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幸せの花を君に捧ぐ  作者: 綴 朔哉


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燦然と輝くお守り

 


 僕たちは無事志望していた大学に合格し、未来への切符を手にすることが出来た。


 時は、穏やかに流れていく。


 日常は万事順調で、先に二十歳を迎える僕の誕生日を雅は盛大にお祝いしてくれると言って、プレゼントの希望を聞かれていた。

 でも雅が隣にいてくれるだけで満足な僕は、全然思いつかなくて少し考える時間を貰う。


 ある時、大学の講義の合間の隙間時間にふらりと寄り道したお店で、雅にとても似合いそうなピアスを見つけて思いつく。

 二人共ピアスを開けているわけではないが、これを誕生日のプレゼントにしてしまったら、いいのではないか。


 フープ部分の下に赤色の菱形にカットされた硝子が垂れ下がり煌めいているもので、僕はピアスを手にし、一目惚れしたそれを上機嫌で購入してからお店を後にする。


 僕は善は急げと、もうすぐ講義が終わるであろう雅のもとへと急ぎ足で向かった。

 急いできた僕に雅は不思議そうな顔をしつつも、笑顔を見せてくれる。


「お疲れ様、そんなに慌ててどうしたの?」

 僕はついさっき手に入れたものを、雅に手渡す。それを受け取った雅は少し戸惑いながらも、開けていいの? と僕に律儀に確認を取ってから丁寧に包みを開けた。


 ピアス、だよね? これどうしたの? 雅の頭の上にはたくさんの疑問符が浮かんでいるのがわかって、僕は口角が上がってしまう。


「僕、雅と同じ場所にピアス開けたい!」

 僕が欲しい誕生日のプレゼント! 気分が良くて、いつもより明るい声で答えれば、それを聞いた雅は、ふはっと笑ってからすぐに「いいよぉ」と言ってくれた。


 柴翠はピアス開けるの怖くないの?


 結構痛いかもしれないよ?


 なんて心配そうに聞いてくれるけど、雅とお揃いにできるのなら痛みなんて全然怖くない。


「雅は、嫌じゃないの?」

「嫌じゃないよ」

 笑顔で言う雅はそれにね、と続けた。


「実はね、秘密にしてたけど俺もピアスあるの。いつか柴翠に着けてもらえたらって考えてたんだけど、それだけじゃなくてお揃いにできるなんて、俺がプレゼント貰っちゃうみたいだよ」 

 ふふっと嬉しそうに笑ってくれる雅に僕は、つい好きが溢れてしまいそうになる。


 雅もピアスを持ってたのには驚いたけど、同じようなことを考えていたのが嬉しくて、どこかこそばゆい。


「柴翠は、どこに開けたいの?」

 お揃いにしたいというのしか考えておらず、場所までは考えていなかった。

 僕が開けたい場所じゃなくて、雅に着けてほしい場所……僕のって気付いてもらえるのは、耳朶かな。


「無難に、耳朶がいいかなぁ」

 誰にも渡したくない、ずっと僕の事を考えていてほしい。

 雅への独占欲は日増しに重く、大きくなっていく。それに雅に開けてもらえば、僕も雅のものだと誇示することができるのではなんて思ってしまった。


「じゃあ、耳朶にしようか。早速、必要なものを買いに行こう」

「うん! ありがとう雅」


 その後、僕たちはピアッサーを買いにドラッグストアへ足を運んでから、手を繋いで雅の家へと帰った。

 お家に上がり、帰ってきてからの習慣をこなしてからソファーへと座れば、寝室から雅は小さな包みを持ってくる。

 それを渡され、優しく微笑まれた。


「これが、例のピアスだよ。見てくれる?」

 ピアスは丁寧に梱包されていて、早めのプレゼントを開けるみたいで心躍る。


 渡された包みの中には紫・青・緑の三色が溶け合うかのように融合しているストーンを使った、まるで星を閉じ込めたように美しい輝きを放つピアスが入っていて、僕はその美しさに目を奪われ、魅了された。


 雅が僕の事を考えて選んでくれたというだけで、この世のどんなものより特別に思えて、僕の宝物がまたひとつ増えた。


 僕は早く着けたかったが、ピアスホールは最低でも一ヶ月、長ければ半年くらいはファーストピアスを着けておく必要があるそうで、完全にホールを完成させるにはそれなりの年月が必要になるらしい。


「俺の誕生日に、一緒に着けるのはどう?」

 それなら、楽しみながら待てる? なんて言う雅の言葉に、単純な僕は長いと思っていた期間が、楽しみなものにかわってしまう。


「お揃いのセカンドピアスもまた一緒に、見に行こうね」

 なんて、蕩けてしまいそうな笑みで言われてきゅんとしない人なんているのだろうか?


