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第一話 漫画家さんと勤労学生の出会い、あるいは世界の滅亡の序曲

 身近に神秘が広がる、そんな世界。

 例えば本屋に行くと、多くの書物に光り輝く小さな印が浮かぶ。

 これは、フェス様のお気に入り。


 彼らが最初に手にした娯楽(エンタメ)

 それは「漫画」である。

 差し出したのは幼い子どもと言われていた。


 瓦礫の中で異なる種族が交わした情報交流。

 長年語り継がれる伝説的なワンシーン。


 その逸話はある「名言」と共に語り継がれている。


「君たちは、まるで綺羅星(きらぼし)のようだね。すごく(たた)えたい気持ち」


 はじまりのフェス様は、人類をそう讃えた。

 子どもは奇妙な言葉を返した。


 それは。



 ファン失格だけど、

 綺羅星のあなたを讃えてもいいですか?

 -Grand Festivals Favorite Entertainment-


 優しいあなた。綺羅星のあなた。

 わたしはあなたがとても好き。

 どうかいつも側に居て。

 頭を撫でて、お話をして。

 何度だって、ずっとずっとあなたを讃えるから。

 世界が終わる、その日まで。


『記述者不明・侵略者Xに破壊された街で発見された同人誌より抜粋』



 第一章 あなたの心を踏み砕くおぞましき真実


 その日、オレはごみを拾っていた。

 レシートや小さなちり芥を掻き集め、ダストボックスへと落とす。

 IDカードをかざすと、自動音声が流れた。


「ご協力ありがとうございます」


 どういたしまして。

 でも君のためじゃない。これは自分のため。

 携帯端末を取り出す。


「清掃活動に協力」で五十円増えていた。


 本当にお金が入った。すごい。

 ちなみに一日一回限定とある。

 空腹で気が遠くなりそうになるのを気合いで押さえる。

 

 記録端子も落ちていた。

 これは後で遺失物として届けよう。


 道行く生徒たちをふと眺める。

 ちっぽけな金で一喜一憂する男子のことなど、誰も気にも留めない。

 彼らの大半は創作者であり、表現者。

 月間報酬を主な収益としているとされていた。


 創青天上院高校(そうせいてんじょういんこうこう)

 ここは様々なクリエイターを育成する学校。


 生徒たちは夢や希望に溢れ、勇ましい顔つき。

 まるで戦士か勇者のようだ。

 今朝、鏡で見た自分の顔は我ながら幼げで疲労が滲んでいた。

 

 荒く刈った黒髪、大きく開けた額。頬の傷跡。

 背は低く、貫禄のようなものは全くない。

 

 ファンタジーならこじつけて、傭兵か。


 オレ、藤芽春臣(ふじめはるおみ)は何も目指していない。

 元は小説家志望。今は違う。

 この学校に、金を稼ぎに来た。

 

 事情のある人間に斡旋された謎の仕事。

 たとえ不穏なものでも、未成年の自分には他に選べる仕事は少なかった。

 大切な家族のため、何が何でも稼がなくてはならない。

 そのためなら、何でもやる。

 

「あの、すいません!」


 振り返ると、小柄な女子が立っていた。

 腰の辺りまで伸びる柔らかなロングヘア。

 きらきら輝く、鮮やかで明るい髪。

 金色とも銀色とも形容しにくい不思議な色合い。


 随分と華やかな「ギフトヘア」だ。

 リボンの付いた水平帽をかぶっている。

 幼げな顔立ちと素朴な雰囲気からどこか稚く見えた。


「先ほど何か拾っておられたみたいですが、メモリーカードをご存じないですか! あの、星型のシールが貼ってあるの!」


 慌てふためく少女にシャツを引っ張られる。


「これですか?」


 特に疑うこともなく手渡す。


「これですこれです! あぁ良かったぁぁぁ! 良かったよぉぉ! ありがとうございます!」


 小さな記録端子をぎゅっと握りしめ、愛しそうに頬に当てる。

 まるで自分の片割れを抱きしめるように。


「何故だか鞄の中身全部バーッと落としちゃって! 本当に助かりました!」


「いえ、オレも勝手に拾ってしまって」


「漫画のデータが入ってたんです。ほんとに良かったぁ」


 瞬間。彼女の髪から星のような光が弾ける。

 さながらアニメなどでよくあるエフェクト演出。

 リアルで見ると魔法にしか見えない。

 ただカラフルなだけではなく、光や模様を放つのは特級だ。


「漫画学科の方ですか」


 表情には出さず、周囲に散る輝きをスルーする。

 変に言及するのはマナー違反。

 基本は、ないものと扱うのが普通だ。


「はい、入学早々大事なものも落とすし、幸先悪いですね。でもあなたに会えて九死に一生です!」


 礼儀正しく、頭を下げてくれた。

 まさか金目当てとは言えない。


「お気になさらず」


 彼女は何故かこちらを見て、少しボンヤリとする。

 顔に何か付いているだろうか。

 まるで夢見るような目を向けられていた。


「あの、良かったら」


 彼女が何か言いかけたところで、別の女子の声が飛んでくる。


「きーらーら。あったの?」


「みすずちゃん? ごめん、見つけてもらったよ!」


 どうやらご友人らしい。ロングボブの快活そうな少女だった。

 ほんのりと紫に色付く黒髪、二人並ぶと対のように似合う。

 まるできらきら星と夜空のような方々だ。


「それでは」


 適当に会釈して、目的地へと向かう。


「あの、良かったら今度お昼でもご一緒しませんか!」


 妙に親し気な女子だった。


「はい、もし機会があれば」


 社交辞令だろう。

 こちらも半ば礼儀で返した。


 地図を見ながら、指定された場所へと向かう。

 なかなか立派な建物だ。

 IDカードを通すと無事入ることが出来た。

 

 だだっ広い校舎の内部を進むと、その部屋はあった。

 表札には「ライター部」とだけ書かれている。


 ノックをすると中から女生徒が現れた。

 黒髪ロングヘアですらりと背が高い。

 優し気な雰囲気で、お姉さんっぽかった。

 上級生だろうか。


「おはようございます。あなたは?」


「藤芽と言います。ここで働かせてもらえるというお話で来ました」


「新人さんだね。何年生?」


「一年生です。中学生ではないです」


 姿勢を正し、胸を張る。

 小柄とは言え、さすがに小学生には見られていないはず。


 彼女はくすっと笑う。


「ごめんね。雰囲気は大人っぽい」


 朗らかな微笑み。

 愛想の良い人だなと感じた。


「でもお出迎えないなんてひどいなぁ。沙汰(さた)んちゃん把握してるはずなのに」


「沙汰ん?」


 中に通されると数人の生徒が集まっている。

 大きなデスクが連なり、PCモニターが並んでいた。

 会社のような空気だ。


 一体何をさせられるんだろう。

 クリエイターの通う学校で、漫画家の息子が。


「ようこそ、地獄へ。アドマイラー」


 誰かの声がして、振り返るがそこは無人だった。

 首筋に何故か冷たい気持ちの悪さを感じた。

本作は第一章の終わりで何かが起こります。

一種の心理探索ミステリー要素があり、「きららちゃんはどういう子なのか」等をはじめ、不自然な行動などの裏側にあるか「隠された想い」などを紐解くお話です。学園ラブコメの他、ファンタジー要素も徐々に増加します。第6話目から「異常」が起こり、何かが判明していきます。

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