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第十一話 無自覚な無茶、封印の過去

私は宿に戻り、宿のオーナーに依頼達成の報告を頼み、借りた部屋に戻った。


荷物をまとめて剣を手に持った。


先ほど泉においてきた破邪の剣だ。


あれは持ち主の元へ勝手に戻るという特殊な剣だ。


それ相応の代償はあるが。


・・また・・封印か・・


そう呟きそうになるのを抑えながらアシュラのほうをみた。


「・・・」


アシュラは壁際に背をもたれさせながら腕を組み、私をにらむように見据えている。


・・・さまになっている・・・


腕を組むアシュラをみて私は呟きそうになった。


容姿がずば抜けてるせいか、意外にもそういう体勢はけっこうカッコイイ。


性格を抜きにすればの話だが。


・・。


それはおいといて今は封印に集中しなければならない。


私はアシュラと向き合い剣をアシュラに突き出した。


「・・また俺様を封印するきか、貴様」


アシュラは私に鋭い視線を刺し壁から離れた。


・・・。お前から貴様になってる・・・


不意にそう思った。


「当然するに決まってる。

ほっとけば何をするかは分からない。」


私はそう言い放ち、魔力を手元に集中する。


「はっ、助けられていてよく言えたもんだ。

この俺様がいたから今があるんだぞ?」


アシュラは私をあざ笑うかのように言う。


「じゃあ、助けたことを後悔すれば??」


私は冷たく言い返し、呪文を唱え始める。


「なんだとおぉ!?」


アシュラは怒りの混ざった声を出す。


私はかまわずに詠唱し続ける。


ガシッ!!!・・・・ドンッ・・・カラン・・・・


「っーー!?」


私は一瞬何が起こったかわからなかった。


だが・・首からする鈍い痛みとたたきつけられた背中の痛みから

今の状況を察することができた。


私は今、アシュラに首をつかまれ背中を壁にたたきつけられたのだ。


私の目の前には私をたたきつけたアシュラ本人がいる。


足元には手から落ちた剣がある。


「・・・」


本来なら呪文詠唱途中で攻撃されても迎撃できるはずなのだが・・・。


アシュラは私を見つめ、噛まれたところを首をつかんだ手でわざと触れた。


そしてわざと力を加える。


「ぅ”・・」


言うまいと我慢したが体はそうもいってはおれず、うめき声がもれてしまった。


「はっ、今ので分かっただろ?

貴様は俺様を封印できず抵抗もできないんだ。

貴様は今の自分(・・・・)を理解できているのか??」


アシュラは首をつかむ手の力を緩めて言う。


「理解・・してるけど・・・?」


・・今の自分?・・アシュラは何を言っているの??

・・そんなの・・自分が一番知っているのに・・・


私はそういう意味も含めて言う。



はぁー


普通なら誰もがそれを聞いてため息をするだろう。


シンもゼンもそういう反応を示したのだから。


だが・・。


「!?・・・ったく、貴様、俺様を何だと思ってるッ!?

俺様は魔族だぞッ!?

魔には過敏に反応をする俺様が気づかぬわけがないだろうッ!!」


アシュラは逆切れした。


いや、キレた、というべきかもしれない。


・・何に気づかないわけないって言っているんだろう?アシュラは。


「気づく??」


私は鸚鵡返しに聞く。


「しらばっくれるなぁああっ!!!

貴様の体がどれだけ限界なのかは見れば分かることだろう!!

それとも俺様をなめてんのかぁああ!?」


アシュラは耳元で怒鳴り散らす。


限界??

そうでもない気がするけど。

それにナメてるって・・。思い込み激しすぎ。


「限界??・・ナメる??別になめてなんかはいないけど・・?」


私はいかにも不思議と言う口調で言う。


「くそっ、貴様は自覚もないのかッ!!

とにかく、貴様は俺様を封印しようとするなッ!!」


アシュラは叫ぶ。


「何で?」


私は聞く。


封印しないとまたアシュラはすき放題やらかすのに。


何かに縛られないと契約があってもうっぷんばらしになにかをこわすくせに。


そんな思いも込めて。


「いいから、封印するなッ!!

