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幸せの花を君に捧ぐ  作者: 綴 朔哉


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依依恋恋

行為の表現が含まれます。

苦手な方は、お気をつけ下さい。

 


 あれから少しずつ、悲しみに雁字搦めにされてしまっていた心の痛みは穏やかに時間を掛けて、癒えつつあった。


 どれだけ悲しみのどん底にいたとしても、日常はお構いなしに進み続ける。

 慌ただしく忙しい日々は、僕にとってはかえって都合がよかった。



 通っていた高校は三年次に進級してすぐに修学旅行があり、その準備と並行して受験の対策なども行っていたので、休んでいる暇などなく、その目まぐるしく多忙な日々の中で雅の存在はとても大きかった。


 そんな毎日の中で久々にゆっくりと過ごせる休日ができ、僕は雅のお家にお邪魔していた。


 キッチンに二人並んでご飯を作り、それを向かいあって他愛もない話をしながら食べて、一緒に食後の片付けもする。


 そんな何気ない日常は決して当たり前ではなくて、この時間を大切にしなければいけないことを、痛感させられる日々だった。

 穏やかな今日という日を、ある日突然迎えることができなくなる可能性というのは、実は身近に転がっているのかもしれない。

 今、この瞬間に自分が雅の隣にいられることが、僕は幸せでたまらなかくて、それをかみしめていた。


 食器を洗っていた雅が不意に水を止め、吐息がふれるほどに距離が近付く。



 どくん――。心臓の音が、大きくなる。



 少し見つめられた後、そのまま僕の唇の少し上にある黒子の辺りに、ちゅっと可愛らしい音が聞こえてきそうなキスを落とされた。

 顔に熱が集まってくるのが分かって、赤く染まってしまった顔を見られるのが恥ずかしくて、逸らしてしまう。


「柴翠、俺の事見すぎ。穴開いちゃいそう」

 もう少しで唇がくっついてしまいそうな状態で、囁かれる。

 自分がそんなに見ていたことには、全く気付いていなかった。


 最近、雅にもっとふれたい、僕のことを奪ってほしい。

  そう、考えてしまう事が増えていて、この時どうしても一歩踏み出して、今より先に進んでみたい気持ちを抑えきれなくなってしまった。


 僕は、ごめんねと口では言いながら、雅へ我儘を言う。どれだけ一緒にいても、雅への好きは毎秒更新されていく。 


「雅、こっちにもして?」

 唇に人差し指を当てて、キスをねだる。


 言葉が淀みなく出てきて、本能が体を操っているかのような状態に、驚いている理性の自分もいた。


 だけど、今はそんなことよりも雅にふれてほしかった。


 そんな僕に雅は少し驚いた様子の表情を浮かべ、僕の手から食器を拭いていたタオルを取り上げ、その手を取ってソファーへと連れていかれる。


 急な雅のその行動に驚きつつも、珍しく少し強引なその仕草にきゅんとしてしまう。 

 隣同士に座り、いつもとは少し違って性急に抱きしめられた。

 心臓は痛いくらいに脈打っていて、こんなにも至近距離にいれば鼓動の音が伝わってしまう。


 おばあちゃんや父さんにしてもらうものとは違う、体の底から湧きあがってくるような熱い衝動が含まれていて、その衝動は僕を僕でなくしてしまいそうで、少し怖さを感じる。


 なのに、その先を知りたくなってしまった。


 僕が雅を呼んだ声は、自分でも驚くほどに甘さを含んでいて、体が離れ僅かに雅との距離が開く。

 その、ほんの少しの隙間すら惜しいほどに、僕の本能が雅の事を求めている。


 唇に、優しいキスをひとつ。


 お互いの額同士がふれ、鼻先が当たってしまいそうなほど、自然と顔が近付く。

 目があった雅の瞳の奥にもその衝動が見え隠れしていて、あぁ雅も僕と同じだったのだなと安心した。


「あんまり可愛いこと、言わないでよ……」

 困ったように眉を下げている雅は、初めて見る顔をしていた。

その表情がとてもかわいく見えてしまって、心がきゅうっと甘く痛み、愛おしい気持ちが溢れる。


 もっと困らせたくて、その手でふれてほしくて、僕の事を見て? なんて言う気持ちを視線に込めた。

 雅の手を掴んで、自分の頬へと誘導し、ふれてくれたその手に、猫のように擦り寄る。


 体の中で燻っているであろう衝動を振り払うかのように、雅は視線を少し下げ、彷徨わせている。


 優しい雅は僕の事をいつも大切にしてくれて、それは僕にとって身に余るほどの幸せだ。

 だけど僕も同じくらい雅の事が大切で、もらってばかりでは嫌なのだ。それに僕は我儘だから、雅の全部が欲しい。


「みやび……」

 僕は柄にもなく、洋画でヒロインが主人公にキスをねだり、誘惑するみたいに雅の名前を呼んでから、静かに目を閉じた。


 雅の我儘も聞かせて?


