第十七話 南の雲雀
ここからはアシュラが冒険します。
ちょっとルミーちゃんはおやすみですっ
「主人公だけどべつにいいや」
「ハンッ俺様が主人公だー、はっはっはっ」
これが二人の温度差です。
アシュラは南のほうを飛んでいった。
長い間飛んでいるがいまだに同族の気配はしない。
・・疲れたな・・
そう思ってアシュラは近くの林に降り立った。
「!・・」
「!!!?」
アシュラハ目を大きく見開いた。
近くに人間がいたのだ。
そいつはアシュラに気づき、腰が抜けたのかストンとしりもちをつく。
「・・・・」
・・こいつの魔力・・欲しいな・・
不意にそう思う。
これは魔族の欲求なのだろう。
ルミーの傍にいてもこれほど感じたことのない欲求が全身を駆け巡る。
まぁ、もっとも、封印される前はその欲求に身を任せていたのだが・・。
「っーーーー!!」
そいつはまだ幼い子供だった。
だが、秘められた魔力はとてもそそられた。
・・食べてしまえばらくなのだが・・
そう思ってそいつを見る。
するとそいつは目を潤ませ後ずさりをする。
「~~~」
そんな顔されるとやろうにもやれないでいる。
人を食らうには二つの方法があった。
己の魔力で生み出した攻撃で相手を倒し、
気体に散らばった魔力を食らえばいい方法
相手の体を引き裂き、血を食らう方法。
二つ目はまるで吸血鬼だが、ようは魔力があれば何でもいいのだ。
アシュラはその後そいつとにらみ合いが続き、
アシュラは欲求に負けてそいつを食らった。
「・・ウマイ」
口元をぬぐって呟いた。
この味を覚えると止められない。
それは分かりきったことだった。
その後も近くの村でアシュラは人を食らい続けた。
アシュラは人を食らうことで快感を覚え理性もなくなる寸前であった。
だが、その理性を取り戻させたのは・・
目の前にいる少女だったりする。
「・・・・」
「ぃやぁ・・こなぃでぇ!!」
少女は叫ぶ。
アシュラは近づき、はっとした。
・・ルミー・・・
そう、アシュラはそこにいる少女とルミーが重なって見えたのだ。
アシュラは理性を取り戻し、辺りを見回した。
あたりは悲惨なことになっている。
村の家々は壊れ、あたりは血生臭く人の気配はもはやない。
この村も残りはこの少女のみになってしまったのだ。
少女の目から涙が溢れ、いやだいやだと死にたくないと嘆いている。
そんな弱い少女がなぜかアシュラにはルミーと重なって見えてしまったのだ。
ルミーは感情に乏しく、冷たく、
涙を流すとこなんて剣のときに数えるほど見た程度である。
そんなルミーと、この・・泣き叫び死に怯える少女と、重なったのだ。
少女からは霊力と魔力の混沌の力を感じる。
食らえないわけではない。
食らおうと思えば食らえるのである。
アシュラの心には 「悪魔」 と 『天使』 がいた。
「ほらほら、おいしいだろう?くっちまえよっ」
悪魔がそそのかす。
「だめだっ、ルミーに合わす顔がねぇだろう?」
天使が言う。
「いいじゃんか、もとは敵同士だ
そんなことよりこいつはめったにいないレアモノだぜ?
そういうのははやいもんがちなんだよっ」
悪魔がいろいろ並べ立てる。
「いくら前は敵同士だったからって今は違うだろ?
剣になって反省したんじゃないのかよっ!!」
天使が頑張って訴える。
悪魔と天使がアシュラの心を揺さぶる。
・・俺は・・・・俺は・・っ
だが、アシュラは結局悪魔のささやきに乗ってしまった。
アシュラが少女に近づいていった。
「ひぃい”ぃいい””」
少女は後ずさりをする。
そうそのときだった、
アシュラの前に何かが現れ少女の肩にトンッと手を置いたのは。
アシュラはそこで立ち止まる。
・・止めてくれた・・
アシュラは救われたと思う。
アシュラは悩んでいる今、
本当に本心から少女を欲しいなんて思っていなかったのだから。
悪魔にささやかれただけであって。
「僕の獲物に手を出さないでよネ?
