第六章
爽山高校の入学式の日。
同じクラスの女の子、大沢アレナに一目ぼれした桐原優斗は、自己紹介中にパニックになり、こともあろうかアレナを可愛いと思ったことをクラス中に、伝えてしまう。
そして、その恥ずかしさとショックで落ち込みながら、友達とマックにいると、なんとそのアレナが入ってきたのである!
「あっ」
アレナたちが入ってくるのを見た桐原は、思わず声を上げた。
「むぐ…ん? どした?」
口にほおばっていた照り焼きマックを飲みこみ、山本が聞いてくる。
「………でしょでしょ〜♪ でね〜それで〜…」
桐原は入り口で話してるアレナに目を奪われ、山本の声が聞こえていなかった。
多胡はそれを見てニコニコ笑っていた。
山本も気づいたらしく、アレナたちをチラッと見て、ニヤニヤしながら桐原のほうを見る。
「あの二人はアレナちゃんの近くに座ってる人たちだよね?」
多胡が言った。
「おう。あの赤いふちのメガネかけてるのが三木彩花ちゃん。そして、あの髪の長いちょっと大人っぽくて可愛いのが島ヶ崎蓮ちゃんだな♪」
まったく……コイツときたら町ですれ違った人でも顔と名前を覚えてそうである。
(果たしてそれが女の子のみに発動する能力(?)かどうかはまだ定かではないが……)
多胡は山本の説明に「ふ〜ん」とうなずきながら、悩んでそれを全く聞いていない桐原を見た。
「話しかけにいってみたら?」
と意地悪そうに言う。
「そうだよ!メアドもらうチャンスじゃん!俺は邪魔しないからさ!」
しかし、その言葉は桐原にはとどいていないようである。
(ど、どうしよう……誤るべきなのかな…。 でも誤るのも変だし…。 あ、でも嫌われてるのかも…そしたらどうしようもないけど……………どうしよう……)
「彼女ね、桐原君の事面白いって言ってたよ」
多胡が桐原の心を見透かしたように先ほどの話を続けた。
「えっ?」
多胡の言葉に、桐原は現実世界に引き戻される。
「なんかね、あんなに自分の思ったことをはっきりと言う人ってめずらしいってさ」
多胡はそういうと面白そうに桐原の顔を見た。
「おお、桐原良かったじゃんよ!」
山本の言葉に「うん」とはうなずくものの、いまいちはっきりしない。
(面白そうか……それって…ほめてる? いや……きわどいかな…。 でも悪く思ってはないんだろうけど……。 でももしかしたら変な人みたいな面白さ?…………だったら印象悪いよな………)
「あれ?多胡君?」
女の子の声に、ふと振り向く。
そこにはなんと、噂の(?)大沢アレナが立っていたのである。
(手のトレイにはマックフルーリーだ!)
「こんにちは、アレナさん」
多胡はにこやかに挨拶して返す。
(いいな〜…気軽に話せて……俺はあんな事言ったばかりだし、今日のところはおとなしくしておくかな……)
「一緒に話さない? ボク、まだクラスのみんなの事よく知らないしさ」
多胡の言葉に、少し伏せ気味になってた顔を勢いよくあげる。
多胡は桐原の顔を向いてにこにこしていた。
(こ、コイツ……)
「お!それいいじゃん!話そうぜ!アレナちゃん!」
そんな美少女と話できる機会を山本が逃すわけがない。
アレナに向かって話しかけた。
しかも「ちゃん」づけ……だがアレナは大して気にする様子もなく、笑顔で友達とどうしよ〜
と話していた。
(おいっ!山本! お前までそんな!)
桐原の心の声は、ハーフの美少女を目の前にした山本には全く聞こえていなかったのである。そして、桐原の思いとは裏腹に……
「うん!いいよ!」
と、アレナたちから声が上がった。
桐原の気分は落ち込む一方である。
多胡と山本は立ち上がって、となりのテーブルをくっつけようとしていた。
桐原も重い腰を上げ、椅子を運ぶのを手伝った。
その際に、多胡が山本に2、3声をかけていたが、桐原は全く気にしていなかった。
桐原はただ、その後どうやってアレナと話してよいかあれこれ悩んでいたのである。
そして、チラッとアレナを見ると、たまたまアレナと目が合った。
そして、
(にこっ)
っと笑顔を向けられる。
桐原はあわてて目をそらした。
(はぁ………どうしよう……)
テーブル3つをくっつける作業が終わり、座り方を決めるとき、
「じゃあ座ろっか」
と多胡の声に従い、みんなが座ろうとする。
「じゃああたしここに座ろうかな」
と言って、赤いメガネがチャームポイントの三木彩花が、一番角の席に座った。
「じゃあボクはここにしよ」
と言って、多胡がちょうど真逆の角の席に座る。
その後、山本は最初の女の子の前に座り、その隣に髪の長い島ヶ崎蓮が座った。
「アレナさん、ここどうぞ」
と言って、立っていたアレナに多胡は自分の前の席を勧めた。
「うん、ありがとう」
アレナはそういって示された席に座る。
どこの席にするか悩んでいた桐原は、やむを得ず、あいていた真ん中の列の、アレナの隣へと座った。
(図で示すと…)
山本 島ヶ崎 多胡
三木 桐原 アレナ
座ったとき、多胡と山本が桐原に目配せしてきた。
どうやら、先ほど山本と話していたのは、この座り方の事らしかった。
ようやくその事に気がついた桐原は、おそらくこの計画の首謀者であろう多胡を軽くにらむ。
(も〜……どうするんだよ…)
こうして、桐原の心の動揺はひどくなる一方で、和やかな会話が始まったのだった。