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第四話 添削

 この作品の面白さとは何か。魅力的に感じる部分。

 作画の技巧について述べ、あらゆる点に注意を向けて書く。

 別のタブで漫画を開き、読み返しつつ細かく確認する。

 

 構図やコマ割り、視線誘導、演出の妙。

 登場人物の魅力や、最後のオチにやられたこと。

 読み終えての素直な気持ちなどを記していく。

  

 荒い部分や多少気になる点も挙げていく。

 恐らくは、有名な某作品へのリスペクトがあること。

 同系列のジャンルにおける源流を意識した作風について。


 作画上のミスと思える点など、マイルドに言及するに留める。

 最後に満足度やおすすめ度を数字として書いてみる。

 

 よし、文字数は達した。多少の緊張。

 指のこわばり、肩が少し重い。

 なかなか時間がかかってしまった。


「書けました」


 息を吐き出す。書き終えて、安心した。

 絶対に書かなければ、と思うと案外何とかなった。

 これが物語なら、無理だったかもしれない。


「まずは印刷して俺に見せろ」


 備え付けのプリンターで出力する。

 自分の書いた字が紙に出るのは何だか新鮮だ。


 手渡すと、部長は上からざっと眺めていく。


「ダメだなこれは。特に後半部。ライン引くから直せ」


「わかりました」


 最後の感想部分のほとんどが二重線で消されている。

 これのどこが問題だったんだろう。

 見ると、「そんなこともわからないのか?」という顔をされる。

 彼はガタイが良く、目つきが悪いので威圧的に感じた。


「すいません、その」


「ぼくが見るよ」


 友安さんが声をかけてくれた。


「まずはね。既存の漫画のタイトルを挙げちゃダメ。ジャンルの源流とかも控えよう」


「著作権に関係してのことですか?」


「作者さんが目にして良い気持ちになるとは限らない。何かに似てる、は禁物だよ」


 どこか重ための口調で言われる。

 幼い姿の彼なので威圧的ではないが、やや不穏な響きだ。


「ミスの指摘も不要。荒く感じる部分は個性的で独創的、あるいは力強いといった言葉に置き換えるんだ。評価は☆以外で数字を付けてはだめ」


「何故でしょう?」


「ぼくらが書くのは評論じゃない。作者さんが目にする『讃える言葉』なんだ」


「賞賛ですか? レビューとは率直で忌憚ない意見が良いものと思いますが」


 端的に言えば、作品を評価するということ。

 あるいは読む側の役に立つ紹介。


「理屈としてはそう。作者さんによっては何でも自由に言って欲しいこともあると思う」


「それでは何故?」


「これはプロに対する批評や読者への口コミじゃない。ハイレベルでも学生相手だ」


 彼はとてもまっすぐな目をしてこちらを見る。


「だから、細やかな点に気を遣う?」


「そう、あくまでもアマチュア。決して、彼らのモチベーションに悪い影響を与えることはあってはいけない」


 強く断言するような言葉だった。


「投稿の際には、星の五段階評価もあるけど必ず☆五にするんだ。そこは絶対ね」


「そこまで厳密にやるんですか。いや、だから?」


「そう。ぼくらは肯定的レビューのみを書くのが仕事。その上で、不自然に持ち上げすぎてもいけない」


 肯定的評価。

 讃えるという言葉の意味。

 わずかな違和感。


「作者さんが悪いレビューで落ち込まないように、影から応援するような?」


 感じたことを多少マイルドに言った。


「そう。この学校でこれは、ぼくらしか書かない。正しくは、書けない」


「どういうことですか?」


「生徒なら誰でも閲覧できる一方で、生徒間のレビューは禁止。提携校などの外部観覧者が感想を書いている、という風に装っている」


「それはどうして?」


「作者同志で不和を招かないように、だね。周りがライバル同志だから」


 確かに同級生同士でお互いの作品の批評はしにくい。

 本名が出た上でのレビューは躊躇するし、匿名だと貶める者も出るかもしれない。だからこそ、無関係の誰かに担当させる。

 

 それが、何故「仕事」として未成年のオレ達に回されるかは謎だが。


「ぼくらはね、アドマイラーなんだよ」


 友安さんは耳慣れない言葉を口にした。


「アドマイラーとは?」


「ファンとか、何かを賞賛あるいは崇拝する人」


 気になる事は多いが、この場においては飲み込むのが正解か。


「つまり役割としては応援とかアシストに徹すると」


「そういうこと。だからぼくらが書くのはレビューとは言わないかもね」


「と言うと?」


「これはレコメンド。オススメや推奨するってこと。何となくわかった?」


 そういえば沙汰んちゃんも「レコメ」等と言っていた。

 あれはそういう意味だったのか。

 

 作品の紹介に絞ったブログなどをイメージとして浮かぶ。

 点数の評価よりも「オススメする理由」に特化した形。

 なるほど、ああいう感じか。


「作者さんを褒めて応援する活動ですか。だけど、これ他の生徒さんは知っているんでしょうか」


「学校側が色々ごまかしてる。生徒には絶対秘密。誰かにバラしたらペナルティ」


 指先を口もとに当て、しーという風に言う。

 子どものようなジェスチャーだが、明らかに不穏。


 それって、良いの?

 意図あっての肯定的レビュー。

 まるで、工作のような。


「これを毎日、やるんでしょうか?」


「そう、在籍し続ける限り、ずっとだ」


 記事を完成させて、合格を貰う。

 投稿すると審査中になった。

 

 続けて二本目の感想を書く。

 猫家みかん先生の作品。

 

 複雑な物語展開が上手く要約できず、簡単には進まない。

 画面構成も複雑で、独創的な世界観。

 絵の魅力を素直に称賛することは可能。

 

 問題はストーリーだ。

 最後まで読んでもどういう意味なのかよくわからない。

 何度も繰り返し読んで、内容をかみ砕いて読み解いていく。


 記事を書くと言う目的がないと、ここまで繰り返し読まないかもしれない。

 あまり捗らなくて、空腹感を覚えて来た。

 朝食はコンビニの菓子パン一個だった。


 休憩がてら、昼食に行くことにする。

 出ていく前に一言許可を取った。


「あんまり食いすぎるなよ。頭が回らなくなるぞ」


 部長はこちらを見ないまま答える。

 他の部員は全員、凄まじい集中力で作業を続けている。

 篠崎さんは作業時には眼鏡を掛けるようだ。

 仕事中の為か、どこか印象が違う。


 特に部長のタイピングの勢いは遠目から見てもすさまじい。


 一体どんな風に記事が書かれているんだろう。

 部室以外にも部屋があり、一人で書きたい場合はそちらに行くようにと言われた。姿が消えたモブの人、竹平さんはそちらに行ったらしい。


 えらくだだっ広い校舎に数人しか居ない。

 恐ろしくお金がかかっている気がする。

 こんなことでいいんだろうか。

 

 漫画の紹介とはファン活動や、趣味でやること。

 これで報酬を貰うということが妙に謎めいて感じる。


「新入生か。ちびっこだね。かぁいい」


 誰かの声がして、振り返るが誰も居ない。

 さっきも同じことがあった。

 でも、別の誰かの声だった気がする。

 何だか肌寒くなった。

6話から話が更に動きます。

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