第四話 毒と条件反射
私は部屋に戻り、青のドレスに着替えた。
ドレスに着替える際、髪は解いた。
そして、バンダナと手袋をはずす。
すると、手の甲に描かれた魔法陣があらわになった。
解いた髪は次第に邪魔になってポニーテールに結い上げた。
すると、前髪も少し持ち上がり、額に小さなクリスタルが見え隠れした。
バンダナはその宝石を隠すためのものでもあった。
額にはめられている小さな宝石を隠すように髪を解き結いなおした。
イヤリングはそのままにし、私は部屋を出た。
そして食事の間に私は向かった。
食事の間の扉の目の前にあのときにいた側近がいた。
「ルミー様、その手の甲は・・・」
側近は戸惑った。
「これは・・。あなたには関係ないものよ。
消せないものだし、べつにいいでしょう?」
側近の戸惑いが私の思うこととは違うことだと分かっていながら言い放つ。
「そう・・ですね。
じゃあ、お入りください。
皆様がお待ちです。
席はシン様の右隣に。」
使者はそう言って扉を開けた。
食事の間にいた者は皆、私に視線を向けた。
私はそんなものは気にせず言われた席に着く。
シンは私ではなく、私の手の甲を見つめていた。
「・・・・」
「・・・・」
シンは何も言わないから私も何も言わない。
しばらくすると、王も現れた。
そして食事は始まった。
皆が食事に手をつけ、おしゃべりを楽しんでいる。
私は食事に手をつけられなかった。
いや、手につけれるものではないと思う。
なにせ、毒入りのものだと分かってしまったのだから。
私は出された料理を無表情に眺めた。
毒が入ってる・・・。
側近の話が今理解できた気がする。
王子の隣ってすごい厄介なものなんだ。
私は今思い知った。
いや、そんなこと考える必要なんてないし、ただそう思っただけだけど。
毒が入ってるって事は私、帰ってもいいよね?
ねぇ、誰か、帰ってくださいって言ってよ。
ドレス着て、
皆が集まる所で
なんで食事会なんて
しないといけないの?
私はそのまま、料理を眺め続けた。
「食べないんですか?」
側近が私に聞く。
「・・。
知ってて聞くの?」
思わず私は言い返してしまった。
「は?」
側近は眉をひそめる。
「私、気分悪いから部屋に戻るね。」
「!!」
「?」
側近は目を見開き、シンは眉をひそめる。
私は呪文を唱え始めた。
瞬間移動という高度な魔法。
これは私が研究に研究を重ねて作り上げたオリジナルの魔法。
それを今呪文詠唱している。
本来ならすぐにでもその場から移動できるが今回はやたらと呪文の効き目が遅かった。
傷のせい・・・かも。
そう思えて仕方がない。
だが、そう思う余裕がなくなった。
今、呪文は完成した。
「移動」
私は呟いた。
そしてその瞬間、私は 食事の間 から消えた。
ヒュッ・・・スパン
到着したのは自分の部屋。
この城で用意された自室だ。
「うっ」
私は口元に手を当ててひざを突いた。
あ、やばい、吐き気がしてきた・・・
この瞬間移動の欠点は酔うこと。
私は酔いやすいほうだから余計に吐き気がする。
馬車の酔いもいまだにまだうっすらとあったからそれに追加して気持ち悪かった。
そして突如、腹痛も増してきた。
「くっぅ”っーー!」
私は苦痛に耐えかねてその場に倒れてうずくまる。
・・ヤバイ・・・意識が朦朧としてきた・・・
視界もぼやけたとき、部屋の扉が ガターン と音を立てて開かれた。
「おいっ!!」
そう、叫んだのはシンだった。
シンは私の傍まで駆け寄り、抱き起こした。
「うぅ”・・」
急に体が起き上がるから吐き気が増し、腹痛も増した。
「おいっ、どうした!?」
「っーー」
シンが声を荒げて叫ぶ。
そして体を揺らす。
「おいっ!・・・・・・!?」
シンの目は見開かれ、揺さぶられる手が止まった。
シンには見えたのだ、私の額で光るクリスタルを。
「・・・・」
「・・・・」
しばらく沈黙状態に陥っていた。
その間に吐き気と腹痛は治まってきた。
それを感じると
「もう、大丈夫だから。放して」
と、私は言ってシンから逃れた。