僕のお仲間君」
その者は俺に言った。
「・・・・」
俺は一目見てこいつが仲間だと分かった。
そして理性も完全に取り戻した。
「・・。
悪かった。一度味を覚えるとヤミツキになってしまうからな。
助かった、礼を言う。」
俺は言った。
「ヒックッヒック~~~、ひっ雲雀・・」
少女はそいつを見上げしゃっくりを上げながらそいつの名を呼んだ・・と思う。
「ふんっ、分かればいい。
これは僕のだって事が分かればネ」
そいつは言った。
「君・・僕を探してたみたいだけど
・・途中で食事なんかしちゃって道草くってたけど
僕に何の用?
あ、僕は雲雀。魔族、朱雀族、神族、の血を引き継いだ神魔だ。」
そいつは俺に嫌味っぽく言った。
・・まぁ、そうだがな・・
心のうちでそう思った。
雲雀は黒髪で少しクセッ毛、瞳の色も黒で、目元には十字架の黒い刺青がある。
ただ・・背中には翼が生えており、天使かと思うほどの両翼だが
着こなしているのは黒いスーツ、手にはどの指もリングがはまっていて、
鎖がくくりつけてある。
そしてきれいな顔立ちに浮かぶ笑みは悪魔の笑み。
「俺はアシュラだ。魔族と神族の混血・・神魔だ。
雲雀を探してたのはだな・・復讐をしないかって誘いに来るためだ。
まぁ、もっとも俺も誘われた口だが・・。」
俺は言った。
「復讐?
俺たちを蔑んだあいつらにっーーていうやつの?」
雲雀は聞く。
「あぁ、そうだ」
俺は頷く。
「んー~~」
雲雀は少女のほうをチラッと見ながらなにやら考え始める。
少女は泣き腫らした目で見上げて雲雀を見る。
「ん、イイヨ。」
なにやら考えて雲雀は頷いた。
「そうか・・ならーー」
「ただし・・」
「!?」
俺の声を雲雀はさえぎった。
「ただし、この子は誰にも食わせないから。
それが条件。
まぁ、実際のとこ助かったんだよネ」
雲雀は言う。
「・・何が?」
俺は問う。
「君が全部この村の奴を食事のオカズにしちゃってもういないから
心置きなくこの子を連れ出せると思ったからネ。
それにーー、君にもいるようだしネ、獲物がネ」
雲雀はなにやらたくらんだ笑みを浮かべて言った。
「っー~~~」
その言葉を聴いて俺にはなぜか、ルミーのことが頭に浮かんだ。
「どうやらいるようだネ、この子を襲う前一度正気に戻ったみたいだったから
おそらくと思って検討つけてたんだけどネ」
雲雀は言った。
「・・あぁ、いる。
じゃあ、交渉成立だな?」
「モチロン」
俺の言葉に雲雀は頷いた。
「あ、この子はルピナ。
霊術師と魔道士の間の子らしい。
ホラ、ルピナ、あいさつあいさつ」
雲雀は少女を促した。
「るっ・・ルピナ・です」
少女は俺の目を見て言った。
さっきのような怯えは消えていた。
「あぁ、俺はアシュラだ」
俺も改めて言った。
「で、これからどうするの?」
雲雀は聞いた。
「とりあえず一度、俺を誘った蛛陰のもとへいく。」
俺は言った。
「あぁ、分かった。
なら僕もついてく。
ルピナも抱えて持ってけばいいわけだからネ」
雲雀は言った。
「あぁ、それでいい、いくぞ」
「オーケイっ」
俺の言葉に雲雀は頷きそして飛び立った。
蛛陰のいる場は北。
今と逆方向の中、二人は・・いや、三人は向かうのだった。