちらの言葉がお分かりになるのですか」

「え?」

 そこで私は違和感を感じた。彼が話していたのは、完璧にこちらの共通語だったはずだ。けれど、おじいちゃん魔術師にも、時差なくその言葉が通じているらしい。一瞬だけ、異世界召喚にありがちなチート能力でもあるのかと考えたが、私の時にはなかったし、彼にこの世界に来た時に貰えるギフトの存在は感じられない。はっと、私の中で彼に対する、何とも言えない警戒が浮かぶ。反応を見るに、確かに彼は私と同じ世界から来ているだろうが、どうしてもこの状況に対する態度に違和感があるのだ。

 おじいちゃん魔術師との話を遠慮するように、出来るだけ自然に下がった私へ、彼が一瞬だけ視線を寄越した。まるでこちらの警戒を気付いているかのような動きだが、特に興味がなかったか、おじいちゃん魔術師へ戻る。

『今のは互いの意識共有による念話に過ぎない。………あとで、そこの娘に尋ねるが良い。俺は北の魔王の配下である、≪魔族≫だ。それで、そちらの返答はいか様か』

「『≪魔族≫!?』」

 おじいちゃん魔術師と私は、ほとんど同時に声を上げていた。私は、元の世界で人間の天敵だと、絶滅したといわれた≪魔族≫の存在に半信半疑に。おじいちゃん魔術師は、異世界召喚をする事になった本来の目的に反する結果に。そう、この召喚は、異世界における≪魔族≫(私たち蒼穹神話を知っている人間からすれば魔物)の脅威に脅かされて困ったこの国が、厄介事を退治してくれる勇者を求めての事だった。

 けれども最初の召喚で、何の戦闘力もない、平和な国に暮らし、女である私が来た。それも異世界人に必ず付属するというギフトも味覚強化という微妙なもので、戦闘に一切の関係はなし。ではそういった能力を使ってどうにかなるような相手かといえば、生肉を主食とするドラゴンが筆頭であり、試しに味覚強化で美味しく感じられるだろう料理を出してみたが見向きもされなかった。

『左様。しかしながら、私もそこの娘同様、仕事があり、故郷があり、家族や仲間がいる。そちらにも事情がありようだが、仮にも他国の侵害および国民誘拐を行っている以上、これ程穏便に決着をつける方法もないと思われるが?』

 彼は人類とは違う魔族であるからか、恐れる様子もなく逆に不快感を表して、おじいちゃん魔術師を見た。おじいちゃん魔術師は困ったような顔をしながらも、何事か考えている様子である。そこで私ははっとして思わず口を開いていた。

『帰れないんです』

『……なに?』

 おじいちゃん魔術師から視線を移して、彼は怪訝そうな顔で私を見る。私は、多くの人間を虐殺したと言われる魔族を前にしながらも、むしろ三つの月を見て絶望した記憶から、同じ境遇の者に会った様に感じていた。あの時の寂しさ、悔しさを思い出しながら、この国の重鎮たちにあっさり告げられた言葉を繰り返す。

『帰れないんです。この召喚術は一方通行です』





   * * *






 それからどうなったかと言えば、極度の不快感を顔に出した彼は、『水の者にも勝る、極悪非道・下劣な行為だ』と吐き捨て、警戒を露わにした。むしろ今まで抑えていた魔族としての威圧感を前面に押し出し、周囲の人間たちを圧倒したと言っていい。ただ、腰につけた剣には手をかけず、『不当な扱いをすれば、それ相応の報いを与える』と宣言し、おじいちゃん魔術師が提案した話合いの席に着く事に決めた。そして一夜明けた今日、彼には私の時と同様、この国が抱えた問題を説明する事になった。

 この国は、この世界の中でも代表される国の一つとして大きな国であり、世界レベルで優秀な人間が集まって運営している共和国的な役割を持つ。以前は内紛まで行かなくとも、小さな小競り合いや冷戦があったらしいが、現在、この国の民はほぼ共通の意識で合致している。それは、国の中枢であるこの城に襲撃をかける、二頭の黒い竜の存在から始まる、魔物たちの大侵攻である。

