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婚約破棄二日後:養子先候補ラスペード公爵とジョルダン侯爵

 翌日。

 陛下は、南部貴族筆頭ラスペード公爵と面会致しました。


 ラスペード公爵領は、エルヴェシウス公爵領と同じく大きな港を有する交易の要所です。


「今日呼び出した理由は他でもない。キトリーを養子としてくれぬか?」


 事前に何方と面会するのか教えてくだされば、御止めしたのですが。

 昨夜、陛下に事を起こす前に相談してくださるようお願いしましたが、お聞き入れ頂けなかったようです。


「恐れながら、お断りさせて頂きたく存じます」

「何故だ!?」

「アングル子爵家は、当家の敵対派閥に属しておりますので」


 断られて苛立ちを露にされた陛下に、ラスペード公爵は淡々と理由を話されました。


「では、アングル子爵が其方の派閥に鞍替えすれば、養子としてくれるな?!」

「アングル子爵が、父親の仇の息子である私の派閥に入りたいとは思えませぬが、陛下の御命令とあれば、従わざるを得ないでしょう。子爵令嬢が悲しむ事にならねば宜しいですが」


 ラスペード公爵は、ひきつった笑みの様な表情で答えました。

 陛下の御命令で仇の息子の派閥に移る事をアングル子爵がどう感じるかは判りませんが、屈辱から自害する可能性は否定出来ません。


「其方の父が、アングル子爵の父の仇だと?!」

「はい。『被害者』の名誉の為詳細は明かせませぬが、先代アングル子爵が願望を叶えようとした結果、父を激怒させたのです」


 わざわざ『被害者』と仰ったからには、先代アングル子爵の事では無いのでしょうね。


「だからと言って、殺人は罪だ! 何故、其方の父は罰せられなかったのだ?!」

「罰せられなかったと言う事は、『そう言う事』ですよ」


 先代アングル子爵は、殺されても仕方が無いと司法長官に思われる事をしたのでしょうね。


「『そう言う事』……。身分か。それとも、賄賂か。私ならば、そのような不正は許さぬぞ!」

「……流石で御座います。陛下であれば、黒を白とも出来ましょう」


 ラスペード公爵の仰る通り、陛下であれば、大罪人を無罪とする事も罪を無かった事にする事も出来るでしょう。

 ラスペード公爵は、陛下が精査もせず、感情のままにそのような事をなさる人間だと思われたかもしれません。


「だが、今更其方の父を罰する事は出来んな」

「はい。既に故人ですので」

「では、キトリーを其方の養子にする事は、諦めねばならんか」

「それが宜しいでしょう」


 さて、他に、王家に嫁ぐに相応しい持参金を出せそうな家はあったでしょうか?

 そうですね。

 斯くなる上は、彼に責任を取って頂きましょうか。




「セバスチャン。貴方の父親ジョルダン侯爵に謁見したいのですが、お願い出来ますか?」


 探していたセバスチャンを見付けた私は、早速用件を切り出しました。


「構わないが、何の用件だ?」

「勿論、今陛下を最も悩ませている件ですよ」

「そうか。それなら、丁度今登城しているから、行こうか」



 セバスチャンは私をジョルダン侯爵に紹介すると、護衛の交代時間が近いからと去って行きました。

 彼には、ジョルダン侯爵から話をして頂きましょう。


「それで、用件はアングル子爵令嬢を私の養子にと言う事かね?」

「左様でございます」

「残念ながら、家には王家に嫁ぐに相応しい持参金を用意出来る財力は無い」


 予想は出来ていましたが、断られてしまいました。


「では、セバスチャンの相続分を減らしては如何でしょうか?」

「……息子は承知しているのかね?」

「いいえ。まだ尋ねて居りません。ですが、エルヴェシウス公爵令嬢との婚約解消を反対した私と違い、セバスチャンは陛下の御幸せを第一としています。ですから、承知してくれると思います」


 私がそう答えると、ジョルダン侯爵は頭を抱えました。

 ロズリーヌ様との婚約解消にセバスチャンが無責任に賛同していたとか、お二人を結婚させるにはもうセバスチャンに責任を取らせるしかないとか、頭が痛くなる事でしょう。

 勿論、ジョルダン侯爵にはお断りする選択肢があります。


 ですが、セバスチャンを陛下の側近にしたのはご自分ですし、陛下をお諫めしないような人に育ったのは親の責任だと思いますし、受けてくださると良いのですが。


「息子に確認してから、陛下にご返事しよう」

「お時間を取って頂き、ありがとうございました。良いお返事を期待しております」




 夕食の席で、陛下に御報告致します。


「陛下。キトリー様の養子先の件ですが」

「ああ。次は誰に頼めば良いか、悩ましい事だ」

「セバスチャンの父ジョルダン侯爵に、ご検討をお願い致しました。明日、お返事くださるそうです」


 そう申し上げますと、陛下は虚を突かれたような顔をされました。

 まさか、セバスチャンが侯爵子息だとお忘れだった訳ではありませんよね?


「そうか! ジョルダン侯爵ならば息子のセバスチャンが私の側近なのだから、受けてくれるやもしれん!」

「一応、お断りされる可能性もお心にお留め置きくださいませ」

「断る? 息子の頼みでもか?」


 陛下は、セバスチャンから父親が自分に甘いのだと言う話を聞いた事があるのでしょうか?

 侯爵夫人が息子に甘いと言う噂は耳にした事があるのですが。

 まあ、他家に知られぬようこっそり甘やかしている可能性もありますよね。


「持参金が足りないかもしれないと」

「持参金……。持参金を減らせば良いのではないか?」


 そろそろ言い出すかと思っていました。


「王家に嫁ぐに相応しい持参金の額をお下げになると、王家の権威が持参金の額に釣り合う評価に下がりますが、宜しいのでしょうか?」

「何を言っているのだ?」


 何故か、変な事を申し上げたかのように思われてしまいました。


「これまでより少ない額の持参金が、これからの王家に相応しいのですよね?」

「減額は今回限りだ。そんな事にはならぬ」

「……左様で御座いますか」


 今回だけ、つまり、カンタン陛下だけは権威が下がってしまうと思うのですが、宜しいのでしょうか?

 それだけ、キトリー様と御結婚されたいという事ですか。

 これほど愛されたキトリー様は、果報者ですね。

 後に、『傾国の美女』とならねば宜しいのですが。

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