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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

現実を見よう

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/07/16

手慰み第数弾であります。

暑過ぎ注意です。

季節的にも、話的にも。


P.S 乳児言葉に、ルビいれてみました。

 奇妙な親子と面会したのは、三人が初めてこの国に召喚された部屋だった。

 突然、日本から連れてこられた三人は、それぞれ全く面識がなかったが、揃って元の国に戻る条件内容を不審に思って国を逃げ出し、国境近くで拘束されて連れ戻され、現在に至る。

 契約執行の為、その国は不気味なくらいに丁重だったが、三人は既に、答えを決めてしまっており、契約関係を白紙にし、別な日本人を召喚する運びになったらしい。

 その奇妙な親子の後ろから、いつも腰が低い魔術師らしき男が、部屋に入ってきた事で、それは容易に分かった。

 思わず三人の内、ただ一人の男が声を上げる。 

「あんたら、分別と言うものが、ないのか?」

「いくら国の一大事とやらだからって、赤ちゃん連れを攫ってくるなんて、最低」

 冷えた目で見た女にもそう言われて、魔術師らしき男は身を縮めた。

 もう一人の女も、彼を極悪人と見ているのが明らかで、同郷の男の背後から顔すら出さない。

 そう、魔術師らしき男が連れて来たのは、日本人らしき母子だった。

 しかも、ようやく首が据わり始めたばかりの乳幼児と、その母親だ。

 顔を伏せたままの母親は、こちらをキョトンと見つめる乳幼児をしっかり抱え、黙っている。

 身を縮めつつも、魔術師は静々と前に進み出、三人にそれぞれの署名済みの契約書と、新たな契約書を差し出した。

「この方々との契約を結ぶ前に、あなた方との契約を白紙に戻します。こちらをご確認の上、署名していただけますでしょうか?」

 これは、人情を試されているのか?

 男はちらりと思ったが、躊躇ったその間に女二人が動き、それぞれ自分の契約書を受け取った。

「これに署名したら、元の世界に戻れるのね?」

「……はい」

 静かに答えた魔術師の顔が、少しだけ悲痛で歪んだが、その希望の答えの前では、どうでも良くなった。

 男も契約書を受け取り、今回も用意されていたペンを手に取る。

 三人がペン先を契約書に近づけた時、舌足らずな声が言った。

「あ、ちあんとよまらいろ(ちゃんとよまないと)いぬお(しぬよ)

「しっ」

 ? 

 思わず顔を上げた先で、母親が赤子を見下ろして、真顔で窘めていた。

「夢みがちのまま、帰した方が面倒ないから、止めちゃ駄目だ」

「ええー。かあたまあいふの(かあさまがいくの)? とおたま(とおさま)いんあいうるお(しんぱいするよ)?」

 ? ?

 その会話の中、三人の手は完全に止まっていた。

 そう、会話、している。

 まだ、首が据わったばかりに見える赤子と、母親が。

 驚愕する三人に構わず、母親は真剣に答えた。

「仕方がないだろう。これは、この世界のこの国にとって、死活問題だ。そっちの連中の契約書にも、その旨は記してあるようだし、理解していたはずなのに、逃げようとしたんだぞ。契約白紙後に、頓着してやる理由が、ない」

 そして、手が止まっている三人に目を向けた。

 日本人の中でも、かなり整った顔立ちの母親の、通常より明るめの色合いの瞳を見返した男に、軽く促した。

「早く、署名してくれ。あんたらと契約を切ってもらわないと、道案内を頼めない」

 意味不明な言い分だ。

 だから気になって、今までしっかり読んでいなかった契約内容を、熟読してみることにした。

「……坊や、余計な慈悲は時に、自分の首を絞めてしまうもんだぞ」

 それに倣って、他の二人まで契約書を熟読し始めたのを見て、母親が小声で嘆く。

「余計に時間を食う未来しか、見えない」

 小声だが、舌打ちしそうな勢いの嘆き方だ。

 そんな母親に、赤子は言う。

「れも、おろひろも(そのひとも)ほっろひれるお(ほっとしてるよ)

「坊や、そろそろ、腹が減らないか? お乳にするか?」

「のむー」

 母親は溜息を吐き、魔術師が慌てて何処からともなく、衝立を出した。

「助かる」

「当然の事です」

 いささか、長閑なやり取りの間に、三人は契約書を読み終えた。

 上がった顔には、困惑が張り付いている。

「なあ、この、契約を白紙に戻す際、如何なる保障もしないものとする、と言うのは、オレたちに保障がない、って事か?」

 魔術師が答える前に、母親がのんびりと答えた。

「保障する必要ないだろう? あんたらは元々、死にかかった事で、召喚網に引っかかったんだ。助ける代償に頼み事をしたのに、全面的に拒否じゃあ、契約満了時の保障と同じには、ならんだろ。元々の場所の、元の時間に戻す位で、充分だ」

 それはつまり、戻ってすぐに命の灯が消える可能性がある、と言う事だ。

 青ざめる三人に、母親はのんびり止めを刺した。

「まあ、オレたちの時を鑑みると、ただ消える訳でもなさそうだが」

 衝立の奥で、見上げる我が子を見下ろして微笑みながら、母親は自分たちがやって来た経緯を話した。

「熊の獣に驚かされて、坊やが恐怖で泣き出したんだ。まあ、過去の獣害を忘れぬよう、その世界のある村で行われる、乳幼児への通過儀式だったんだが、この子にとっては命の危機だったんで、抱いてたオレごと、この世界に来てしまったんだ」

