婚約破棄!?なら神明裁判ですわ!
細かい話は良い、とにかく婚約破棄だ!
「エヴァンジェリン!俺は真の愛を見つけた!このモニクと結婚するぞ」
「よろしくてよ、では神明裁判。よろしくて?」
「は!神明裁判?この科学万能の世で?そのようなものに縋らなければ逆転の眼もないか!お前はモニクを虐げ、悦に入っていた人でなしだからな!」
「マ、マルク様!段取りが……」
「そんなに心配せずとも大丈夫だモニク。神明裁判と言いつつ沸騰した湯に手を入れるとかそういった……」
「天に在られる神々よ!ここに神明による裁決を願います!神明裁判、被告エヴァンジェリン、原告マルク。尋常なる拳闘の儀を捧げますわ~!」
「は、はあ?」
「だめ!マルク様!逃げて!」
「ふしゅ、ふしゅるるる……がはは!速く逃げないと全身ばっきばきですわよ!」
「な、なぁ!?エヴァンジェリンの身体が恐ろしいまでにパンプアップしてまるでオーガのごとく……!」
「オーガなんて、非科学的ですわねえ?マルク様。これなる肉体は神明裁判で正義の勝利を与えんと、神々がわたくしを支持してくださる証!」
「な、なんだこれは!ひ、卑怯だぞ!」
「卑怯……?この体になって事の裏側が全て理解できるようになりましたわ……そこのギショー様とバイシュー様にわたくしがモニクを虐めていたと偽証させてわたくしの経歴に傷をつけようとなさっていた。そうですわ」
「な、な、な」
「薄汚ねえ……薄汚ねぇですわー!」
「ひぃ!」
「男の風上にも置けない卑劣ぶり!もし仮にその話を持ち出したのがモニクだとしても、それを認めて通そうとした貴方に正義は一片もありません!かくなるうえはわたくしの拳の華とお散りになって!」
「ひぃ……!あがべらぁ……!」
無惨!婚約者を陥れようとした不実な男は1㎥の巨拳の前に爆裂四散!
さらにはその肉片を浴びたモニクは全身が赤く染まり、二度と元の肌色に戻らないという十字架を負ったのだった!
おお、神よ!
人事に貴方がそこまで介入すると良くないことに成ります!
具体的には互いに神明裁判を畏れて人と人がぎすぎすし始めたり!
と思っていたエヴァンジェリンお嬢様の執事が僕でした。
でも世界はそんなにもろくなかったんですね。
皆、お互い「最終的には神明裁判があるぞ」という相互保障の中で「究極的なところまで相手を追い詰めない」という妥当な結論をだし、表面上はお嬢様の神明裁判の執行前と同じ暮らしを続けたのです。
まあエヴァンジェリンお嬢様に逆恨みをして色々仕掛けようとしていたマルクとモニクの家は神明☆裁判関係者保護プログラムの自動防衛で破滅したようですが。