お前はどこへ行ってしまったんだい
詩というほど綺麗なものじゃなく、エッセイというほど感覚が残っているわけでもない、薄れた記憶の断片です。
お前はどこへ行ってしまったんだい。
もう十五年。いや、二十年になるかもしれない。
ふと窓のほうを見るとお前がいた。そのまま窓の向こうへ行ってしまう。
窓は変わりなく閉まっている。
なぜ今になってまた思い出すのだろう。
いなくなった日、泣いた覚えはない。今までも悲しいと思ったこともない。だけどたまに、ふと思い出すんだ。
お前のことを。
子どものころ、部屋の隅でうずくまっているとお前は無言で傍にいてくれた。いや、あれは僕が連れてきたのだったか。今はもう曖昧だ。
当時、どんなことしていたのか曖昧だけど、お前の憎たらしい顔だけははっきりと覚えているよ。
不愛想で誰にも懐かなかったな。
オスなのに女の子みたいな名前を付けられて、今思うと少し可哀想に思う。
虚空に手を伸ばすと、お前を撫でていたことを思い出す。
毛並みはあまり滑らかだとは言えないけれど、柔らかかった。
当時は持ち上げるのもやっとだったけど、今なら簡単に持ち上げられそうだ。
今、当時のお前と同じくらいの大きさの猫が家にいるよ。
この子はお前とは違って甘えたがりだ。
だからはっきりとお前じゃないとわかる。
お前の代わりはいない。
こんなことを考えるけど、不思議と悲しいとは思ったことはない。
思い出しても涙は一滴も流れてこない。
でも、寂しいとは思うよ。
あぁ、あの憎たらしい顔でまた、そっぽを向かれたい。
でもそれも、記憶が薄れて思い出すこともできない。事象による感情だけが残されている。
感情だけが取り残されている。
きっとお前はどこかで野垂れ死んで、すでに朽ちているのだろうな。