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ミネルバの翼  作者: 冴木 悠宇
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3.硝子の戦乙女

挿絵(By みてみん)

 ブレイバーの接近戦用ブレードの切っ先が閃き、セラフィムタイプの両翼を切断した。

 その瞬間、ブリッジ内に大喝采が沸き起こる。

 今日はこれで合計六機撃墜。

 敵機がいないことを確認するためにしばらく滞空していたブレイバーが、ジュエル号に着艦を求める。

「ほほう、何度見ても鮮やかな手並みじゃねぇか。まったく、惚れ惚れするぜ」

 美鈴さんの戦いぶりに太い腕を組んだガディ船長が「がははは……」と、豪快に笑った。刈り込んだ白髪にドングリ目。大きな赤い団子っ鼻、筋肉が大きく盛り上がった体はよく日に焼けた赤銅色。ガディさんは笑うと人懐っこい顔になる。


 僕と美鈴さんは運良く運搬船に拾われた。

 運搬船とは全長百八十メートル級のホバー船であり、居住コア間における輸送手段である。人や荷物などを乗せて荒野を旅する……そんな危険と隣り合わせの仕事だ。

 そしてガディさんはこのジュエル号という名前の運搬船、その舵を取る船長なのだ。

 僕達がセラフィムと戦っていたちょうどあの頃、ジュエル号は付近を通りかかっていたそうだ。

 しかしセラフィムの機影を確認し、行くに行けず、引くに引けない状態だったという。

 そんな時、ブレイバーがセラフィムと交戦を開始した。

 クルー全員をはじめ、客達もその様子を観戦しとんでもない事に賭までしていたらしい。

「いいじゃねぇか、勝ったんだからよ」

 ブレイバーが全機のセラフィムを撃破した瞬間は船中で大喝采だったと、ガディさんは笑いながらそう教えてくれた。

 ジュエル号のクルー達は皆大柄で筋肉質の強面だが純朴で気の良い人達ばかり。そんな訳で僕と美鈴さんは居心地の良いジュエル号に居ついてしまったのだ。

 しかし、その間タダ飯を食べさせて貰うわけにもいかないので僕は整備士として、美鈴さんは用心棒として労働力を提供している。


 盗賊……運搬船や旅人を狙うとんでもない犯罪者達。

 そんな時代錯誤な連中が、この世界を大きな態度で闊歩している。

 装甲兵で武装している場合も多々あり、運搬船にとっては驚異となるのだ。

 ジュエル号が行く先々で出会う盗賊達を駆逐する度に、「運搬船の腕利き用心棒」美鈴さんの株は上がりっぱなしであるらしい。

 それだけなら良いのだが、美鈴さんに一矢報いてやろうと思うのか、ジュエル号は最近やたらと盗賊に襲われるのだ。

 まぁ、盗賊風情が百の束になってかかってきたところで、美鈴さんに瞬く間に退治されるのは目に見えているけど。

「おう、そういやぼうず。この船の装甲兵も整備してくれたんだってな? すまねぇ……扱いやすくなったって、みんな喜んでたぜ」

 思い出したように、ガディさんが言った。

「いえ、他に何のお礼も出来ませんし」

 ぽりぽりと頭を掻く僕。

 運搬船ということもあって、ジュエル号にも作業用として五機の装甲兵が搭載されている。

