第十五話 人類滅亡後の記録-青き学び舎の跡地にて-/預言断章
ある日、唐突に訪れた人類の危機。
外世界より迫りくる無数の脅威。
原因不明の疫病の蔓延、異生物による侵略。
まるで漫画だ、と誰かが言った。
「君たちはまるで綺羅星のようだね。すごく讃えたい気持ち」
あまたの来訪者の中で、人類に唯一好意的だった存在。異なる種の娯楽を求めて訪れた未知なる生命体Festivals。最初期に訪れた者達は、フリークスな姿形が多かった。
まるでハロウィンの仮装のようと評された。
あたかも人類の「祭り」に参加するための姿かたちであった。
彼らを留めるために、人類はあまたの娯楽を生みだし続けた。最も苛烈な時代、可能な限り全人類に物語を紡がせた逸話もある。
その結果が、娯楽の超飽和社会だった。
創作者人口は歴史上、類を見えないほどに増えた。
特に漫画家は聖職ともフェス様の料理人とも言われる。何故なら最初の個体が漫画を強く讃えたから。
超越者の娯楽消化率は年々減少の一途を辿った。
人類によぎるのは彼らの新世界への旅立ちへの不安。彼らは「一時滞在」と、降臨初期に語っていた。
その言葉を裏付けるように、訪れた彼らの撤退。
おぞましき侵略者の再来によって、人類社会は蹂躙された。
「お戻りください。フェス様、フェス様ぁぁぁぁぁぁぁ!」
あまりに足りない文明レベル。人類の英知はまるで玩具のように意味をなさなかった。
だからこそ、彼らは絶対庇護者を必要としたのだ。
自分たちが無力であることを深く理解していた。
よって、人類はFestivalsを讃えた。
超越者の興味・関心を惹く新たな娯楽の創造を求めた。
手段を問わず、あまたの試みを行って。
生贄の子羊を捧げるように、多くの子らの心を弄び続けた。恒久に続く庇護を求め、足掻き続けた数百年。
その努力も空しく、世界はあっけなく滅亡する。
「素敵な娯楽をありがとう。さよなら、あまたの綺羅星たち」
Festivalsは最後にそんなメッセージを送った。
無慈悲に告げて、おびただしい消滅の情報反応をただ見つめる。
おぞましき侵略者群は一切の容赦なく世界を喰らい尽くした。
残されたのは瓦礫の山。
何かが癇癪を起こしたように、全てが崩壊していた。
植物すらも残らず、人類文明は完全に粉砕されていた。
辺り一帯が静寂に包み込まれている。
創青天上院高校。
かつてそのように呼ばれていた跡地。
学び舎の成れの果てに、形ある何かが遺されていた。
まるで誰かが生きていた証のように。
それは黒い石板のようなものであった。
明らかに人為的に作られた建造物である。
一種のモニュメント、あるいは墓標を思わせる。
上部に時計のような文字盤が存在していた。
縦に長く、中央部に点滅する光がある。
表面はひび割れ、何を動力にしているかも不明。
黒曜石のごとく艶めくその輝き。
光が明滅し、モニター画面の如く文字が浮かぶ。
『終末のアドマイラー』
『藤芽春臣』
『ヒール・クロウズ』
『友安林檎【最優先殲滅対象】』
その他にも数名の名前が刻まれている。
ノイズが走り、後半部は正常な形で表示されていない。けれど確かにそれ以上の人数名が表示されていた。
数にして、およそ十数名。
確かに、彼らは存在していたのだと知らしめるように。
そこから、その表示は突然乱れだす。
まるで何かの電波を受信したように。
乱れた文字列が一気に表示される。
同時にかすれた肉声が一帯に響き渡った。
人類の女性のものと思われる声だった。
殺せ。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
アドマイラーを殺せ。
決して奴らを許すな。
一人残さず殲滅しろ。
一個体残さず八つ裂きにしろ。
殺してしまえ。
あいつらは、あいつらは、あいつらは。
わたしの大事にしているものを汚した。
よくもよくもよくもよくもよくも。
作者の断りなくそれをしたな。
許さない。許さない。許さない。
絶対に滅殺してやる。許せない。
讃える? 何を讃えるって?
