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ミネルバの翼  作者: 冴木 悠宇
15/29

14.双璧の翼 (後)

 美鈴さんが搭乗する真紅のブレイバーと、リオネルが搭乗する白いライオネルが空へと舞い上がる。

 その二機を待ち構えるように空に浮かぶ、セラフィムの白い機体。それが祝福を与えてくれる姿であれば、どんなに神々しく瞳に映るのだろう。ブレイバーとライオネルを捕捉したのだろう、セラフィムの陣型が変化していく。

『メノア、準備が出来た!』

『ブレイバー、美鈴より発令所へ! 配置に付いた。メノア、セラフィムが迎撃体制を取りつつある、指示を!』

 発令所内へ響いた声。メノアさんの元へ、美鈴さんとリオネルからの通信が入る。

「集落からの避難は、進んでいますか?」

「はい、すでに完了しています!」

 集落の人々の不安を取り除きたいのだろう、メノアさんが小さく微笑んだ。

「ありがとう。心配しないでと、みなさんにそう伝えて下さい」

 メノアさんはオペレーターに声を掛け、再びモニターを見据える。

「小尉、その位置でしばらく待機願います。リオ、聞こえますか?」

『了解、ブレイバーは現状のまま待機する!』

『メノアの綺麗な声、聞こえるよ!』

「了解です少尉。リオ、端的に答えなさい。いいですか? 作戦開始と同時に中央突破、迎撃態勢を取るセラフィムの陣形を真っ二つに分断しなさい」

「ええっ!」

 メノアさんの指示に僕は驚いた。無茶だ、いきなり正面から突撃させるなんて。

「リオ、準備はいい?」

『おっけー!』

 しかし、どこまでも気楽なリオネルの返事。

「ミッション・スタート!」

 メノアさんの合図と同時に、フライト・ユニットを全開にしたライオネルが最大加速に移る。突入して来るライオネルを迎撃しようと、散開した数機のセラフィムがライフルを斉射した。

 虹色に煌めく光が殺到する。

 直撃を受けそうになる寸前で機体を幾度も回転させるライオネルは、浴びせ掛けられる全てのエネルギー弾を回避した。その白い装甲は目映いエネルギー弾が通過する軌跡を映すだけだ。

「そんな! どうやったらあんな回避行動が出来るんだ!?」

 ひょっとしたら、リオネルにはライフルのエネルギー弾が止まって見えてるんじゃないのか? 目の前の光景がとても信じられない.

僕は頭を抱えた。

 そうだ、ライオネルは間違いなくノーマル状態なのだ。ブレイバーほどに、カスタム化されている訳ではないのに……。

 舌を巻いている僕を置き去りに、セラフィムの真っ直中をあっさりと突き抜けたライオネル。リオネルの奔放な挑発に煽られ、よろめいた数機のセラフィムの隙を美鈴さんは逃さない。ブレイバーの射撃がセラフィムの機体胸部、コントロールユニットを撃ち抜く。

 いくつもの爆光が広がり、セラフィムがブレイバーへと攻撃目標を変更する動作を見せた。しかし、セラフィムの間を突き抜けて急旋回したライオネルは、再び機体を捻ると錐揉み状態で突進する。

 リオネルは、どんな平行感覚をしているのだろう?

 錐揉み状態のままライフルを構え、的確な射撃で攻撃行動に移ろうとするセラフィムの勢いを削ぐ。

 セラフィムの陣形を細かに分断しながら、縦横無尽に空を駆けるライオネル。

 翻弄されるセラフィムは、再度攻撃目標をライオネルへと変更しようとして動きを止め、その際に生まれた隙を逃すことなく、美鈴さんが次々とセラフィムを撃墜していく。

 その繰り返しだ。

「機体速度そのまま! 二時の方向へライフル発射.

他は無視しなさい! リオ、まだ加速が足りません!」

 作戦開始と同時に、モニターを見つめながらリオネルに指示を出し続けるメノアさんは瞬きを全くしていない。無表情の碧い瞳は見開かれたまま、モニターに映るライオネルの姿を追っている。

「後方より三機! 左に捻りなさい。機体を沈めて右方向の二機を牽制、後は少尉に任せて! 機体の高度が低下、失速します。バーニア全開、高度を上げなさい!」

 矢継ぎ早に繰り出される、メノアさんの指示。

 しかもその指示は、セラフィムの数瞬後の行動を的確に予想している。まるで、無人機としてプログラムされたセラフィムの行動パターンを、全て把握しているかのようだ。

 そんなコンピューターの様な事が、人間に出来るのだろうか?