 この世界は、私の世界と違い、一般人でも大なり小なり魔法が使える。精霊やら竜やらファンタジーな存在も当然居り、今までは互いに不可侵だったものの、ある時から、この黒い竜が街にやって来て破壊活動をするようになり、各地で魔物たちによる被害や領土侵害が増大したらしい。私が召喚される前まで、いや、現在も、世界レベルで優秀な剣士や戦士、騎士、魔法使い、冒険者等々が黒い竜を倒すために精鋭やら軍隊やらで戦ったらしいが、何しろ膨大な体力と回復力を持ち、弓矢や刃を弾く鱗、魔法で防がなければ街一つを容易く火の海にする高温ブレスなどを先天的に持っている高等種族の為歯が立たず、また各地での魔物は人など軽く凌駕する力と数を手に村々を潰して行っている。

 これは何かの前触れだと各国の代表者たちが集まって話合い、預言者と神官による信託を受けた結果、”黄昏の丘の唄”という予言石碑の邪悪が復活しようとしているとの結果になったから、さぁ大変。”この世界の人間では敵わない竜がそれだ”と絶望に陥った彼らにまたしても(迷惑な)神託が下った。それこそが、この勇者召喚システム。どんなご都合主義だと思ったが、よくよく各地の遺跡を調べれば、魔王が復活する時光の勇者もまた召喚される的な予言が、一方通行で不完全な召喚魔法と一緒になされていたのだという。

「と言う事です。誠に、貴方様には謝罪しても仕切れぬ罪があると我々も分かっています。けれど、どうぞ、どうぞ、我らの為に貴方様のお力をお貸しくださいませ」

 話しの途中から腕組みをし、熟考するように目を閉じた彼に向って、祈るようなポーズ(ここではお願いをする時の土下座のようなものだ)をしているのは、この国の代表者の一人である男性だ。柔らかな物腰に、若い頃はさぞモテただろう凛々しい顔立ちの彼は、外交官的な役割を持っていたはずだ。そしてその隣には、男性である彼を懐柔しやすくするために、年若くはないが、大変上品な女性が座っている。こちらも男性同様、祈りのポーズをして彼の返答を待っていた。

「あれらの所作は、ミズハ様が言われる所の土下座というモノと同等とお考えください。しかし、それぐらいで我らの罪は無くなるとは考えておりません。当然、こちらも戻られる方法を探しておりますし、ここに滞在される間のお世話、また万が一、お話を受けて頂く際の支援は惜しみません。なにとぞ、なにとぞ…」

 そして未だちらりとも目を開けずに沈黙する彼の隣には、こちらとそちらの橋渡し役であるおじいちゃん魔術師がせっせとフォローしていた。私の時は、自身が緊張していたのもあってよく見えなかったものの、明らかに戦闘力がありそうな彼を取り込むために、私の時以上に必死なのは見て取れる。何となく面白くなくて、見られない程度に顔を背けた所で、彼は目を開いた。

『では、そちらの娘は何か』

 鋭く切り込まれた質問に、各人が固まったのがわかる。戦闘力がない一般人が召喚された結果に納得出来ずに、もう一度召喚を行ったのがまるわかりだからである。おじいちゃん魔術師が悲しそうな顔をして返事した。

「確かに、ミズハ様がご降臨されたにも関わらず、我らは再度召喚を決行いたしました。ですが、ミズハ様は聖女であり、その守護となる戦士を呼ぶようにと神託が下ったのです」

 これは私の時にも説明された事であるし、私も、多分一人が寂しかったのもあって承諾した。随分なエゴだなと自嘲気味に顔が歪みそうになるのを耐えていると、『くっ』と彼が鼻で笑った。

『神託……神託、か』

 何かしらの理由があるたびに出てくる神託への信憑性は、こちらが異世界人のためか、私にも違和感がある。それをはっきりと彼が口にしたのに、皆が固まる中、それ以上は何か言うでもなく彼は続けた。