シンは私を抱き起こした手を私から放し、
次は私の前髪を跳ねのけて、額をまじまじと見つめた。
私はその手を振り払って立ち上がった。
シンもそれにつられて立ち上がる。
「お前・・・」
「クリスタルはあなたに関係ない。
もう大丈夫だから帰ってもいいよ。」
私はシンから目をそらして言う。
「・・・・」
シンは黙ったままその場を動かず私を見据える。
帰っては・・・くれないか。
私は言葉で言うのを諦め呪文を唱えだした。
「?」
私は小さい声で呪文詠唱する。
呪文は完成し、私はシンの手に触れた。
すると、瞬時に私の前からシンはいなくなった。
私が追い出したのである。
開け放たれた扉を閉めて私は着替え始めた。
追い出されたシンは今はまともに動けないだろう。
そんなことを考えながら私は着替えを終わらせ、ベットにもぐりこんだ。
そしていつしか眠っていた。
夜、気配がした。
その気配は私の部屋に近づいている。
殺気はなく普通の人が出す気配なのに、
その気配を持つ人が部屋の扉を開けたとき、私はその人に刃を向けていた。
「!?」
「・・・・」
その気配の正体はシンだった。
シンは目を見開き、しりもちをついた状態で硬直している。
そう、私は今その人を襲ったのだ。
扉が開かれその人が入ってきたとき、
私は飛び起きて小刀を持ち、その人に切りかかった。
その人はその驚きで隙を作り
私がそれを狙ってバランスを崩させ、しりもちをつかせたのだ。
そして小刀はシンの首に突き刺さる直前にある。
「ぁ・・・あなただったのか」
私はそう呟き小刀を下ろした。
今、ようやく私は意識をはっきりさせたのだ。
つまり、今までの行動は 寝ぼけていたための行動 だったわけである。
あ・・・体が勝手に・・・。
この前もそうだったなぁ。
私はこの前のことを思い出していた。
大会が開かれた夜、ゼンが私の部屋に訪れたのだ。
そのときも私が寝ぼけて反射的に襲い掛かったわけだが・・・。
あぁあ。
同じ過ちを繰り返してるし・・。
私はんー困ったなと考える。
どうも、魔道士やってると、仕事をやった夜とか、その前の夜とかに
倒して名を上げるって言う連中が寝込みをよく襲ってきたのだ。
だから、条件反射っていうのかな。
このごろは相手に殺気がなくても襲い掛かってるし、今回も・・。おなじように。
「ごめんなさい、つい、体が勝手に・・・・・・・・うぅ”」
私は謝ろうとした。
だが、腹痛が襲い言い訳がいえなくなる。
「!?」
私は自分が支えられなくなりひざを突く。
カタン
と、小刀が床に落ちた。
私は腹に手を押さえ、うずくまる。
「おいっ!」
シンが叫ぶ。
「う”ぅ”うぅ」
私は我慢できず倒れこむ。
シンは私を支え、
「おいっ、どうした!?」
と言って叫ぶ。
さっきみたいに痛みがおさまる気配はなかった。
逆にひどくなるばかりだった。
激しい痛みが私を襲う。
「う”っっう”ぅ」
激痛に苦しさも加わって意識が朦朧としてきた。
「おいっ!?お前・・・!?」
シンの声のトーンが一気に変わった。
明らかに動揺していた。
さっきとは違う同様だった。
それは驚きだけではなく戸惑いと衝撃的な事実が映っているかのような声の響き。
私はその声に一度、目を開き、シンを伺った。
シンは私の腹部を凝視している。
私は自分の腹部を見た。
そしてそこを抑えていた自分の手も。
「ぇ・・・・?」
私は一瞬痛みを忘れた。
その衝撃的な事実を見て。
それを触れていて。
それは・・私の 血 だった。
紅い血は私の腹部を赤く染めている。
そして手もまたうっすらと染めていた。
そのことに気づいたシンも衝撃的過ぎて凝視することしかできなかった。
だが、痛みを忘れていれたのはその瞬間だけだった。
「くぅっ!・・う”ぅう」
激しい痛みに私は体をよじらせ、うずくまる。
そのことにはっとしたシンは
「お、おいっ!!しっかりしろッ!!」
と、さけび、私を抱き起こす。
だが、その行動で私の意識は暗転した。
体はシンに預けるように、そして首はカクンとのぞけった。
シンはそれに激しく動揺し、すぐに側近を呼んだ。