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幸せの花を君に捧ぐ  作者: 綴 朔哉


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24/46

yearn for

 


 雅と一緒に住み始めて、少し経った頃。高校時代の友人である立花さんが、結婚することになったのだと連絡をくれた。


 同級生が結婚するという感慨深いものと同時に、どこか不思議な感覚も覚える。

 彼女とは高校卒業後も時々、友人として交友があった。きっかけはお互いに大学へ進み過ごしていた、二年の夏休み。

デート中に入ったカフェが、偶々彼女のバイト先だったことにより偶然にも再会したのだった。


 卒業式以来で、どこか気まずさを感じていた僕と違って彼女はあの時のままの笑顔で、大切な人が出来たと教えてくれた。

 幸せそうに笑う彼女の姿に僕は目頭が熱くなり、どこか勝手に感じていた罪悪感のようなものが、軽くなったような気がしてしまった。


「深月くんは、今幸せ?」

「うん、凄く幸せだよ。僕にはもったいないくらいに」


「そっか、よかった!」


 それを機に、偶に連絡を取るようになり今に至っている。雅には当初思いっきり嫉妬されたが、連絡の内容は殆どがお互いの恋人の惚気なのだと知って、渋々納得したようなのは、今でもいい思い出として残っている。


 結婚報告の連絡後、暫くして家に結婚式の招待状が届いた。


 幸せそうなその便りを見て少しだけ、本当に僅かに。羨ましい気持ちが生まれてしまった。

 形にこだわる訳では無いが、やはり大好きな相手と結婚して家族になるというのには憧れてしまう。


「いつか俺たちも出そうね」


 ソファに座っている僕をラグに座っている雅が見上げるようにして、そう言ってくれた。

 その言葉が嬉しくて思いっきり抱きついてみれば、僕の行動なんてお見通しなのか、笑顔で受け止めてくれる。

 優しいこの腕の中が大好きで、首筋の所に顔をうめれば香水とは少し違う、飾られていない雅の匂いがして頭がふわりとする感覚。あまい果実のような唇へ、吸い寄せられるようにしてふれていた。


 目の前でぱちりと音がしそうなほど、瞬きを繰り返している雅の顔があって、その表情につい、口角は上がり悪戯が成功した時のような高揚感を感じる。


 唇が離れて少し寂しさを認識した瞬間、今度は雅に唇を塞がれた。

 閉じていた所を少し強引に割り開かれて、先程のとは違い熱を交換するような深いキスにくらくらとして、何も考えられなくなる。

 気付けば天井が見えていて、僕の体に力が入らなくなった頃、離れた唇は銀の糸で繋がっていた。


「みやび……」

 色気を隠しもしない雅に、僕は手をのばす。その手をするっと取られ、抱き上げられて寝室へと連れて行かれたのだった。


 


 初めて結婚式というものに参列する為、必要になる基本的なマナーを頭に入れて、休日が重なった日にデートも兼ねて紳士服量販店へと出向く。

 二人共普段はスーツでの勤務ではなく、リクルートスーツしかないので、新調する必要があった。

 お店にはたくさんのスーツが掛けられてあって、服全般が好きな雅は、すでに目を輝かせている。


「紫翠のスーツ、俺が選んでもいい?」

 少し店内を見回しながら、楽しそうな事を隠しきれていない目がこちらを向く。


「うん、お願いします」

 雅が選んでくれるのなら、間違いはない。それに、雅の色に染められることへの優越感も抱いてしまう。


「やった! ありがとう」

 とても、嬉しそうにしている雅に僕も心がほわりとしたものに包まれる。


「紫翠も俺の選んでよ」

「僕が、選んでいいの?」

「もちろん。俺が紫翠に、選んで欲しいの」


 服装に関してのこだわりが強い雅が決定を任せてくれる事が、絶大な信頼を置いてもらえてる証のような気がして嬉しい。


 そうして、選ぶ中で何点か試着をしながらひとつずつ決めていく。

 僕も雅に似合いそうなデザインを見つけては試着してもらい、その際のあまり見慣れない雅のスーツ姿につい見惚れてしまう。

 雅のスラッとした体格にスリーピースの濃色スーツはよく似合い、色白の肌を引き立てていて、なんというか……大人の色気みたいなものが凄い。


 店員さんによれば派手すぎなければ、柄物や色味のあるものでも問題ないそうで、くすみカラーの紫のようで青色のようにも見える、少し個性的な配色のペイズリー柄のものが一番に目に留まる。


 ――よし、ネクタイはこれにしよう。


 僕の見立て通り、雅の魅力をうまく引き出せているのではないか。そんな自画自賛が出てしまうほどに我格好良すぎて、本当は誰にも見せたくない。


 そんな独占欲が、生まれる。


 雅が僕に選んでくれたのは、ダークグレーのスーツにライトグレーのグレンチェック柄のジレ。そこにサテン生地のボルドーのネクタイという、落ち着いた雰囲気の中にも少し個性を感じられるコーディネートだった。


