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終末のアドマイラー~ファン失格だけど、綺羅星のあなたを讃えてもいいですか?~  作者: 鈴林きりん/幻想神意博物館
第一章 あなたの心を踏み砕くおぞましき真実

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第十四話 ラスボス異形おじさんとの記憶されない出会い

 加賀見さんは怒声をまき散らすと、去ってしまった。

 追いかけることなんて、とてもできない。

 ただ、気持ちが沈む。

 部室に戻る気にもなれず、外へ出た。

 

 薄暗い空の下、広い公園を歩く。

 

 何だか疲れた。

 記事も全然書けてない。

 先輩たちにもっと詳しい話を聞くべきだろう。

 でも、やることは変わらない。

 

 讃える。金を稼ぐ。この意味の分からない場所で。

 理解不能な世界の中で。

 かつて人類を救ってくれた偉大なるフェス様。

 彼らは降臨して以来「絶対庇護者」と讃えられていた。


 でも、全然守ってくれない。

 高みから見下ろして、人類を振り回すだけ。

 父さんの心をぐちゃぐちゃにした。

 お母さんを、苦しめた。

 兄ちゃんは、どこに居るのかもわからない。


 逃げ出したい。投げ出したい。離脱したい。

 この檻のような場所から。

 先が見えない、見えている未来が絶望的でしかない。

 加賀見さんの態度もわかろうというものだ。


 これから何十年借金返済のためだけに生きていかなくちゃいけない?

 作ったのは父さんだ。でも、そうなっただけの理由もある。

 父さんを壊した最大の元凶。

 それは、それは、それは。


 考えると気が狂いそうになる。

 ぼんやりと浮かんだのは彼女の顔だ。


 琥里きららの笑顔が、妙に眩しくて。

 そして酷く、辛い気持ちになる。

 あの人の輝きを汚したくない。


 家に帰りたい。

 だけど、家はもう電気も水道も通っていない。

 遠からず実家も売りに出すことになるはずだ。

 失うしかない未来予想図。

 詰んでる。もう何も考えたくない。

 

 暮れなずむ夕焼けが炎のように赤い。

 闇が忍び寄る。そんな境目。

 

「こんにちは」

 

 誰かに声を掛けられる。

 時間にそぐわない、不思議な挨拶。

 ぴしり、と空気が凍り付くように固まった。 

 身体が思うように動かせない。

 

「待たせてごめんね。おじさんにも事情とか色々あってさ」

 

 彼は笑顔を浮かべた。

 右目は十字、左目は渦巻のようなマーク。

 