 僕も、いつも雅がしてくれるようにすべて叶えたい。


 雅は意を決したのか、そっと唇が重なった。その瞬間に僕の脳内は、色とりどりの花が咲き乱れるように好きで埋め尽くされていく。


 軽く食まれて唇は、離れていってしまう。僕はそれがさみしくて、まだ離したくなくて、気付けば僕の方から雅に口付けていた。


 眼前の雅は目を見張っていたが、その瞳には恍惚の色が滲んでいて、水分をはらみ光を受けて宝石のように美しく光り輝いている。

 いつも余裕があって、大人びているその表情を崩せたことが嬉しくて、口角が上がってしまいそうになった。


 何度かついばむようにしていると、雅も同じように返してくれる。

 完全に主導権を明け渡し、徐々に深くなるキスに頭がぼーっとしてしまう。


 雲の上にでも乗っているような自分の体の浮遊感に少しだけ戸惑って、ぎゅっと雅の袖を掴む。

 僕の頭の中は雅の事でいっぱいで、至福に満ち足りていくようだった。


 陶酔させられるようなキスに、僕は体から力が抜けてそのまま後ろへと倒れれば、覆いかぶさられるように、雅の腕の中に閉じ込められた。


 僕の首元に顔をうめて、囁くようにして聞かれる。


「本当にいいの? 柴翠」

 その余裕のない切羽詰まったような声には、熱のこもった色気が多分に含まれているように感じて、腰が浮いてしまう。


 普段の僕からは考えられないほどに、大胆になっている自覚はある。

 冷静さを取り戻したとき絶対に、恥ずかしさに襲われると思う。

 でも、もう止まることは出来なくて。僕は雅の腰に、自分の足を絡めるようまわした。


「いいよ。みやび、おいで?」



 そのまま僕たちは、初めて肌を重ねた。雅にこれでもかというくらいに、大切にされ深く愛してもらった。


 世界は僕が今まで見ていたものとは全く違って見えて、互いの体温の境目が分からなくなってしまうほどに混じりあうことが、こんなにも気持ちの良いものだとは知らなかった。

 甘く溶かされてしまいそうな暖かく柔らかい唇も、僕のことを呼ぶキャラメルのようなその声も、僕の体を包み込んでくれる優しい体温も、雅を形作るすべてが愛おしくてたまらなくて。


 幸せに揺蕩っていた僕は、そのまま意識を手放した。



 次に目が覚めたとき、僕の身の回りは綺麗に整えられていて、雅が僕の事を見つめていた。

 体は心地の良い倦怠感にくるまれていたが、幸福感で満たされていてこの怠さは、嫌いじゃない。


「紫翠、起きた?」

 そう言って、微笑んでくれる。その瞳は溢れんばかりの愛を伝えてきて、とくんと心臓が音をたてて、きゅぅーっと胸の奥をあまく締め付けてくる。


 寝起きの頭では、こんなにそばに雅がいるという嬉しさしか、認識することはできなくて、僕も同じ様に微笑み返す。


「好き」という言葉では足りなくて、もっとそばにいきたくて。


 みやび、ぎゅーってしてと甘えて言えば、優しく抱きしめてくれた。

 雅の少し華奢だが、いつも守ってくれる腕と僕の好きな匂いに包まれ、また瞼は落ちてきてしまいそうになる。


 僕はたまらず、きゅっと抱きついてキスをせがむ。雅の影が落ちてきて、優しく唇が重なる。


「ゆっくり休んでね」

 おやすみと綿菓子のようにあまやかで、柔らかい声が聞こえ、優しく背中を撫でてくれたのと同時に、僕の瞼は完全に落ちてしまった。

 幸せで頭の中はふわふわとしていて、永遠にこの時間が続けばなんて、雅の腕の中で再び夢の世界へと旅立った。


 僕たちはこうしてお互いへの愛を深め、大切に温めてきた。雅と一緒にいられるのならば、僕は何も怖くない。


 小さい時から人付き合いが苦手で、考えを伝えることに時間がかかってしまう自分の事をあまり好きになれなくて、ずっと自信がもてなかった。


 でもそんな僕を雅は認め、包み込んでくれた。それでもいいのだと。


「そこも柴翠の良いところだと俺は思っているし、そんな柴翠だからこんなにも好きになったんだよ」

 そう、言ってくれた。


 次に目が覚めたとき、ちゃんと目を見て愛してると伝えよう。


 大好きな雅が、ずっと僕のそばにいてくれるように。

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