 『TH12型』ブレイバーよりも三世代以前のモデルで、そのずんぐりむっくりの体型から通称、チャリオットと呼ばれている機体だ。

 大型の荷物の搬入出などにはもってこいだし、武装すれば盗賊達から船を守る心強い護衛にもなるのだ。

「しかし驚いたぜ。装甲兵で鮮やかな戦いを見せてくれたのが、あんな華奢な娘っ子だったなんてな!」

「はぁ、そうですか?」

 ガディさんからもう何度も聞かされた美鈴さんへの賛辞に、僕は曖昧な返事をした。

 何にも知らないからそんなことが言えるんだこの人は。

 そんな事を話しているうちに、そろそろブレイバーが着艦しただろう。

 僕にはひとつだけ気掛かりな事がある。

 今日こそは美鈴さんにびしっと言わないと。僕はガディさんに一礼すると、気合いを入れて格納庫へと向かった。

「美鈴さん、お疲れ様です!」

 コクピットから顔を出し機体乗降用リフトに乗り移った美鈴さんに、僕は大きく手を振りながら呼びかけた。

 リフトの手摺りにだらりとすがり、何となく気怠げな美鈴さんがひらひらと手を振って答えてくれた。

「疲れてないわよ、汗一つかいていないし」

「ここ一週間で、四十機撃墜ですね」

 おまけに美鈴さんは、被弾率ゼロパーセントを誇る。

 しかし、本人は全く嬉しそうではない。軽やかな身のこなしでリフトから降りると、機嫌悪そうに大きな溜息をついた。

「盗賊なんて連中、たとえ一万機撃墜したって自慢にも何にもならないわ、次から次へと鬱陶しいだけよ」

 まぁ、そうだろうけど。

「美鈴さんの操縦技術は認めます。確かに盗賊なんて、いくら相手にしても仕方ないですから。でも、とにかく怪我なんてしないように帰って来て下さい」

「ふふ~ん」

 美鈴さんは僕を一瞥すると、何やら妙な声を出した。

「何ですか?」

「何でもないわよ」

 聞き咎めた僕に曖昧な返事を残すと、そっぽを向いて歩き去ってしまう。

 ああっ、また話しそびれた。

 ハンガーに固定され、ひと仕事を終えたブレイバーを見上げる。

 僕の気がかりはブレイバーの状態だった。一週間で十二回の出撃、しかしその間に弾薬補給以外の整備を行っていない。

 どんなに説得しても、美鈴さんは何故か「必要無い」と整備を許可してくれない。

 確かに派手な戦闘をしているわけではないのだが、機械というのはそういう訳にはいかないのだ。

 僕は美鈴さんの後ろ姿を追いかけて息を大きく吸った。

「美鈴さん、ブレイバーには整備が必要です。今日こそはっ!」

「何度も言わせないで、そんなの要らないわよ」

 予想通り間髪を入れず断られたのだが、ここで諦めるわけにはいかない。

「いいですか? ジュエル号に拾われてから、もう十二回も出撃しているんです。それに初めて会った時に派手に転んだじゃないですか!」

 美鈴さんの右の眉が、ぴくりと動いた。

 あ、まずかったかな?

 しかし、ここで挫けるわけにはいかない。

「盗賊の襲撃があれば、出ないわけにはいかないでしょう! 今のうちですよ、動力部に火器管制と……。ああっ、時間がいくらあっても足りないんです!」


 決して大げさではないのだが、目を閉じて僕の話を聞いていた美鈴さんは一つ肩をすくめた。

 あ、分かってくれたかな?