 頭にはシルクハットを被り、額を出した黒い短髪。

 身の丈三メートルに迫る大柄な体格。

 紳士服にコートを羽織り、両肩には黒い羽の装飾。

 背中には大きな翼が広がっていた。

 動物の羽毛ではない。

 星屑の浮かぶ暗い宇宙を映した翼のような何かだ。

 どこか、道化師めいている。

 明らかに人間ではない異様な姿。

 Festivals。


「はじめまして、ラスボスです」


 彼の言葉は、頭の中に深く食い込んでいくかのようだった。


 金縛りに遭ったかのように、自由に動くことができない。

 まるで世界全体を支配されているように。


「面白いことやってるやん。レビューとか、レコメンドとかさ」


 彼は接近し、こちらを見下ろす。

 小柄な自分を更に包み込み、飲み込むような。

 まるで魔王のような異様さだ。


「お金貰ってやってるんだって?」


 言われて、身体の奥が震える。

 とても後ろ暗い想いがせりあがる。

 許されない、これは許されない何か。


「混沌たる魅惑の新規情報体。やめたい、でもやめられない甘い味」


 良く響く、低い男性の声で彼は続ける。


「でもさ、この話って終わってるよね。まるで、終わってる終末譚だ」


 それは。

 ある漫画で使われたそれなりに知られるフレーズだ。


「人類が滅びるか否かって時代に、何を卑俗なことをしているのかな、人類」


 その言葉が心に響く。


「今は瀬戸際です。もはや我らは最後の物語を鑑賞する段階に来ている」


 意味の分からない話を、聞かされる。

 芝居がかっていて、劇でも見ているようだ。

 何かとても大切なことのようで、どこか、他人事。

 オレに何か、関係あるんだろうか。


「まるで主人公不在の物語だ。その代わりだけがここに来ている」


 何かのたとえ話だろうか。

 ぼやくように続ける。


「何の因果だろうね。ラスボスと勇者の弟が対面する話なんてさ」


 はぁ、と彼は溜め息を吐く。

 物語の主人公、勇者。弟がオレ。

 藤芽耀司。居なくなった兄が、そんな人だった。

 知らないところで世界とか救ってそうと、かなり昔にお母さんが言っていた。

 破天荒で大好きな憧れの人。確か、座右の銘は。


「でも、役目は果たさなきゃ。それが約束だ」


 こちらに顔をグッと近づけて来る。


「けどまぁ、ことのほかテンションが上がらない。君もそうだよね。喋っていいよ」


 言われた途端、口が開く。

 出てきた言葉は、何故か考えていることとは違う。

 言うべきことよりも、沈鬱な想いが零れ落ちた。


「今は何も、考えたくないです」


 まるで感情に支配されるように、ただ呟く。


「しかし君みたいな子って、無性にお祭りに連れ出したくなる。festivalsとしてのサガかな」


「お祭り?」


「騒がしくてにぎやかで、楽しい何か。さすがにずっとこんな調子だと読者の人ついて来れんよ。もっと楽しいイベントも増やして、ラブコメとかもやらないと」


「はぁ」


 漫画の編集者のようなことを言う。


「でもちょっと色々、疲れてて」


 率直に言う。


「そうだね。今日はもう帰ってお風呂に入ってご飯でも食べて寝なさい。一度、やり直そう」


「人生を?」


 そんな風に答えてしまう。

 夢の中に居るような気持ちで、言葉が口からまろび出る。


「タイムリープものじゃねぇよ。今この場における、君の記憶を消すだけ」


 どこか冗談めかした口調だ。


「そうですか」


「残念そうにしない。また今度、もう一度君に会いに来る。テンション上げてね」


「会って、何をするんでしょう」


 どこか冷めた目を彼に向けていることを自覚する。


「まぁ、お話でもするかい」


 彼は急に口調を和らげた。


「お話ですか?」

 

「対話によって理解を深め、そうだね。何かの補填として、君の求める願いを一つか二つ、叶えてあげよう」


「随分、都合の良い話ですね」


 まるで夢のような物語。

 今は現実ではなく、そう非現実の中なのだと感じた。


「ちなみに叶えられるのは現実的なお願いだけ。金とか栄誉とかそういうものだよ」


 随分と冷めたお言葉である。


「お金は大事です。もっと大事なものもあるけど」


 どこか、ぼやくように言ってしまう。

 自分の理性が働かない、そんな感覚だ。


「まぁ、持っておいても損はない。君はそれを求めて来ている」


「はい。でも後ろ暗いです。何事も」


「仕方ないでしょ。誰でもお金は必要だし、君はとても困ってるんだから」


 声の質感が緩やかに変わっていた。

 大人が小さな子どもを気遣うような、そんな柔らかさだ。

 怖いようでどこか優しく感じた。

 まるで蕩けるような甘さだ。


「その代わり、こちらも頼みがある」


「頼みですか。漫画のオススメくらいしか、できませんけど」


 全く持って無力極まりない。

 お金もないし。


「それはいらんから、あぁ誰か」


 彼は突然、天を振り仰ぐように言う。


「え?」


「僕を殺して欲しい。世界が終わる、その前に」


 不意に緊張がゆるむ。

 何かに押さえつけられているような感覚が解けた。

 目の前には、誰も居ない。


 気づくと寮の自室に立っていた。ただし土足のままだ。

 どうやって帰って来たのか覚えていない。

 加賀見さんと最後に会ってから、どうしたんだっけ

 

 呆然としてしまい、ただ空腹を感じる。

 お風呂に入ってご飯を食べよう。


 でも、何も買ってなかった。

 ふと見ると、机の上に何故かコンビニ弁当とサラダが置いてあった。

 買った覚えがないが、ご丁寧にレシート付きだ。

 オレのお財布が置いてある。中は小銭しかない。

 数日前までのなけなしの全財産が消えていた。


 レシートにはマジックで何かが書かれている。

 シルクハットのおじさんの顔めいた落書きが描かれていた。

 あまり上手い絵ではない。


「ちゃんと食べて寝ること。歯もしっかり磨くように」


 まるで世話焼きのお母さんのようなメッセージが添えてある。

 どういうことだろう。

 でも、何だか今の状況に従いたくなった。

 

 窓の外を眺めると、鴉が鳴いていた。

 何かがはじまる、そんな気がした。

お読みいただきありがとうございます。

次回で第一章ラストになります。

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