『娘。そちらは、何故、この国に与する? 同じ異界の人間として意見が聞きたい』

 何処か茶番を嘲笑うような表情の彼と目が合い、私はその真っ直ぐな目を見る事が出来なくなった。彼がこんなにも自信満々としていられるのは、きっと私のような役立たずの能力でないからだ。彼の強い目を見ていると、酷く惨めに感じる。だからだろう、私は小さくもはっきり口に出していた。

『それしか、選べないから』

 異世界の国の人には衣食住を保証してもらい、随分良くしてもらっているのに出てしまった本音を、彼は『……なるほどな』と頷く。それの何処が決め手になったかは分からないが、次の彼の返事はこうだ。

『お前たちが共生を望むならば、俺は手を貸そう。けれど、有効範囲は現在におけるこの国内限定。そして、お前たちが望む決着になるとも限らない。それだけは理解する事だ』

「では……っ」

 気色ばむこの国の重鎮たちに、彼は再度釘を刺した。

『では、今より互いの言語で書状の作成、および証人の立証を行う。また、繰り返すが、お前たちが望む結果になるとも限らない事を、よくよく心に刻め。であれば、俺と”この娘”は、”我らの帰還のため”に、この国を害する竜の始末をつけ、力を貸そう』

「もちろん、お約束いたします!! それから、――――――…入れ」

 この時を待っていたとばかりに促され、重鎮たちの背後に精力的な年代の男達が並ぶ。私も知っている彼らは、この国の実力者たち。一人はまだ20代ながらも神官を務める青年と、一人は30代の熟練冒険者、一人はこの国の副騎士団長、そして最後の一人は美女とも見える年齢不詳の魔術師長次席である。私がまだ勇者として期待されていた際に、彼らに訓練を付けてもらった事があるが、結果は使い物にならないというお墨付きだけ。恐らくその時と同じように異世界から来た彼の実力を図ろうというのだろう。その考えは半分当たり、半分外れた。

「これから一月ほどの時間を取り、この世界について学んでいただきます。また彼らには、邪竜討伐の際の貴方様の護衛を―――…」

『俺は、貴様らの言う神託などと不確かなものを実行する事はない。この国における、魔物の脅威の軽減または解決、具体的には俺達の調査後一月の被害を半分にする事、を行うと言っている。間違わないでいただこう』

 不快感、いや、怒気を混ぜて彼が口にすれば、その場に一瞬の沈黙が訪れる。カチャっと鳴ったのは、副騎士団長と冒険者からだろうか。しばらく後、重鎮である男性が言い直した。

「失礼しました。国内調査の随行の際の護衛として、お連れください」

『了承した』

「では、ペンを」

 頷いた彼を促せば、しかし彼はペンを取らず。

『証人は多いほど良い。今すぐこの城の者共を広間に集めて頂こう。そこで、俺達はサインする』

 随分と用心深いなと、私は彼について印象を抱いたのだった。





   * * *






 それから私達がどうなったかというと、彼の言う通りにするしかない国の重鎮たちは契約の場を設けて、互いにサインをした。お互いの文言に間違いがないかをチェックしたのは、私とおじいちゃん魔術師である。また、異世界から来た彼、ハーヴェイは、魔族だと自称する通り、人間にない身体能力と影による不可思議な攻撃魔法を使って見せ、彼の実力を試すための試合において、紹介された各実力者たちを踏破していった。この結果に敗者たちも悔しそうだが、一目置く事にしたらしく、調査の旅に出てからは”勇者さま”と呼んで、盛大に彼に唾棄されていた。勇者の何が気に入らないか知らないが、彼はそう呼ばれる事を酷く嫌悪する。『侮辱されるようだ…』と私に零す事もあった為、私は彼を名前で呼んでいた。

「ハーヴェイさん、次はこの街だそうです」

『あぁ…』

 言葉少なに答えた彼は、田舎らしい畦道を歩いて畑に立ち寄り、屈んで土を手に取った。まるで農家の鑑のようだなと見守っていると、本業らしい旦那さんが声をかけてくる。普段から愛想がないわりに、ハーヴェイさんは誠実で、きちんと彼に挨拶を返した。