「もう聞き飽きたわ。何度も言わせないで、大きなお世話だって言うのよ」

 美鈴さんは面倒くさそうに言うと、僕をちらりと睨んだ。

「あなた、最近この船で株が上がってるみたいじゃない。まだ自分の腕を自慢したいわけ?」

 美鈴さんの小馬鹿にしたような薄い笑みに、僕はかちんときた。

「腕自慢ですって? 冗談じゃない!」

 思わず、大きな声を出してしまった。

「どんな機械だって、それぞれの部品が自分の役目をきちんとこなせるようにしてやらなきゃならない。僕はその手助けをしているだけなんです!」

 駄目だ、美鈴さんは何を考えているんだろう?これじゃあ、とても話になんてならない。

 やっぱりこの人もただのパイロットなんだ。量産機に「ブレイバー」なんて名前をつけてるくせに。

 「もういいです。なら、勝手にさせて貰いますからね!」

 そう言って格納庫へ向かうために踵を返そうとした瞬間だった。

 いきなり伸びてきた美鈴さんの右手が僕の胸ぐらを掴んだ。

「うっ!」

 そのまま締め上げられた。

 苦しい……。息も切れ切れの僕は美鈴さんの顔を見て全身から冷や汗が吹き出した。

 無言で僕を睨み付ける、美鈴さんの黒曜石の瞳が湛えた光。

 それは焼き尽くすような炎の光ではない。もっと深くて静かな、まるで鬼火のような光に見えた。

 僕がうめき声さえ出せずにいると、美鈴さんは掴んだ襟首をさらにぎりっと締め上げた。

「いいこと? 私のブレイバーに指一本でも触れたら……ぶっ殺すわよ」

 美鈴さんは投げ捨てるように僕を解放し、ヘルメットを抱えると歩き去ってしまった。

 絞られた襟元を緩め、背中にびっしょりと冷や汗をかいた僕は、ただ美鈴さんの後ろ姿を黙って見送るしかなかった。


 ☆★☆


 それから数日は盗賊達の襲撃もなく、穏やかな日々が続いていたのだが。

 僕は美鈴さんと一言も言葉を交わすことがなかった。

 ジュエル号の後方にある展望用のキャビンで、美鈴さんは一人でじっと流れる景色を見つめている。

 彼女に声を掛けるクルーもいない。

 今の美鈴さんには他人を寄せ付けない、そんな雰囲気がある。

 ジュエル号で居住コア間を旅するうちに、連合軍の駐留基地も見付かると美鈴さんは考えているようだ。

 しかし、美鈴さんの部隊を襲った凄まじい光のエネルギー衝撃波。

 あの状況で、美鈴さん一人でも生き残った事自体が奇跡に近いだろう。

 僕はそう思ったが、彼女の前でそれを口に出す事は出来なかった。

 だから彼女の姿を遠目に見ながら、小さく溜息をついて通り過ぎる毎日が続いていた。


 そんなある日――。

 格納庫の窓を流れる景色、変化のない旅路。

 眠気を覚えてうとうとしていたいた僕は、船内にけたたましく響く警報に驚いて寝転んでいたコンテナから転げ落ちた。

「盗賊だ!」

 どうやら平穏な旅など望めないようだ。

 クルー達の慌ただしい動きと怒声に、僕は急いでブリッジへ駆け上がった。

「弾をケチるなよ、あるだけぶっ放してやれ! 後方キャビンのシールドを降ろせ、手が空いている奴は客を船の中央へ集めろっ!」

 ブリッジに入ると、キャプテンシートに座ったガディさんが大声で各所に指示を飛ばしている。

 そしてパイロットスーツに身を包みヘルメットを小脇に抱えた美鈴さんが、じっとモニターを睨んでいた。

 パイロットスーツの具合を確かめる、その姿を喩えるならまさに抜き身の剣。

 戦乙女が、そこに佇んでいた。

「烏合の衆だが数が多すぎる。お嬢……すまねぇ、頼めるか?」

「了解」

 険しい表情のガディさんにさらりと答え、長い黒髪を後ろでまとめた美鈴さんが踵を返した。

 まるでそこに僕が居ることなど気付かぬように、美鈴さんが脇を通り抜けすれ違う。

 僕は何となく声を掛けそびれ、無言でブリッジを後にする彼女を見送った。


 接近しているのはセラフィムの改造タイプ、その数十七機。

 そうだ、ブリッジでぼんやりしている場合じゃない。僕は急いで格納庫へと向かう。

 僕が格納庫へ駆け込んだ時には、ブレイバーはすでにカタパルトへと移動していた。

「美鈴さん」

 結局、一言も言葉を交わすことは出来なかった。

 フライト・ユニットが次第に轟音を上げ始める。

 カタパルトデッキに立つベルドさんが大きく手を振り下ろした瞬間、少し姿勢を低くしたブレイバーが射出された。

 幾多の戦闘に晒されて疲れきった機体。

 僕にはもう無事に帰ってくれるように祈る事しか出来ない。どうしようもない焦燥感にとらわれ、拳を固く握りしめた。


 ☆★☆


「あんたに言われなくたって、分かっているのよ」

 美鈴は、ヘルメットの中で小さくつぶやく。

 イライラが治まらない、美鈴は赤い唇をきつく噛んだ。

 とてもよく似ている、あいつに……。

 物思いにふけりかけた美鈴は機体に伝わる振動で我に返った。

 ジュエル号のハッチが開きカタパルトに誘導灯が灯る。

 美鈴は大きく息を吐いた。

(そうだ……。あいつはもういない)

