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第一章

 さくらの花びらが舞い散る中で、新しい制服に身を包んだ少年少女が次々と門をくぐっていく。


空には雲ひとつなく、さわやかな風と花の香りがあたりを包み込む。


 今日はこの私立爽山高校そうざんこうこうの入学式である。


偏差値60と、かなりのレベルを誇っているこの高校には、全国からたくさんの優秀な生徒が集まってくる。


しかも、勉強ばかりではなく、スポーツでも、何度もインターハイに出場しているという、まさに文武両道な生徒たちなのだ。


その生徒たちが集まるこの爽山の校舎は、今年改築したばかりで、太陽の光に照らされて、壁が白く光っていた。


 さて、学校内に入った新入生たちがまず向かうのは入り口前に張り出された組み分け表である。


そこで生徒たちはそれぞれのクラスを探している。


お互い、全くあったこともないため、会話の声は聞こえない。


ただ、そこに並んでいる先生たちの誘導の声が聞こえるのみである。


「1−C・・・・・・1−C・・・・・・・・・。ここか」


教室前に張ってある紙を見ながら、その少年は足を止め、ドア手をかけた。


ドアはガラリと音を立てて開いた。教室にはまだ10人ほどしかいない。


女子は女子同士、男子は男子同士で集まって話をしており、その他のものは、本を読んだり、勉強したりしていた。


 何人かがちらりとその少年のほうを向き、そしてまた自分たちの行動に戻っていく。


 少年は教室へと入り、前の黒板に張ってある座席表を確認した。2人ずつの組の机が縦に5つ

並んでいるものが3列。


計30人のクラスらしい。少年は自分の名を探した。


(桐原・・桐原・・・桐・・)


彼は教室のど真ん中の席の右側が自分の席であることを発見した。


そして自分の席へと向かおうとしたとき、ある名前にふと目がとまった。


それは、彼の隣に座るはずの少女である。


(桜川・・・・・由紀・・・? どこかで・・・・・・・・・・・・・・)


少年は首をかしげ、自分の席へかばんを置いた。


「おす!俺、山元圭一郎やまもとけいいちろうってんだ!ヨロシクな!」


彼自分の席へ座るや否や、彼の席の通路をはさんで右側に座って、前に座っていた男子と話していた少年から声をかけられた。


「お、おう・・」


いきなり話しかけられた少年は少し面食らったが、


「俺は桐原優斗。ヨロシク」


と手をさしだす。すると山本と名乗った少年は、勢いよくその手をつかんで握手した。


「いいね〜! そういうノリのいいやつ好きだよ!!」


すると、山本の前に座っていた少年も


「ボクは多胡洋介たごようすけ。これからよろしく」


と、黒く日焼けした、大柄な手を彼にさしだした。


桐原は彼の手を取り握手をし、3人で軽く話をした。


 聞くところによると、山本は静岡の出身で、一人で都会まで出てきて寮で暮らしているのだという。


と言っても珍しい事ではなく、全国から生徒が集まってくるこの学校には数々の寮があり、学生は全体の30%にものぼっているという。


「昨日寮入りしたんだけどよ、いや〜なんつうか・・・・めんどいね! 母ちゃんの大切さがやっと分かったよ! うんうん」


と言ってうなずいてる山本に、多胡と桐原はくすくすと笑っていた。


お調子者に見えるこの山本だが、聞けば静岡県一の中学に通っていて、そこでも成績はトップクラスだったという。


「みんななんでか俺の事バカだと思ってんだよな〜。なんでだろうな〜?」


その性格が天然なのかそれとも計算されたものなのかはよく分からないのであるが、


「なあなあ、俺この学校に入ったのはな、この学校の食堂って日本でもトップクラスにうまいらしいんだぜ! 調べたんだけどな、特にラーメンのスープが鶏がらをベースにみりん、しょうゆ・・・・・そして隠し味が・・・・・」


どうやらただの天然らしい。


多胡のほうはこの近くの出身で、中学校のころは、野球部で、全国大会で準優勝するほどのチームで、エースピッチャーをしていたらしい。


「マジかよ!? お前運動できんのに爽山入ったの!? ってかなんで入ろうと思ったんだ?」


山本は驚いて多胡に質問する。


「いや、ボクはそんなに頭は良くないんだけど、たまたま受かっちゃって・・・・。それにこの学校野球部も甲子園何度も行ってるし、どうしても来たかったからね」


多胡の物腰柔らかな受け答えは、どうもスポーツマンというイメージとはかけ離れていた。


「君はどうなの? 桐原君」


多胡がゆっくりと桐原のほうを向きながら言った。


「俺は・・・・・・・


桐原が言いかけると、その瞬間に校内放送がかかった。


「新入生の皆さん、新入生の皆さん。今から入学式を始めますので、体育館に集合してください。繰り返します・・・・・」


気がつくと、教室にはかなりの人が集まっており、あちこちでできていたおしゃべりに輪がゆっくりとほどけて廊下へ出ようとする人の波になっていった。


「おい、行こうぜ、桐原」


山本の言葉で三人は立ち上がり、人の波に乗って教室を出て行った。

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