第二章
「であるからして・・・君たちはこの爽山高校の未来を・・・・・」
入学式での校長の挨拶は決まりきったものであった。
クラスごとに一列に整列してその話を聞いていたのだが、生徒たちはそんな話は全く聞こえないという風に、それぞれこれから始まる学校生活に胸を膨らませていた。
「ったく……なんでどこの学校も校長の挨拶は長いのかね〜…」
山本が文句を言いながら廊下を歩いて教室に帰ってゆく。
後から多胡と桐原もついていく。
「ま、いいか!クラスに帰ったら………可愛い女の子でもさがすかな〜♪ クラスに可愛い子が多いといいんだけどな〜♪」
まあ、新しい学校に入った男子生徒の本音などこんなものであろうから、心の中で思っている分には問題はない。
しかしそれも周りに聞こえるような大声で言うのだから、周りの女子がくすくす笑っているのが聞こえるのである。
多胡は笑いながら、
「ははっ、確かにね」
と、爽やかに相槌をうっていた。
(多胡も意外と天然なのか………?)
桐原はそんなことを思いつつ、周りの女子の好奇の視線を避けようと、二人から一歩後ろに下がった。
すると………
「あっ、」
後ろにいた誰かの足を踏んでしまったらしい。
後方から女の子の小さな声が聞こえた。
「あ、す、すみません」
桐原が後ろを向きながら誤ると、
「あ、うん、大丈夫。私のほうこそぶつかってごめんなさい」
後ろに立っていた女子は、こちらに笑顔を向けながら言った。
ドキッ………
(か、可愛い……)
唐突であるが、美少女を見たときの反応など、大体こんなものである。
「あ、えっと……。うん…」
何が「うん」なのか分からないが、桐原はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「えっと…それじゃあ」
その美少女は、そのまま立ち止まっていた桐原を追い越して、前へと進んでしまった。
「お〜い、どうしたんだよ? 桐原?」
先へと進んでしまっていた山本と多胡が、ボーっして立っていた桐原のもとへと戻ってきた。
「え、ああ………おう」
桐原は二人に気づき、とりあえず返事をする。
その様子を見た多胡がにやっと笑って言う。
「ふ〜ん………。一目惚れ?」
(ドキッ!)
桐原はその言葉に動揺を隠せなかった。
「おい、マジかよ!? 誰!? どんな子だ!?」
その言葉に反応した山本が、桐原にものすごい勢いで質問を浴びせかける。
「な、なんで………」
桐原の顔の赤さと、心臓のドキドキをみれば、そんなに難しくない推理である。
桐原は驚きの表情を隠せない。
「う〜ん……その女の子はショートカットの活発そうな女の子。笑顔が可愛くて…………
いつもの爽やかな笑顔で話し始めたのを、桐原がとめた。
「ちょ、ちょっと、何でそんなことまで…」
確かにその美少女はショートカットで、制服のスカートを短くしていた明るそうな女の子だったのだが…………
多胡はにこっと笑って、
「予知能力♪」
(うそだ………絶対うそだ………)
「すげーな多胡!! お前すごいよ!!」
多胡の言葉を素直に信じてる山本が賞賛の言葉を多胡に浴びせかける。
「というのは嘘で……」
多胡は悪びれた風もなく、
「さっき振り返ったときに桐原君の隣を可愛い子が通り過ぎていくのを見たからきっとこの子かな〜?と思ってね」
「マジで!? あ〜俺も見たかったな〜」
山本が、実に残念そうにくやしがっていた。
「見れると思うよ?」
多胡の言葉に反応したのは、山本だけではなかった。
「な、なんで?」
桐原が多胡に聞いた。
「さっきあの教室に入っていくのを見たからね」
といって、一年C組の教室を指差した。
「おっしゃ〜!! 同じクラスじゃん!!!」
山本は張り切ってその教室のほうへ歩き出した。
それに多胡がくすくす笑いながらついていく。
桐原も、心の動揺を抑えきれぬまま、二人の後へとついていった。