 虚しく広がる空へと射出されたブレイバーは風を切り裂き加速する。激しく揺れる心を抑えきれず操縦桿を握り直した。

 美鈴とて昨日や今日パイロットになった新人ではない。自分の機体がどのような状況なのか、的確に把握している。

 しかし。

「ブレイバーを任せられるのは、あいつだけなのよ……」

 美鈴の瞳には危険な光が宿っていた。 

 散開したセラフィムがブレイバーへと一斉にライフルを発砲する。

 機体を掠めるエネルギー弾に臆することなど無く、美鈴はブレイバーを突進させた。

 コクピット内を照らす紅い光。

 網膜を焼くかのような光の勢い、しかし美鈴は唇の端を上げる。

 素早い照準でライフルを二連射。

 伸びていくエネルギー弾は、狙い違わず正確にセラフィム二機の胴体を撃ち抜く。

 その内の一機に急接近したブレイバーが、機体を回転させる勢いで回し蹴りを放った。

 蹴り飛ばされて吹っ飛んでくる仲間の機体に驚いた三機が、慌てて回避した瞬間を美鈴は逃さない。

 速射の三連射が次々とセラフィムを撃墜する。

「ここにいたって、もうあいつには会えない!」

 爆光を背にしてそう叫ぶ声と同時にシールドからブレードを抜き放つ。

「そう、逃れられない闇の恐怖。その恐怖を受け入れさえすれば、またあいつに会えるかもしれない」

 まるで狂気にとらわれた戦士のように、ブレードを振りかざしたブレイバーがセラフィムに襲いかかる。

 脅えたように、ただライフルを乱射する一機を両断すると、その背後から敵わぬまでもとブレードを構えたセラフィムが突進して来た。

 振り返ったブレイバーがその凶刃をかわそうとした瞬間だった。

 がくんと機体が揺れ、その動きが目に見えて鈍る。そしてセラフィムが振り下ろした大型のブレードが、ブレイバーの肩口へ深々と食い込んだ。

 コクピット内に伝わる激しい振動に、美鈴の脳裏には大鎌を振りかぶる死神のイメージが鮮明に浮かぶ。

 左腕を肩から失いバーニアをふかして急制動を掛けたブレイバーに、生き残った盗賊のセラフィムがこの期を逃すまいと殺到する。

 警告灯の紅い光が照らすコクピットで、鬱陶しそうにヘルメットを脱いで後ろへ投げ捨てた美鈴が、凍り付くような笑みを浮かべた。

「待ってて、すぐに会えるから」


 ☆★☆


 ブレイバーが敵の攻撃を受けて損傷した。

 この予想外の出来事に、ブリッジではガディさんをはじめクルー達がまるで石像のように固まっていた。

「美鈴さん!」

 僕は大声で叫ぶと、騒然とし始めたブリッジを飛び出した。

「どこだ、どこが故障したんだ? 制御系に間違いないんだけど。だから、僕があれほど言ったのに!」

 ここで叫んでいたって始まらない。

 しかしそうしなければ、不安に押しつぶされてしまいそうだった。

「何をしているんですかっ! 美鈴さんの援護を早く!」

 再び格納庫へと飛び込んだ僕は、叫びながら走った。

 我に返ったように数人のクルー達が慌ただしく動き始め、三機のチャリオットが起動を開始する。

 チャリオットが動き出したことを確認した僕は、しかしその緩慢な動きに居ても立ってもいられなかった。

 格納庫の隅に置いてあったオフロード・バイクに飛び乗ると、力任せにキックペダルを踏みつける。

 乱暴にクラッチを繋ぐと、格納庫の床をこすりつけるように空転するタイヤ。

