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4 時よ戻れ~眼鏡をもらうことにしたアリア~

王子様らが去った後、二人の間に沈黙が降りた。

もちろん、侍女と護衛は一緒だが。

とてもできた二人は、空気のように気配を消している。


「私のせいですわ」

ぽつりとサマンサが呟いた。

「私が、アリア様に注意をしなければ」

「サマンサ様・・・」

「アリア様の立場では、あの方々の申し出を断れないことは分かっていました」

アリアが誰かに色目を使ってすり寄っていく事などないと、サマンサは知っている。

「ですから私、貴女からお断りをするのは難しいでしょうから、何かあった時は私に頼って良いのよ、と言おうとしたのですわ」

ディルは息を大きく吸い込んだ。

’おしかり’ではなかった。

(アリア)を守ろうとしてくれていた・・・。

「けれど、アリアさんは私に諫められるとお思いになったのでしょう・・・。申し訳ありませんと叫んでどこかへ走り去ってしまった」

「では、サマンサ様はわた・・・いえ、アリアさんを心配して」

「ええ。寮ではないかと追いかけたのですが、私が着いた時にはもう鍵が閉まっていて、音がしなかった」

慌てて管理人を呼んで鍵を開けてもらい一緒に部屋へ入ると、すでにアリアはいなかった。

「貴女のせいではないです」

姿を消したのは神的な存在の少女のせいだし、もとはと言えば、自分が願ったせいである。

「アリア様を学園に呼んだのは・・・」

言葉に詰まり涙をこらえるサマンサを前にして、外見をすっかり忘れそっと抱き寄せた。

「ディル・・・様?」

少し驚いてサマンサは見上げた。



シマッタ。と思った時には遅かった。


サマンサ・シルバーリリーはあのお子ちゃま王子様の婚約者である。


さすがに護衛の人が動く。


より先に、甲高い声が響き渡った。


「ちょっと、サマンサ様!貴女一体どういうことよ!!」

ちょうど通りかかった、公爵令嬢カトリーヌ様である。

「貴女!!殿下の婚約者でありながら・・・でぃ、ディ、ディル様と」

「違うわ」

意外にもサマンサは落ち着いた声音で答えた。

しかしディルは己のやらかしに完全に焦っている。


ドウシヨウ。


違いますとはいえないよなあ。

今更突き放すこともできず、サマンサを優しく抱きしめたまま言い訳を考えたが思いつかなかった。


「アリア様のことで動揺した私を気遣ってくださっただけですわ」


そっと手を添えて距離をとりながら、サマンサが答えてくれたのでディルは内心で安堵した。

さすがサマンサ様である。

手持ち無沙汰になった右腕をプラプラさせていると、急にカトリーヌがゆっくりと近づいて来る。

「わ、わたくしだって」

ディルの袖口をつまむ。

「気遣っていただきたいですわ・・・」

「え・・・?」


「あんな婚約者、アリアさんが戻ってきたら差し上げてもいい」

「カトリーヌ様?」

見たこともないほど乙女な様子の彼女を見て、サマンサがやや固まっている。

「お、落ち着いてくださいっ。わ、私はそういうつもりでは」

カトリーヌの手を取り、真剣に訴えるディル。

中身アリア。

「ディル様・・・手」

カトリーヌ様は、ほうっとため息をつきながら気を失った。


 *


令息(でぃる)生活16日目から、おかしなことが起き始めた。


令嬢たちが追いかけてくる。


「こ、こわいっ」


ディルは神的な存在の少女に便利な記憶をもらっていたので、学園内を上手く逃げることができていたが、アリアがお子ちゃま王子と愉快な仲間たちにされていたのと似たような状況になってしまっていた。



風の噂で聞いた。

王子様はこれ幸いとサマンサ様に婚約破棄を突き付けたと。

その後、血眼でアリア捜索を叫んでいるという・・・。


オソロシイ。


側近たちは追随した者、カトリーヌ様を筆頭とした令嬢の方からフラれた者など様々だったが、フリーになったという。


「ディル様」

周りを女子が取り囲む。

自由を得たご令嬢の群れ。

恐れながらも嫉妬に狂う男子の視線。


もう何日サマンサ様に会えていないだろう。


「見つけましたわ!!」

「ヒッ」


まって。




待って待って。






ヤダコレ。



「私は・・・」


おんなじだった。


「ディル様は私の手を握ってくださったわ!!」

カトリーヌが積極的に進み出る。


「ま、待って」


結局外見が変わったところで、何も変わりやしない。


「わ、私たちだって優しい笑みを向けられました!!!」

三人のご令嬢たちが口々に叫んでいる。


「いや、それは」


だって、だって私はアリアなんだから!!!


サマンサ様とお茶をすることはもうできないかもしれないけれど・・・。





「時よ戻れ、こんな醜い世界やってられるかあ!!!」






ディルの叫びが響き渡った。



青年の身体が、何かに吸引されるようにひっぱられる。



視界の端に、美しい笑みを浮かべたサマンサが映ったような気がしたが・・・。



瞬間、全てが薄紅色に光り輝き。





気が付くと、そこはアリアの部屋であった。


夕方。


顔には眼鏡が装着されている。


「うお!よく見える!!!」




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