名付けと毛繕い
役所にいるついでに奴隷印を消してもらう。
奴隷印は命令を聞かす為に痛みを与える為の物だから要らない。
声を奪う首輪も外して、と。
手数料、高いなぁ。
手持ちのマントを奴隷くんに被せて服屋に向かう。
急ぐからゆったりめの簡素なシャツとズボンを選ぶ。
後は下着と靴か。
他はまた明日買いに来よう。
風呂がある立派な宿屋へ向かうと奴隷くんを見て宿屋の主人の眉が寄る。
金を追加したら笑顔になった。
まずは風呂だ風呂!
着替えを抱えて奴隷くんを引きずり、風呂に向かう。
嫌な顔した入り口の店員も金で笑顔にしてから中へ入る。
困惑を露わにする奴隷くんに構うことなく汚いズボンを剥ぎ取りゴミ箱へ。
浴場に押しやり、誰も居ないから回復魔法で傷跡も全て治し、汚れて絡まりまくりの髪をざっくり鋏で切ってから洗う。
あ、身体は頼むぞ?あ?髭剃ったことない?仕方ない剃ってやるよ。
風呂から上がると夕食時、そのまま食堂に行けば注文する事なく、柔らかなパンに具だくさんのスープ、サラダに分厚いステーキが出された。
うん、まあまあ美味い。
奴隷くんに酒は飲むか聞いたら首を横に振られた。
声出せるんだから出せと言えば、眉間の皺が凄い事になってから、微かに「ン」とだけ喋った。
…まさか声の出し方、忘れてたのか?
やる事もないしさっさと寝よう。
明かりを消して「おやすみ」と声をかけると小さく「ぉゃ、すみ」と返って来た。
朝の気配に眼を開けると、反対側のベッドでは奴隷くんが胡座をかいて座っていた。
横になって寝れなかったのかな?
おはようと声をかけると、奴隷くんは口を開いてから眉を顰め、しばらくして「お、はよ」と応えた。
身支度しながら寝れたか聞けば首は縦に振られ、遅れて「ハイ」と返って来た。ちょっと面白い。
朝食を取ったら奴隷くんの服を…いや、『奴隷くん』改め、彼の名前決めて、買い物に行こう。
*
キラキラであったかい人が主になった。
「で、お前名前は?」
朝、ゆっくりとお茶を飲む主にそう聞かれてオレは首を捻る。
「…オイ、ドレイ、デクノボウ、ウスノロ」
今まで呼ばれた言葉を並べると、主の眉が寄る。
「それ、名前じゃねーし!…じゃあ、お前なんか好きなもんねーの?」
「好きなもの…?」
「そー、なんかあるだろ?」
「主」
「いきなりのデレをありがとよ!だが色とか物とか答えてくれねーかな!?」
色?なんでもいい。
物?食える物は好きだが食えればなんでもいい。と言うと主は机に突っ伏した。
主を困らせてしまった。
どうしよう
「ヴォルフ」
「?」
「今からお前を『ヴォルフ』て呼ぶから。分かった?」
それが俺の名前!
頷くと「返事は『ハイ』だ」と言われた。「ハイ」と返せば優しく目が細められて微笑まれた。
そろそろ行くかと立ち上がった主の後を急いで追う。
街を見るのは、最初は檻の中。
次は縄に繋がれて。
その次は荷物を運んでだった。
怒られないから建物や店を見てると
「なんか気になる物あった?」
「何?もう腹へったの?」
オレの様子を見て主が声をかけてくれる。
主がオレの主になってくれて嬉しい。
主の為に何かしたい。
「なんか欲しい物あんの?」
「欲しい、物?」
「そ。せっかくだしついでに「命令」…は?」
「主からの、命令が欲しい」
「…。やっと流暢に喋ったと思ったら
欲しい物、命令ってドMか!あ、マジな奴隷だったわ!!」
主が頭抱えてしゃがみこんでしまった。
*
「あー、いや、もういい」
デカイ図体のくせに不安そうにこっち見てくるヴォルフに気にするなと掌を振って歩きだす。
青みがかった灰色の髪に金の瞳をした精悍な顔。
なんか狼みたいだなと思ったから安直に「ヴォルフ」て名前にしてやった。
自主性の無い答えしか返って来ないので服をコーデしてやったんだけど
「…似合うな、コノヤロー!」
雨避け様にフードが付ついたベヒモスの皮で出来たグレーのロングコート。
タイトだが衝撃や耐久力が売りのエンペラーフロッグの皮で出来た黒いインナー。
攻撃魔法反射の魔法付与(3回使用可)のついたゴツめの銀のバングルがカッコいい革ベルト。
長い脚にピッタリな斬撃が効きにくい飛竜革のズボン。
悪路に強い足首までのブーツ。
悔しい程似合ってる。
いいなぁ。
どうせ俺はカッコイイの似合わねーよーだ。
くすん。
さて、格好も整ったし換金しに行くか。
あの森に居たのはダンジョンに潜ってたからだ。
ボスまで倒してお宝がっぽりゲットしたからな。
あ、今のヴォルフに丁度いいもんあったな。
アイテムボックスを確認。
あったあった。
黒い革の紐の真ん中に魔法文字が刻まれた雫型のオニキスがついてるチョーカー。
ダンジョンボスのドロップアイテム。
「ヴォルフ」
「ハイ」
「これやる」
突き出したチョーカーをヴォルフは両手で受け取る。
餌付けの飯みたいだな。
「主、これは?」
「アイテムとしてっーより飾り重視だから気にしなくていー。つけてみ?」
「…つけ…?」
「あー、貸せ。…ほら、苦しくね?」
「ハイ」
首輪になれてたからか、しきりに首元気にしてたから、代替え品だ。




