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終末のアドマイラー~ファン失格だけど、綺羅星のあなたを讃えてもいいですか?~  作者: 鈴林きりん/幻想神意博物館
第二章 ラスボス異形おじさんと君の創作ディストピア

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第十七話 君に誘い出される、仮初のスクールライフ

 そして、琥里きららとも連日顔を合わせる。

 いつの間にか軽い待ち合わせをしていた。

 主に昼休みに、同じ場所でという調子だ。

 

 彼女も新入生で、知り合いを増やしたいのかもしれない。

 ただの顔見知りにしては、少々距離感が近かった。

 

「おはようございます。もうお昼だけどね」


 ギフトヘアから淡い光が放たれる。

 本日の彼女もきらきらしていた。

 ご友人の蔡園みすずさんは「どうも」とだけ短く言う。

 二人並ぶと、やはり対のようにしっくりと来る方々だ。


「それでこれが綺羅星さんのレビュー」


 彼女はオレの記事を印刷して持ってきた。

 ついでに一枚くれる。

 この部分が嬉しかったとか、ありがたいとか。

 自分の文章を誰かに見られるのって結構きつい。

 度の過ぎた賞賛が良くない理由も、わかろうというものだ。


「というわけで、こんな作者です。よろしくお願いします」


 頭をぺこっと下げて来る。小動物のような仕草だ。


「はい、こちらこそ」


 何となく頭を下げ返す。

 作者名はやはり、猫家みかん先生だった。

 ただし、その名前では呼ばないように頼まれた。


「普段は琥里でお願いしますね。ペンネームって扱い難しいよね。特にこの学校だと」


「そうですね。周りに知られても厄介だし」


 匿名性は大事にすべき。

 本来はオレに対しても知らせる義理はない。

 律儀と言うか、誠実な人なのだろうと感じる。


「本当は別にいいんだけどね。ただ、まだ入学したばかりだから」


「リスクは避けるべきですよね。オレも気を付けます」


「そういえば、藤芽くんはペンネームとかある?」


 小首をかしげて聞いて来る。


「いえ何も。無記名での活動ですから」


 名もなき立場。

 それは責任を背負うという意味では気楽なのは間違いない。

 モブがどうとか言う彼の言葉が薄っすらとだけわかった。


 彼女はレビューがとにかく嬉しかったらしい。

 生まれて初めて貰ったということだ。


「中学校もクリエイター系だったんだけど、講評が主だったの」


「他で作品を公開などはされていなかったんですか?」


 イラスト系のサイト等はいくつか思い浮かぶ。

 彼女ほどの実力があるなら投稿していそうなものだが。


「学校の方針もあってね。学生の内は非推奨。自分を守るためだって」


「SNSは手軽な反面、絶対に安全とは言えませんからね」


 未成年を取り巻く問題は、いくらでも思い浮かぶ。

 盗作、騙り、正しい段取りを踏まない仕事の依頼。

良いことも悪いことも様々な誘惑もあれば悪意にも晒される。


 何らかの形で心が折れることだってある。

 良いことや嬉しいことばかりではない。

 低評価や、無評価などもそれだ。反応がなければ、きつい。


 漫画家志望の兄に対しても、作家の父がそうした細やかなことを伝えていた。

 気の強い兄のこと。多少は不満そうではあった。

 ただし、プロの漫画家の意見なので大人しく聞いていた。

 その代わり、オレにはあれこれ見せては反応を知りたがっていた。


 何事も無防備であるうちは一切外と交流を断つのも有効な手だ。

 仮に何らかのダメージを負えば、それは創作者としての傷となる。


 だからこその、高校デビューによる解放感。

 制限はあるが、多少は許される範囲が増えていく時期。

 つまり、彼女はテンションが上がっているのだ。

 良く知らない相手と親しく接するのもそうだろう。

 見ていて少し、危ういほどに。


「顔も知らない誰かに褒めてもらえるって嬉しいよね」


 嬉しそうに微笑む姿。

 自分の胸に手を当てて、夢見心地のごとく言う。


「何だかここがね、ふわふわとあったかくて。きらきらになる」


 小柄で柔らかな雰囲気を持つ彼女。

 どこかメルヘンチックな発言が似つかわしい。

 まるでおとぎ話のお姫様のようだった。


「どんな人が、書いているんでしょうね」


 白々しくもとぼけるしかない。

 まさか自分だとは言えない。ペナルティだってある。

 まさにリスクとの綱渡り。

 一瞬の隙で、全てが終わり。


「きっとすごく良い人だね。私にはわかるよ」


「そ、そうですか」


「文章から人の良さが染み出してる。私は文章書くの苦手だから技術的なものはあんまりわからないけどね」


 曖昧に頷くしかない。なんて、白々しい。

 まさに褒め殺し。

 無邪気に喜ばれているからこそ、気まずさは尽きない。

 どこまでも膨れ上がる居心地の悪さだ。


「きらら、ちょっとはしゃぎすぎ」


 ずっと黙っていた彼女が口を開く。

 蔡園さんはオレに冷めた眼差しを向ける。

 

「あ、うん。ごめんね」

 

 近しい友人と変に馴れ馴れしく接していれば当然だ。

 むしろ、どこか引いている彼女の存在は、逆に頭を冷やしてくれる。

 明らかに変だ、今の状況は。

 

 漫画家とレビュワー。

 厳密には自称アドマイラー。

 よくわからない集団に属する人間。

 出どころ不明の異常な報酬。

 

 一方で、ほどほどの報酬で活動する、漫画家さんたち。

 彼女らの作品をダシに、お金を稼いでいる。

 あまりに、おぞましい状況。

 

「でも藤芽くんと知り合えて良かった。私は人見知りだから、なかなか気の合う人が見つからなくて」

 

 琥里先生は朗らかに言う。

 親しく接してくれる彼女を、オレは遠ざけることはできないでいた。

 この学校に来て、唯一気持ちを明るくしてくれる存在。

 あまりに重い、ライター部の事情。


 変に拒絶はしたくなかった。

 

 だからこそ、流され続ける現状。

 良くないことは感じている。

 でも少しだけ学校生活を楽しみたいという誘惑。


「それじゃあ午後も頑張ろう! またね!」


「はい、また」


 去り際に元気な声を掛けてもらう。

 何だか嬉しくて、つい手を振り返してしまった。

 この繰り返しだ。


 一人で歩いて、向かう先はあの異様な場所。

 学生のふりをしている、よくわからない人間。 

 

 あぁ、馬鹿だな。


 借金返済の期日は常に迫ってくる。

 学校が闇深だろうが、世界が複雑だろうが関係ない。

 生きるために、働くだけ。

 あらゆることはそのついで、と言えた。

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