「蝶ネクタイも可愛かったんだけど、ネクタイをしてほしくてね」

「え? なんで?」

「俺が結んであげたいから」


 くすりと微笑む雅の言葉に全身が硬直し、ぶわあっと体が熱を上げる。


「なっ、いや、それは……嬉しいけど」


 学生の時はまだ感情を自覚していなくて、なぜこんなにも心臓が激しく鼓動を刻むのか分からなかったが、今は違う。

 明確に心を認識し、その先も知ってしまった。


 あの時とは少し違う、雅の表情も知ってしまった。


「だから、俺に結ばせてね?」


 嫌だ、なんて言えない。それに僕はそんな事を少しも思っていない。

 だから、僕には赤く染めた顔で首を縦に振る選択肢しか存在しないのである。



 

 準備は着々と進み、僕は参列するのをとても楽しみにしていた。


 そして、結婚式当日の朝――。


 約束通りに雅は、僕のネクタイを結んでくれた。恋人になった今でも距離が近づけば心臓は暴れ出してしまい、普段見慣れない正装も相まってより心拍数は上がっていく。

 目の前には、僕が一目惚れのように選んだペイズリー柄のネクタイに黒で統一されたスリーピースのスーツを着用している雅。

 その姿は王子様のようで。スーツはまるで雅の為に誂えられたかのように、様になっている。


「できたよ、紫翠」

「ありがとう、雅」


 微笑まれ、目を閉じれば可愛らしい音を立ててキスをひとつ。

 唇を通して、幸せが流れ込んでくるような感覚。

 学生の時みたいに凄くどきどきするけど、今は雅の愛を感じられて安心感を抱くようにもなった。


「雅、忘れ物ない?」

「うん、大丈夫だよ」

 このままだと離れがたくて、強引に自分の頭を切り替えるようにして玄関へと向かえば、雅は着いてきてくれる。


「あっ、僕、腕時計してない」

 ふと見た右腕に時計がないことに気付き、慌ててリビングへと戻れば、後方からくすりと穏やかに笑う声が聞こえた。 


「紫翠」 


 忘れ物を回収し、靴を履いていると目の前に手を差し伸べられる。その手を取れば、優しく包みこまれて引っ張り上げるようにして雅の腕の中へと収められた。


 心臓が、大きく跳ねる――。


 まるで猫がマーキングするかのように、少し首元にすり寄ったあと大好きな体温は離れていく。


「じゃあ、行こうか」

 笑顔で微笑まれて扉を開ければ、そこには雲ひとつない青空が広がっていた。


 

 招待された結婚式場へと、二人で向かう。会場までは電車を乗り継いで行かなければならず、寄り添うようにして人が疎らな車両へと乗り込む。

 少し距離はあったが、車窓から入り込む光に照らされる雅の姿に見惚れていれば、時間はあっという間だった。


「紫翠、行こう」

 乗り換えの車両移動の際も手を引かれ、雅の少し後ろをついていく。

 式場の最寄りの駅へと到着し、いつもは来ることのない沿岸沿いの道を少し早めに着くことが出来たので、散歩も兼ねてゆったりと歩いていれば、視線の少し先に雰囲気のある建物が見えてくる。


