天気 晴れ後鉄風雷火の模様
お待たせしました
最近一人暮らしを初はじめまして投稿出来なかった次第です
「―――――!―――――い!ねぇ、起きてよ!」
眠りの世界から目を覚まし、最初に入った光景は一人の女の子だった
短い黒髪をショートカットに切り揃えただけの、工夫も無い髪型だが、それがこの少女『柊木愛』(ひいらぎ まな)にはよく似合っていると思う
顔だけを見れば、かなり温厚そうな感じではあるが、その実かなりの男勝りな少女で、今では時折食事の段で他の男子と殴り合いもしている始末だ
正確には、そう変わってしまった訳だが
「?、どうした?」
「まだ、寝てるの?仕事、仕事」
そう言って柊木は双眼鏡を無造作に放り投げた
それをキャッチして覗くと、その先には――
「ゴブリンよ」
「みたいだな」
300メートル先の木々が生茂る森の広場の様な所にそいつは居た
グロテスクなぶよぶよした皮、ギラつく双眸と手に持つ棍棒、それらが大凡二十匹規模で大挙している
そして――
「あ」
「?、どうしたの?」
「今、一人連れてかれてる、今は珍しい小太りの汚いメガネ」
「捕まったのね、まあしょうがないわねぇ、これも戦争故」
そう言って柊木は両手を合わせて「南無阿弥陀仏」と唱えた
一方その頃、件の小太りのメガネは必死に足をバタバタと暴れ回らせたものの、途中にゴブリンに足を噛付かれ、ここまで断末魔の悲鳴を轟かせた後に集団の中央に運び込まれ、ちょっと口では形容しがたい姿、有体に言ってマグロの解体ショーみたいになっていった
「時間よ」
時計を見ると、もう11時
太陽も既に頂上に上がり燦々とあたりを照らしている
正直な話先程の光景と手荷物を枕代わりに寝ていた為に大変首が痛い上にさらに現在の季節は夏だと思われるので大変に暑い
ぶっちゃけめんどくさい
しかし、無駄口も此処まで、先程言われた通り仕事である
ポケットからよくデパートの玩具コーナーで売っていた玩具の通信機を押す
「こちら、柊木、神谷ペア、今から前300メートル位のゴブリンの巣を襲撃する、オーバー」
『斉藤、五十嵐ペア了解』
『西野、大谷ペア了解』
『佐藤、田村ペア了解』
森の中を出来る限り静かにかつ迅速に駆け抜ける
時折倒木や段差等と言った障害物を跳び越して、先程のゴブリン群の場所から20メートル程度の場所にまで接近した
「神谷君アレ用意して」
言われるまでも無い、肩に背負っていた手荷物を勢いよく開けると、そこには――
「フンフフーンフーン♪」
鼻歌も混じりながら柊木はそれに手を伸ばした
真っ黒な鉄の塊、先端に筒状に伸びる鉄の棒、その上に乗っかるレンズ
M24 SWSあと呼ばれる狙撃中である
「神谷君皆に号令よろしく」
「全員聞いてるか?、今から10数えるそれで今武器を持ってる奴らを頼む、出来る限り節約でな」
全員がそれに応と数えると、通信を切り再び向き直る
相変わらず奴等は手に入れた獲物をグツグツと鍋で煮込んで馬鹿騒ぎをしている、あれ程ならこちらに気付く事は無いだろう
「10」
先ずは、持ってきた荷物の中で一番細長い布に収められた物に手を伸ばした
「9」
それを手に持ち布から取り出すとそこには木の素材で出来たやはり細長い物だった
「8」
それを手に持ち辺りを見回す
敵は居ない絶好のタイミングである
「7」
スコープ越しに見える世界はまるで冗談か何かの様である
何せお伽噺の世界にしか出てこないゴブリンが徘徊しているのだから当然だろう
「6」
鍋が煮立ったのかゴブリン共はそれを古びたテーブルの上へと置いた
その瞬間にここは普通の公園だったのだと知った
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
そうしてトリガーに指を掛けた
「ゼロ!!」
途端に鳴り響く号砲、そしてザクロの様に破裂するゴブリン達
宴会の席は一瞬にして、戦場へと変わった
「西野、佐藤一気に行くぞ!!」
そうして、鞘から抜き放つとそれは、眩く光る太陽を照り返し輝く一振りの刀だった
だが、俺達は決して剣の心得なんてある訳ではない
皆が皆ブンブンと振りかぶり叩きつけるように、ぞんざいに自らの武装を扱うのだ
傍眼に見れば、それは何とも滑稽に映るだろう
切り付けたゴブリンからは赤色の鮮血が迸り、辺りを彩った
これが、俺達の日常、そして俺達は変わってしまった世界をどうにか生き抜こうとする小さなレジスタンスなのだ