とはいっても今の貴様はできないだろうがな。

それはいいが、もう貴様はあとはあの城に帰るだけだな??」


アシュラは諦め混じりに聞く。


「そうだけど・・なんで聞くの??」


私は警戒心むき出しにして聞く。


「俺様が連れてってやるからだっ!!」


「!?」


アシュラの意外な一言に私は自分の耳を疑った。


「フン、この俺様がお前を連れてってやるんだからな。感謝しろ」


アシュラは勝ち誇ったかのように言う。

どこが勝ち誇っているかは全く分からない私だが。


「誰も頼んでない。」


私は言う。


「ハァア!?俺様が、この俺様が運んでやるって言ってんのにまだ言うかっ!!

運んでやるっていってんだからおとなしく従って感謝しろッ!!」


アシュラはキレる。


「おとなしく従ういわれはない、あと感謝も」


私はアシュラの目を見て言い切る。


「!!!?」


アシュラの眉はピクーンとはね上がり、続けざまに


「あぁーもういい!!

とにかくお前はもう黙ってろっ!!!」


と、叫び散らし、私を強引に抱き上げた。


「なっ!?ちょーー?!!」


私はアシュラの意味不明な行動に頭と体がついていけなかった。


だが、体も心も拒絶していることは確か。


私は必死で抵抗する。


だが、アシュラは私を力任せに押さえつけ私の荷物をひょいっと魔力で持ち上げた。


「なっっーー!?どうする気!?」


パニクッタ頭で何とか問う私。


「ハァア!?、決まりきったことを聞くんじゃねーよっ!馬鹿がッ」


アシュラはそう言うと


「-----」


人間の発せられぬ呪を唱えた。


すると、


グウ”ォン”ンン・・・


と、鈍い音が発せられ、空間が歪んだ。


視界も歪み、体が不安定になる。


頭もカナヅチで殴られたように割れるような頭痛がした。


だが、それも一瞬のこと。


すぐに空間のゆがみはなくなって体は安定した。


だが、風景は部屋の風景ではなくなっている。


「ほぉお、お前、そんな体でよく意識が保てたな?

普通、今ので人間は少なからず失神するはずだが。」


アシュラは何か奇妙なものを見るような目で見る。


ーー人間じゃない


私はそう言いたかった。


だが、体が言うことを利かない。


体に力が入らなくなり何も考えられなくなりつつある。


「おいっ、どうしたっ!?」


アシュラが叫ぶ。


・・まだ・・気を失っちゃだめだ・・・

・・まだ・・・・こいつに・・・身を任せては・・・

・・・・意識だけは・・・・気を・・許しては・・・だめなのに・・・


私は最後まで歯を食いしばり自分の朦朧とする意識の中で抵抗した。


それを察したアシュラは、ふっと笑い


「強がるな。自分の体に身を任せろ。

俺様を・・俺を・・信用しろ」


と、私に向けて言う。


優しい口調だが言葉は命令口調。


表情からして心から言ってくれてるんだと頭では理解しても私は信用できなかった。


最後の最後まで私は気を許しはしなかった。


私は抵抗しようもないいろいろなものに打撃を受けて意識を失った。








アシュラは最後まで自分に気を許そうとはしなかったルミーを見つめる。


・・ここまで警戒されるとはな・・・


そう思いながら自分の腕の中にルミーを見ていた。



気を許してもらうことは簡単ではないことは自分でも分かっていた。


こんな性格だし、ルミー(こいつ)に対していろいろと傷つけたりといった前科が以前にあったという過去もあった。


ルミーに対しての態度の変わりようは自分が封印されるまではなかった。


もっとも、封印されるまでは

人を、いや、生きる存在(もの)全てを憎んでいた。(今も)


アシュラは封印される前のことを思い出していた。



アシュラは今まで魔族として生きてきた。


だが、いつの日からかその身に神気が溢れ、

魔族の持つ邪悪な気、邪気を放つことはなくなり、かわりに神気が放たれるようになった。


本人の意識関係なく。


そのせいか、周りの魔族からは忌み嫌われ続け、

魔族と対立関係にあり、世を統べる神族からも見放されていた。


そのせいか、アシュラは自分を蔑み心には不満や怒りが満ちるばかりであった。


その怒りや不満がついに町の人々に害をもたらした。


人々にやつ当たりすることによってアシュラは快感を覚えた。


快感を覚えるとそれはやめられなくなった。


そこで止めたのはルミーだった。


この頃のルミーはアシュラと同じ人々から蔑まれて生きてきた者であった。


そのせいか、ルミーの言葉には棘があり、今以上に冷たかった。


「あんたがいると人が死ぬからやめて」


ルミーがアシュラに言った最初の言葉だった。


「フン、そんなこと知るかよ、俺がどうしようと俺の勝手だ」


このときのアシュラも自分のやりたい放題のことをしていた。


「じゃあ、私も勝手にやるから」


ルミーはそう言っていきなりアシュラに攻撃を仕掛けた。


「なっ、人間風情が俺にたてつくのかっ」


アシュラは攻撃されたことに驚く。


「私のすることはあなたが決めることじゃない」


ルミーは言いながらも攻撃を続けた。(このときのルミーはまだなりたての魔道士)