あぁ、なんておぞましい。
おぞましい。おぞましい。おぞましい。おぞましい。
絶対に許せない。許せない。
消去しなきゃ、消去しなきゃ、消去しなきゃ。
あいつらがさぁ、居ると駄目なんだよ。
駄目になっちゃうんだよ。
わたしの大切な、大切な愛しい創造が。
あははははははははははははは。
あぁ。あぁ、あぁぁぁぁぁぁ。
なんでわたしは。
侵略者になり果てたの。
Festivals。
どうして、守ってくれなかったの。
あんなに、愛してあげたのに。
わたしの素敵なお友達。
どうしてこの手で、殺したの。
創らなきゃ。
描かなくちゃ、生み出さなくちゃ。
青き学び舎に、わたしの創造を届けなきゃ。
真っ赤に汚した、あの場所へ。
わたしの理想の、お友達。
お願い。ねぇ。
わたしを「あそこ」へ連れ出して。
あらゆる創造の原点。
小さなあの子を腕に抱いて。
そして手を繋いで、一緒に歩こう。
ただ楽しい、あの祭典を。
それが、わたしの最終楽園。
もうあの場所へは戻れない。
あああああ。
あぁ、マイ、フェイバリット。
おぞましき娯楽に溺れて汚れた。
どうか、浅ましきわたしを見ないで。
優しい優しい、あなた。
綺羅星のあなた。
どうかいつも、側に居て。
わたしはあなたがとても好き。
頭を撫でて、大丈夫だって、安心させて。
もう一度、あのお伽話を聞かせて。
小さな妖精が男の子と出会い、駆けていく。
遠く遠くへ、去っていく。
可愛いあなた。
小さく健気で、稚い。
あなたは、わたしのお気に入り。
どうか何も知らないで。
綺羅星の、あなた。
世界が終わるその日まで。
わたしを一人にしないで。
そんな独白のようなメッセージが流れて消える。
最後に、それまでの文脈を無視した文字が表示された。
『ファン失格だけど、
綺羅星のあなたを讃えてもいいですか?』
いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
悲鳴のような絶叫と共に、最後にそれが放たれた。
表面が大きくひび割れて、小規模な爆発が起こる。
そして、息絶えるようにして沈黙した。
周囲には静寂が戻る。
モニュメントには、何かが添えられていた。
この世界にはもう存在しないはずのそれ。
なぜか少しも衰えることなく、ただそこに存在していた。
まるで何かを悼むように、涙を流すように。
それは、白い鈴生りの花であった。
自然のそれよりも、どこか人工的な形と色。
更に魔女の帽子らしきものが近くに転がっている。
まるで打ち捨てられたように。
何かを悔やむように揺れて、塵となって消えていった。
わずかな文明の痕跡すら残さず世界は終焉を迎えた。その理由は、ある罪を犯したためだ。
誰かの聖域を侵す、禁忌の罪であった。
沈黙したモニュメントに、弱々しい光が灯る。
『ごめん、ね』
そんな文字がかすれて浮かび、そして消えた。
ファン失格だけど、
綺羅星のあなたを讃えても良いですか?
-Grand Festivals Favorite Entertainment-
訪れたのは人類の終末。
あなたは『ある娯楽』を讃えた。
ただ熱狂的に、心を震わせて。
英雄的に我が身を焦がした。
やがて至るは聖域を侵す罪。
あるいは永劫に続く終わりを見守る罰。
創作者は生贄である。
放たれるは、百を超えし祝福と呪い。
彼らは希望を手に、終末の葬列へと立ち並ぶ。
青き学び舎は忽ち赤黒く染め上げられていく。
夢を諦めずにいる限り、彼らの地獄は終わらない。
己の創造を異形の糧として、貪られ続ける。
終わり続けても、なお終われない。
やがて至るは、葬祭なり。
何者にもなれぬ者達は讃え人の役を担う。
誰かの輝きを崇め、愚かに祀る。
甘く囀り、崇拝者と嘯きながら。
己の望みを叶えるために、讃え続ける。
そして誰もがFestivalsに誘い出される。
楽しいよ、こっちへおいで、と。
また誰かが侵略者へと堕ちる。
もうそれしか、できないから、と。
これは、あまりにも「終わっている」物語。
己が破滅を意に介さず、ただひたすらに讃え続ける。たとえ、何かの失格でも、たとえ、全てが失格でも。愛好者だと訴え、あなたが好きと、泣きながら。
綺羅星の『あなた』を讃え、独善的な見返りと救いを求める。
つまりは、ファン失格の終末譚である。
世界の終わりに、更なる罪が姿を現す。
『フォーテラーズの預言断章。個体名不明』
ここまでお読みいただきありがとうございました。
本作を目に留めていただき心から感謝しています。
何が何だかわからない第一章でしたが、序章に当たるお話です。
色々謎は多いですが、真相に当たる部分から逆算して執筆しております。
叫んでいたのは誰なのか、どうして「彼ら」は恨まれているのか。
全てに意味はあり、やがてはそれが分かる形になっています。
ずっと暗いわけではなく、実は明るい展開も多く用意されています。
いわゆるお祭り、コスプレ回。
登場人物がどんな格好をするのかお楽しみください。
きららちゃんの過去についても早い段階で触れます。
諸々調整しつつ、まずはファーストシーズンを随時投稿していきたいと思います。
補足として作中のレビュー論は色々おかしいです。
作中世界と現実のズレを描いた一種の思考実験とお考え下さい。
特に第二章以降でその辺りも顕著となり、世界の在りようを更に描いていきます。
長い旅路になりますが、最後まで書ききれるよう頑張ります。
少しでも続きが気になったと思われましたら、ぜひ広告下の綺羅星(★★★★★)やご感想などを頂けると、とても心強くありがたいです。