 大きなトルクに横滑りをするバイクの姿勢を無理矢理に立て直し、僕はアクセルを全開にした。


 ☆★☆


「盗賊風情が生意気なっ!」

 セラフィムに浴びせられる苛烈な暫撃をかわしきれず、腰の装甲が吹き飛んだ。

 次第に傷付いていくブレイバーを、なおも美鈴は操り続ける。

 一度後退して機体を逆さまに捻り加速する勢いでセラフィムの脇腹を切り裂く。

 左足が基本動作を取れなくなったらしい、このままでは相手に斬りかかる事もままならない。

 絶体絶命の状況下で、美鈴の瞳に見るからに派手なカラーリングを施したセラフィムの姿が映った。

「あれが、リーダーって訳?」

 まるでターゲットを射殺すように輝く、黒曜石の瞳で睨み付けて操縦桿を握り直す。

「もうそろそろ限界のようね。少し安っぽいけど、道連れくらいにはなるかしら」

 満身創痍のブレイバーを目標に向かって突進させようとした瞬間、左サイドのモニターの端に映る映像に美鈴は大きく目を見開いた。

 ジュエル号のカタパルトの上、のろのろと動き出したチャリオットの足元に見えたバイクに乗っている人の姿。


 美鈴の脳裏に悪夢のような記憶が甦る。

 締め付けられるような心臓の動悸、耳鳴りで周囲の音が消えた。

「のこのこカタパルトなんかに出て来るなんて、あの馬鹿!」

 気を逸らした美鈴が叫んだ瞬間、リーダー格のセラフィムが振り下ろした大型のブレードがブレイバーの首の付け根に食い込んだ。

 ブレードの刃部に接触した内部機関の接続部が弾けて溶解し、破断されていく。

 セラフィムが大型のブレードを真横に振り抜き、ブレイバーのメインモニターがブラックアウトする寸前、美鈴は反射的に操縦桿を操作していた。かろうじて反応したブレイバーがセラフィムの胴体を蹴り飛ばし、同時に右のマニュピレーターで握っていたブレードを投じる。

 光を弾いて一直線に飛んだブレードが、リーダー格のセラフィムのコクピットがある機体胸部を貫通する。

 そして頭部を失ったブレイバーは、そのままの姿勢で地上へと墜落した。

 地面を抉るようにして止まり動かないブレイバーを守るように、三機のチャリオットが大型の旧式ライフルを次々に発砲する。

 盗賊達が墜落したブレイバーにとどめを刺そうとするのではないかと僕は肝を冷やしたが、盗賊達はあっけなく後退していった。


 墜落して動かなくなったリーダーの派手な機体を助けようともしない。

 盗賊同士の連帯など、そんなものなのだろう。

 セラフィムが後退していくのを確認すると、チャリオットの二機が噴煙を上げるブレイバーに、急いで消火剤を掛け始める。

 バイクを横倒しに放り出した僕は全身に降りかかる消火剤などかまうことなく、横たわるブレイバーへよじ登った。消火剤でぬるつく手に癇癪を起こしながら泡を掻き分け、ハッチの強制開放コックを思いきり捻る。

 コクピット内のエアが排出され、勢いよく腹部の装甲と共にハッチが跳ね上がった。

「美鈴さん!」

 コクピットに滑り込むと、そこには膝を抱えてうずくまる美鈴さんがいた。

「怪我はありませんか?」

「ブレイバーと一緒に逝けると思っていたのに。あんたのおかげで死に損なったじゃない、どうしてくれるのよ」

 美鈴さんに浴びせられた呪詛のような言葉に、僕はその場で凍り付いた。

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