「リオ、下から二機急速接近! ただの威嚇です、逆噴射で減速、後退!」

 メノアさんの指示へ鋭敏に、そして正確に反応したライオネルがスラスター、フライト・ユニットのバーニアを逆噴射、急制動をかけて後退する。

「上昇した二機はそのまま放置! 少尉の射程圏内です。右バーニア全開、機体反転! 後方二機、セラフィムのフライト・ユニットへライフル斉射!」

 メノアさんがリオネルに与える指示は、まさに予言だ。

 彼女が与える、全ての指示通りにリオネルが機体を操り、セラフィムを絶妙に美鈴さんの射程圏内へと追い込んでゆく。

 メノアさんの状況予測と、リオネルの機体制御……。

 この二つが重なり合わなければ、絶対に成立しない作戦。

 そしてリオネルの動きに隠れて目立たないが、ブレイバーを操る美鈴さんの射撃は正確無比。目まぐるしく対空位置を変えながら、確実にライフルの一撃でセラフィムを撃墜していく。美鈴さんとリオネルのコンビネーションで、セラフィムはその数を半数以上減じている。

「撃墜数が、二十機を超えた!」 

 僕は思わず、身を乗り出す。

『機体が軽くて、思いのままに動くぜ! サンキュー、リスティ!』

 セラフィムの数が減って気が緩んだのだろう.

リオネルの軽口が発令所に響く。

「リオ! 油断をしてはいけません!」

 メノアさんがリオネルを注意しようと叫んだ直後だった、セラフィムが放ったライフルのエネルギー弾が、ライオネルのフライト・ユニットの片翼を掠めた。

 衝撃は軽いものの、ライオネルの機体が一瞬怯む。

「リオっ!」

 彼女の計算が狂った瞬間なのか、メノアさんが叫び声を上げる。

 ミホロさんが、思わず顔を手で覆った。

 リオネルが、バランスを崩した機体の制御を行う間もなかった。

 突出してきたセラフィムが振り降ろしたブレードが、ライオネルのマニュピレーターが握るライフルの銃身を切断する。続けざまに浴びせ掛けられる凄まじい斬撃に、左腕に装備されたシールドと各所の装甲が吹き飛ぶ。

 防御も回避もままならず、動きが止まったライオネルへ迫る数機のセラフィムが、再びブレードを振り上げた瞬間だった。ライオネルへと肉迫したセラフィムの頭部へ吸い込まれるように、一振りのブレードが深々と突き刺さる。

 ブレイバーが自機に装備されている、接近戦用ブレードをセラフィムへと投じたのだ。

 そしてフライト・ユニットが燃え尽きんばかりに加速したブレイバーが、なおもライオネルへと攻撃を仕掛けるセラフィムを蹴りつけ、勢いに任せて振り抜いたブレイバーの右足が、セラフィムの頭部を粉砕した。

 窮地を脱したライオネルと、ブレイバーは互いに背中を合わせて滞空する。

『借りが出来たな、美鈴!』

『返さなくても結構よ、リオ!』

 発令所に響く美鈴さんとリオネルの会話に、僕はほっと胸をなで下ろした。

「小尉……」

 安堵した表情、メノアさんが胸の前で手を組んだ。

『行くよ、美鈴っ!』

 セラフィムの頭部に突き刺さっていたブレードを握り、双剣を振りかざすリオネルが、次々とセラフィムを両断していく。

『メノア!』

「了解です少尉。リオネルの援護をお願いします!」

 リオネルの無事を確認し、エネルギーが切れたライフルを投げ捨てたブレイバーが、天空に突き上げた左腕を勢い良く振り下ろす。

 左腕に装着したシールドから姿を現し、前方へと真っ直ぐスライドした長大な刀身が、唸りを上げて振動を開始した。 

 接近戦に転じた、ブレイバーとライオネル。

 その二機に向かって、集中砲火を浴びせようと数機のセラフィムがライフルを向ける。しかし、二機を照準に捉えたセラフィムのライフルが火を噴くことはなかった。 

 幾発もの直撃弾を受けて、セラフィムが空中で釘付けになる。

 ライフルを構え、地下通路から姿を現した三機のチャリオットが、セラフィムへと景気良く発砲している。

 ガディさんの指示なのだろうか? 血気盛んなジュエル号のクルー達の事だ、居ても立ってもいられなかったのかもしれない。

 機体の半身ほどの長さを持つブレードを、易々と振りかざすブレイバー。

 刀身が巻き起こす旋風は、まるで竜巻に引き込むようにセラフィムの機体を巻き上げて切断する。チャリオットからの援護が功を奏し、残りのセラフィムは完全に統制が取れなくなったようだ。

 こうなればもはや掃討戦でしかない。

 そして最後の一機へと迫ったライオネルが鮮やかにその胴を薙ぎ払った。

 発令所内に安堵が広がっていく。

 荒れた大地で燃える撃墜されたセラフィムから立ち上る噴煙が、まるで狼煙の様に幾筋も立ち上っている。

 バラバラになって横たわるセラフィムの残骸、それはあまりにも凄惨な光景だ。

「セラフィム、全機撃破ですっ!」

 涙をこぼしながら叫ぶミホロさん。

 モニターから目を離したメノアさんも、やっと肩の力を抜いたようだ。しかし僕はレーダーに映った光点を睨み付けていた。喜んでなどいられない。


 本当の敵は、すぐそこまで迫っていた。



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