 我が子をゲップさせ、衝立の奥から出てきた母親は、綺麗に微笑んだ。

「あんたらは? 何処で獣害に遭っている最中だった?」

 三人はパニックを起こしてしまい、改めて話を進められるようになるまで、予想以上に時間を食った。


 そこは、明確に棲み分けされている世界だった。

 人間は力で敵わない獣人を恐れ、獣人は知恵で敵わない人間を恐れ、必要以上の接触をしないのを暗黙の了解とし、これまで長く歴史を綴って来た。

「その棲み分けが、最近曖昧になったそうだ」

 原因は、人間獣人共通の、生活困難者だった。

 獣人たちの中から炙れた、病人や怪我人、人間たちの中から炙れた、病人や怪我人、そして荒くれ者が露頭を組み、国を作った。

「で、真面目に生活している人間の国で、悪さを始めた」

 人間の国は、すぐに対策したが、人間の犯罪者たちは楽に捕らえられても、獣人は厳しかった。

「通常の獣人たちより弱くとも、人間より力がないわけじゃない。だから、獣人の国に救援を求めようとしたんだが、人間と獣人の間には、この件で大きな溝が出来てしまって、国の人間が冷静な交渉に臨めるか、分からなかった。思い余って、別の世界から呼ぶ方法を探して、あいつらを召喚したんだ」

 召喚するにも、条件があった。

 世界を渡る為、命の灯が小さい、平和主義の人間。

 その上で、獣人を適度に警戒し、冷静に交渉の援助をしてくれる人間を召喚したつもり、だったらしい。

「まさか、獣害の途中で召喚されたくせに、獣人の国に向かう途中で、件の獣人たちの口車に乗せられて、そこに亡命しようとするとは、思わなかったようだ」

「それは……随分、目出度い頭の持ち主だな。それが、三人もいたか」

 呆れた旦那に頷き、夫人は眠った我が子をそっと彼に引き渡した。

 受け取った赤子に、怪我がないのを確認しつつ、幾多の世界の国々で展開する商会の会長は、夫人の無事もさりげなく確かめる。

「獣人と人間が手を組む犯罪か。そんな犯罪者に接近されて、よく無事だったな」

「それも、魔術師の渾身の保障のお陰だった。あの三人とその護衛に、食手を伸ばされないよう、守護の呪いをかけて送り出したお陰で、護衛たちは無事に国に逃げて、裏切った三人の事を報告出来た」

 夫人は、生まれたばかりの赤子とその世界に連れ去られたが、別に瀕死ではなかった。

 ある世界の村の一つの、儀式めいた祭りで、悪ふざけし過ぎた熊の獣人が、息子を恐怖に陥れてしまったせいで、巻き込まれた。

「ああ、奴は、代理の元で、暫く奴隷生活に決まった」

「トラウマになってなければ、いいけど……」

 そう心配する夫婦に、悲壮感はない。

 熊の獣人の脅かし方が、突然前に姿を現すと言う、軽いものだったからだ。

 泣き出した息子と妻が、その瞬間消えた時も、商会長は仰天はしたが、そこまで心配しなかった。

 夫人は元々、自分の弟子の一人だったし、何より消え方も無理に引っ張られる感じではなく、二人を守るように光が包んだのが見えたのだ。

 これは、優しい術者の召喚だ。

 案の定、母子は数分後に無傷で戻って来た。

「あの三人、遅ればせながら、先に署名した契約内容も確認して、協力を約束したよ。今頃、獣人の国に向かってる」

「そうか……」

 のんびりとした説明に頷く旦那に、夫人はふいに言った。

「旦那、あーん」

「? あー」

 突然、息子に呼びかけるように呼ばれて、つい答えて口を開けた会長の口内に、夫人は飴玉のような物を放り込んだ。

 全く味のないそれに、目を白黒させる旦那に、女は頼んだ。

「あの真面目な魔術師の代わりに、三人の獣害回避の手伝い、して」

 小首を傾げての懇願に、会長は召喚側の事情を察した。

 その国の魔術師とやらは、召喚した者に対し、ひたすら優しい。

 三人が獣人との交渉を無事成したら、獣害で死ぬ以前かその被害で何事もなく助かるかの状況にして、元の世界に戻すつもりだ。

 その負荷は、実際に召喚に携わった、魔術師にかかる。

 三人もの人間の命を守りつつ、元の世界に戻すとなると、いくら魔力的なものが強くても、相当の負担だ。

「多分あの魔術師、死を覚悟してる。あちらにいる間、本当に良くしてもらったから、助けたいんだ。だからまた、半分こね」

 微笑んで言う妻に、男は微笑み返して首を振った。

「お前は、あちらにいる間、息子をちゃんと世話してたんだろう? それじゃあ割に合わない。もう半分も、くれ」

 目を丸くした後笑い、夫人が旦那の口に顔を近づける。

 赤子を挟んでのイチャイチャ振りを、娘夫婦は夕食の準備をしながら見守っていた。

 いや、そう言うのは、夫婦の部屋でやってくれ。




 

 




野生の動物との兼ね合いは、難しいです。

猟師さん方の高齢化も、問題になっているので、国民を守る事を第一に考えて欲しいなと、切に願っております。

このままでは、働けなくなったら、山でこっそり生きる晩年計画が、破壌します。


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