 お互いの持っているピアスを並べて着けたくて、左の耳朶へ二個開けることにした。


 先に入浴を済ませ、清潔な状態の耳にペンで印をつけて入念に開ける位置を決める。


 まず先に僕が雅の耳に開けて、その後雅が僕の耳に開けるということになった。

 ピアッシングの際に大きな音はしたが、痛みもあまりなく拍子抜けしてしまう。

 全体的に想像していたより、一瞬で終わり呆気なかったが、自分のを開けてもらう時より、雅のを開ける方が緊張したように思う。


 ファーストピアスもお揃いにしたので、雅の耳に煌めく2つのピアスと同じものが、自分の耳にも着いているのを僕は鏡で見て、愉悦に満たされる。

 ピアスを着けている部分が少し熱を持っているが、その感覚すらどこか愛おしくて。雅がくれた、証のように思えた。



 ――これでまたひとつ、僕は雅のものになることが出来た。



 雅は僕の耳を優しく労わるようにふれた後、包み込むようなキスでふさがれた。

 幸せな気分に浸り、チョコレートのように甘く溶かされるような心地に酔いしれていく。



 その後は、雅の念入りなケアにより特に膿んだりといったトラブルを起こすこともなく、約束の日である約半年後の雅の誕生日を迎えることができた。


 一緒に選んでいたセカンドピアスをそっと外してから、雅が選んでくれたピアスを装着する。

 耳元できらりと輝くピアスは、どんな宝石なんかよりも特別な煌めきを放っていて、僕は頭を動かして何度も見てしまう。


「ピアス、似合ってるね」

 こちらを見ていた雅の視線は陶酔に浸っているようで、その熱を含む眼差しに僕のほうまで、溶かされてしまいそうになる。


「ねぇ、雅もはやくつけて?」

 はやくその熱に身を任せてしまいたくて、甘えたような声が出てしまう。

 雅の耳元でピアスは、深紅の赤が照明の光を受け反射し、輝いている。

 その様は、気品ある薔薇が咲き誇るかのように優美で美しい。

 思わずそこへ手をのばし、そっとふれた。


「……綺麗」

 二人、耳の同じ位置にひとつずつ、互いが選んだお揃いのピアスが在って、僕の心にどうしょうもないほどの優越感が湧き上がるのを感じる。

 ピアスをプレゼントする意味には「いつもあなたのそばにいたい」とか「あなたを大切に思っている」なんて理由があるそうだが、お守りのような意味合いも持つために、相手の幸せを願う気持ちを伝えることができるものにもなるという。


「紫翠、おいで」


 手を広げられて、座っている雅の胸に飛び込むように軽く乗り上げる。

 少し上から見下ろすようにしている僕を見上げる雅は、目尻が下がり口角は上がって三日月のように弧を描く。

 宝物のように抱きしめられて、その体温に包まれると温かい気持ちになれた。

 おでこから始まって鼻、目尻のところを通って頬からピアスを着けた耳へ優しく口付けられて、そのまま顎のラインを辿り、順番にキスの雨を降らされる。


 項に熱い手が触れ、引き寄せられて蕩けるような甘美なキスを唇へ落とされる。そこから背中をゆっくりと撫でられながら、腰に腕を回しぎゅうっと強く抱きしめられた。

 いつもより少し高い位置からなのが新鮮で、雅の頭が首元にうめられて、当たる吐息がくすぐったい。

 ふわりと優しく笑う声が聞こえて、僕たちの間にはとても穏やかな時間が流れている。

 その腕に囲われて、胸の中に溶けてしまう事ができれば、永遠に同じ時を過ごすことができるのだろうかなんて。


 お伽噺のようなことを考え、僕は夢に見た――。

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