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2 凍える薔薇と銀の百合~落差を間違えたアリア~

ディルの長い脚で歩けば、離れた場所を行くサマンサにもあっという間に追いつくことができる。

アリアは内心で満足気に、ディルの顔をした表の顔では無表情に歩を進めた。


裏庭の人影のない所へ、建物の角に銀色の髪が吸い込まれていく。


ディルは少し小走りになりながらも音を立てないように後を追った。

少し古くなった四阿の柱の陰にサマンサがたたずんでいる。

うつむき、微かに震える肩。


(泣いて、る?)


表情筋がアリアよりずっと動かしづらくなっているディルですら、眉の辺りに動揺が出てしまう。

彼女が取り乱すことなど考えも及ばなかった。

遠くから見ていたサマンサ・シルバーリリーはそれほどに完璧なレディだったから。


一方サマンサはあふれる涙を押えようとして、気づく。

どこかでハンカチを落としてしまったようだと。

「どうしましょう・・・」

指先で雫をそっと拭って、困ったように呟いた。



「あの」



思わずアリアの勢いで声をかけてしまった。

びくりと、サマンサの均整の取れた背が反応する。

咄嗟に浅はかだった!と思ったものの、もう引き返せなかった。

幸いディルの表情筋、ディル筋は微動だにしていない。

「落としましたよ」

何気ない風を装い近づいて、そっと拾ったハンカチを渡した。

「それから、よろしければこちらを」

続いてスマートに、胸元からそっと上等な絹を差し出した。

薔薇の紋様が入っている。

「ありがとうございます」

その印にわずかに表情を動かして、サマンサはそっと受け取り目元にあてた。


「貴方は、コールドローズ様ですね」

サマンサはディルの事をどうやら知っているようだった。

神的な存在の少女は、アリアに、ディル・コールドローズがここ10日くらい前から学園にいることにしたと言っていたのを思い出す。

「はい」

「こうしてお会いするのは初めてですけれど、お噂はうかがっておりますわ」


サマンサの明晰な脳裏に、令嬢たちの言葉が走る。



<ああ、あの方ね。なんかとても怖そうですわよね・・・>



<なんていうのでしょう・・・爬虫類?的な>



<もう、本当に怖くって。(わたくし)目が合っただけで蛇に睨まれたように竦みましたわ!>



あんまり良い噂が無かった。


なんだか申し訳なくなってしまい、サマンサは複雑そうな表情を浮かべてしまう。

「あまり良い噂ではないでしょう」

予想はできているのでディルは特に感じるところはない。

だってそういう風な外見を希望したのだから。

「人が近寄ってくる面相ではないですから、お気になさらず」

そんなことよりも表情筋を動かすことなく、カッコいいと思う台詞をさらっと言えたことに中身のアリアは感動した。

心が揺らいだところに、追い打ちをかけるようにサマンサの声が届く。


「コールドローズ様はお優しいですわ」


と。

アリアにとって、それは美の女神の託宣だ。


「そんなことを言われたのは、初めてです」


ディルは驚いたように目を見開いた。


「私は私が見た貴方を信じますわ」


憧れの美しきレディが褒めてくれた!


ディルであることを一瞬で忘却したアリアは、ふわりと笑顔になってしまう。

「嬉しいです」

アリアの魂がディルの表情筋に勝った瞬間であった。


花がほころんだような、とあの王子たちに評された微笑みが浮かぶ。

王子たちには大好評、女子には圧倒的に不評なスマイル。


シマッタ。


やってしまったと思った時には遅かった。




ひとえに間が悪かったとしか言いようがない。



「サマンサ様、こちらにいらしたのですね!」

「あの娘のことなど、お気になさらない方が良いですわ」

「あの王子たちときたら・・・」


その時、サマンサを探しに来た友人の令嬢たちが彼女の後ろから現れ、背の高いディルの笑顔を真正面から見ることになってしまったのは。


「「「!」」」


恐怖を抱かせる強面、思い起こさせる爬虫類。

でも顔は非常に整っている。

そんな「彼」が誰にも見せたことのない笑顔を見せたらどうなるか?




ギャップ萌え。


という現象が起きたのであった。

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