「フン、俺様に攻撃したことを後悔するがいい」


アシュラもそう言い反撃し始める。


その反撃した攻撃物でルミーはアシュラが神魔だということに気づく。


「神魔か。名前は?」


「アシュラ。アシュラ、シューティーン」


アシュラは不満にも自分の名前を素直に言った。


アシュラもルミーがどういう素性のものか分かったからだ。


そしてそこから果てしない闘いが続いた。


その闘いは命の取り合いだった。


両者ともども最後には瀕死状態に陥ったぐらいだ。


瀕死状態であるにもかかわらずアシュラには負けるはずがないと確信を持っていた。


一方、ルミーもアシュラは滅ぼせないと確信していた。


だからなのか、瀕死状態にもかかわらずルミーは破邪の剣を召喚した。


破邪の剣は別名、邪清の剣 とも呼ばれている。


邪を破る剣の意味はその字の意味も含め、

邪を吸収し力に変えるという意味も含まれていた。


邪を清める剣は字の意味どおりで邪を清め、神気を強める剣でもあった。


その二つの名をもち、その剣には盟約の剣という剣本来の名があった。


盟約する者は剣自身が選ぶ。


そう、剣にも意思があったのだ。


その剣にルミーは何とか力を振り絞ってアシュラを封印した。


その後ルミーはしばらくの間、昏睡状態であったが。


アシュラはその封印を何度も解こうとした。


早く出たい一心で。


何故出られないのかっとアシュラは自問自答していた。


そんなとき、アシュラの頭に直接声が聞こえたのだ。


ーーお前が邪悪な心を持っているうちはこの封印はとけないであろう


と。


そしてそこからは

アシュラと剣とで口げんかにも近い会話が長い年月の間繰り返されていった。


アシュラを剣に封印したルミーはしばらくの間剣を放置していた。


だが、ルミーはたびたび剣の刃を磨いていた。

無表情でせっせと丁寧に磨いていく。


そのとき、剣を通してルミーの感情が入り込んできたのだ。


ーーみんな、私が役に立つとわかるようになってから態度を変えた・・


ーー前は私を避けていたのに・・・

今度は何をたくらんでいるんだろう


ーー私はただ存在価値を否定しないで欲しいだけなのに、

認めて欲しいだけなのに


ーー道具になんてされたくないのに


アシュラは入り込んできたルミーの感情に頭が混乱した。


封印される前に話した会話では

こんな風な子供じみた態度をとってはいなかったはずだ。


いや、こいつはまだ子供だ。

これが当たり前なのだろう。


だが、人に弱みを見せず毅然とした態度をとるほどこいつはどんな環境にいたのか・・


けして、人に弱みを見せない。

けして、弱音をはかない。

けして、警戒心を怠らない。

けして、信用しない、気を抜かない。


その四つがこいつをしばっているのだろうか?


アシュラにはルミーが泣き叫んでいるようにしか思えなくなっていった。


そのときからアシュラがルミーに対する見方をかえはじめたのだ。


だが、時がたつにつれルミーの心までもが子供ではなくなった。


多少は子供のようなときもあったが。


そのことが気になりだしたアシュラに剣は言う。


ーー我が主、ルミーは心を病んでいる。


ーーお前も聞いているだろう?心の叫びを。


ーー本来、始めに聞いたような心の声が今の年齢と同じになるのだ。


ーーこういってはなんだが、我が主はまだ子供なのに大人びすぎだ。


ーー主の境遇とお前の境遇は似ているな。


ーーお前の開き直りと主の凍結した心・・それはまるで正反対だが・・。


と。


剣自身も苦痛なのだ。


アシュラは剣の言葉とルミーの心の声に心を揺さぶられていたのだ。



まぁ、悩んだ結果、こいつを助けたい一心で封印を破ったわけだが。


アシュラは昔を思い出しながら再び思うのだった。


・・どうにかして、俺にでも警戒心は解いてもらわないとな・・・


と。





長くなりました。


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