 ――あの場所で、立花さんは愛を誓うのか。


 そう考えたら、雅の体温にもっとふれたくなってしまう。指先だけ繋いだ状態だったのを、恋人繋ぎに変えてみれば、雅もその手を優しく、強く握ってくれる。

 その時ふわりと笑ってくれたその笑顔を僕は、忘れることができない。


 結婚式場は、海の見える西洋風の美しいチャペルで行われた。 

 式は粛々と行われ、辺りはとても幸せに満ち溢れていて、ふわりとした優しい空気に包まれている。


 誓いのキスに感動して、少しだけ羨ましく感じてしまう。


 僕たちは、あんなふうに式をあげることができるのだろうか。


 そんな考えが少しだけ、頭を過ってしまった。


 滞りなく式は進み、ブーケトスに参加するため、女性陣が前へと出て並び始めるのを、少し後ろから雅と一緒に見ていた。

 立花さんが、後ろを向く直前にこちらへと視線を投げたような気がして、疑問符を頭の上に浮かべていれば、ふわりとブーケが弧を描き宙を舞う。

 視線でぼんやりと追っていれば、僕の頭上へと花束が降ってきたのだった。


「え……?」

 咄嗟に手を挙げて、反射的に掴み取る。一瞬、何が起こったのかわからなくて目を白黒させていれば、周りからは歓声と拍手が沸き起こる。

 驚いて立花さんの方を見れば、満面の笑顔を向けてくれていた。


「立花さん、これ、もしかして僕に投げてくれたの?」

 式が終わり、披露宴までの間に少し話すことができたので、挨拶も兼ねて声を掛けに行った時、そっと聞いてみる。


「そうだよ、届いてよかった。次は深月くんの番だと思って、頑張ってみたんだ」

 人懐こそうな笑顔を向けて、満足気に言う。


「ありがとう。でもちょっと、びっくりした……」

 はははっと笑う彼女はとても幸せそうで、やっぱり少しだけ羨ましい。


 ――次は僕の番、か……。


「深月くん、こっちきて」

 ちょいちょいと、手招きされて近付く。 


「私ね、実はお腹に赤ちゃんいるの」

 小さな声で、内緒話をするみたいに彼女はしーっと口元に手を当てて、教えてくれた。


「そうなの!? おめでとう!」

 凄く驚いたけど、僕も声を潜めてお祝いを伝える。


「まだ、周りには秘密ね」

「なんで、そんな大切なこと僕に教えてくれるの?」


「うーん……深月くんだからっていうのが大きいけど、陽向が安心するかなって」

「……? 雅が?」


「わかんないか! まぁ深月くんはそのままがいいよ。陽向なら大丈夫だろうし」


 あっけらかんと笑うその時、彼女に声が掛かり披露宴の準備の為にどうやら先に移動するようだ。


「だから、生まれたら会いに来てあげてね。じゃあ、また後で」

「うん、絶対に会いに行くよ。また、あとでね」


 手を降って、別れる。くいっと袖を引かれる感覚がして、振り返れば少し不服そうな雅の顔。


「本当あの子と仲良いよね、紫翠」


 何の話してたの……? 若干唇を尖らせていて、それが可愛らしくて笑ってしまう。

 長い付き合いになっても変わらず、嫉妬の感情を抱いてしまうほどに大切にしてくれることが嬉しくて。


「んー? 今は言えないから、あとでね」

「わかった……紫翠がそう言うなら、あとでにする」

 不服そうにしながらも、渋々納得してくれたようだった。

 袖を掴んでいた雅の右手人差し指に、僕の左手人差し指を絡めるようにして、周りからは見えないように、少しだけ手を繋ぐ。


「ありがとう、雅」



 披露宴も無事に終わり、帰路へと着く。式に参加していた人は辺りには見当たらなくなってきた頃、雅が少し遠慮がちに声を掛けてきた。


「ねえ、紫翠さっきの聞いてもいい?」

「さっきの……あぁ! 立花さんお腹に赤ちゃんがいるんだって!」


 ぽかんとした顔をする雅。

「それは、おめでたいね」

「生まれたら、会いに来てねって言ってたよ」


「そっか、楽しみだね」

 僅かに、沈黙が二人の間を流れていく。


「雅は、赤ちゃん欲しいって思ったことある?」

 僕は聞こえるか分からないくらいの声で、呟いた。


 本当は愛する人の子供を身籠れるということに少しだけ、憧れていた。

 でも体の構造上、雅にどれだけ熱を注がれたとしても絶対に叶うことはなくて、それ故に雅の未来を奪うのかもしれない、なんて考えてしまう。


「そうだね、思ったことあるよ」

 その言葉に、心臓が跳ねた。


「そっか……」


「紫翠との赤ちゃんができたら、それはもう可愛らしいだろうなって」

「え……うん、僕も雅との子だったら絶対に可愛いと思うけど」


「だけどね、子供が出来たら紫翠の事取られちゃうなって思ったら、ずっと二人でいいかなっていう結論に至った」

 だから紫翠が今、不安に感じた事は杞憂なことだからね。


 僕の不安に気付かれていて、それを分かった上で言葉にしてくれたのか。


「まぁ、でも何かの魔法とかで子供が出来たら、命を懸けて守る所存だけどね」

 太陽のように明るく、力強く笑ってくれる。


「僕は、雅との赤ちゃん欲しいからどこかにそんな魔法があったらいいな」

 だけどね、雅。ひとつだけ、違うことがあるよ。もし子供が出来ても、僕は雅に甘えるのが好きだから絶対に取られたりしないと思うよ。

 僕のこの気持ちは、秘密だけど。



 それから、約半年後。あっという間に、子供が生まれたと連絡があり、それから暫くして落ち着いた頃を見計らい、約束通り会いに行った。


 僕たちが行った時、赤ちゃんはベビーベットの中で健やかに眠っていて、そのあまりの可愛さに僕は釘付けになってしまう。


「夜泣きとかで寝れなくて本当に大変なんだけど、それでも可愛いなって思う」

 お茶を出してくれて、彼女は幸せそうに言う。少し世間話をしていれば、目が覚めたのか泣き声が聞こえた。


「ちょっと待ってね……」

 ぱたぱたとベビーベットへと向かう立花さんを見ていて、お母さんになったのだなとぼんやりと思う。

 結婚式の時も思ったが、やはり不思議な感じがする。


 少し落ち着いた頃に抱っこさせてもらった小さな命は、温かくて儚いのに泣く時はあんなに力強く愚図るのか。


 新鮮な驚きが、次々とたくさん生まれていく。


 あまりにも、ふわふわとしていて落としてしまわないように全神経を集中させていれば、僕の指をぎゅっと握り笑ってくれた。

 その笑顔に全身の強張りは解けていき友人の子だが、とても愛おしい気持ちが湧く。


 僕の後に雅が抱っこしているのを見て、僕も雅との赤ちゃんを産むことが出来れば……なんて、やっぱり考えてしまった。


 

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