『主人、この畑は良い土だな。しかし、少し酷使しすぎの様に感じる』

「お、わかるかい。以前は森の土と混ぜて使っていたんだが、ここ一年、全く立ち入る事が出来なくてね」

『ほう。それは、どうして』

「森の精霊が邪魔してるのさ。前は時々山の上に居るのが見えるぐらいで悪さする事はなかったってのに。これも、魔王復活のせいかねぇ」

 言って彼は村の奥、国境である険しい山々の中、特に大きな山を振り返る。手の土を戻して立ち上がり、同じ様に仰ぐハーヴェイさんは何を考えているか分からない静かな目で眺めた。時間にしてほんの一分程。「ふぅ、やれやれ」と農作業に戻る旦那さんを見送って、私達は旅仲間が待つ宿へと戻った。

「二人とも、お疲れさん」

「お待たせしましたか、バックスさん」

 他のメンバーも情報収集に動いているらしく、留守番をしていた熟練冒険者であるバックスさんが出迎えてくれ、私は街中の様子について話した。

「なるほど。森の精霊ねぇ…」

「何かご存じですか?」

「いや、魔物ならともかく、精霊が悪さするってのは不思議に思ってね」

 精霊は人間の良き隣人として知られており、確かに畑の旦那さんの話は奇妙だと私も感じた。違和感はバックスさんとの会話で拭えるものではなかったが、話に必要性を見いだせなかったらしいハーヴェイさんの、私の分も荷物を持って部屋に行こうとした行動に中断される。

「ちょ、ハーヴェイさん! 私、持ちますって」

「旦那もそろそろ雑談に入ってくれませんかね」

 バックスさんの言う通り、ハーヴェイさんは空気を読めなさすぎなんだ。慌てて彼から荷物を奪い取り、私たち三人は二階にある宿泊室へと移動する。女の子と言う事で私は一人部屋、その左右を挟んで男性陣が二、三人ずつ部屋を取っている。そしてハーヴェイさんは右隣、バックスさんと相部屋だ。荷物を置いた私は、一人で過ごすのも何だと思って彼らの部屋へと足を運んでいた。

「で、旦那は今回は何だと?」

 足を踏み入れると、バックスさんがそう言ってハーヴェイさんを見ていた。この国の中枢である城を出てから、私達は既に半月は経過している。先ず城下町で起こっていた、魔族によると言われた神隠しを解決した。夜中に笛の音が聞こえ、子供や若い男女が連れ去られるという事件だったが、ある妖精の持ち物であるその笛を奪った人間による仕業だった。地下に続く人身売買の現場を押さえて、実にあっさり解決したのである。

 次に向かったのは、城から二番目に近い街で、その象徴である噴水が止まってしまい、それに付随するように周りの緑が枯れていくといった事例だった。これは魔物関係なく、地下水脈が枯れたのだろうと旅の一員である魔術師長次席が言ったのだが、どうやって知ったのか、ハーヴェイさんは噴水の内部に居たカエル型の魔物を撃破し、乱れていた地下水脈を復活させたのだ。

 さらに国境付近へと移動し、今度はゴブリンの襲撃に弱っていた町や村を、討伐したり追い払ったりして救った。半月前後でこれだけ解決しているのは快挙である。それもこれも全部ハーヴェイさんが何かを見つけてくれるからだ。だが、今回も何かを掴んでいるのではないかとの期待を、彼は黙って首を振った。

『俺は今まででも、より人間たちが調和出来る方法を選んできた。だが、今回も人側の意見に沿う結果になるか分からない。過度な期待はやめた方が良い』

 そのセリフに、バッカスさんと私は、一緒に肩を竦めた。ハーヴェイさんのこのセリフも、もう何度目になろうかという事だ。彼は耳にタコが出来るぐらい、何度もこのセリフを吐く。その度に快挙といえる結果を出しているのだから、私達も呆れるものだ。私達のそんな態度を見たか、彼は少し難しい顔をすると一言付け加える。

『今回の調査は、後味が悪いものになりそうだ』

 その意味を問う前に、部屋のドアがノックされ、残りのメンバーが帰ってきて、私達は早めの夕食を取る事となった。それでもハーヴェイさんが常になく険しい顔をしているように感じて、私もバックスさんも首を傾げた。


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