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7話 誤解と理解

見つけて下さってありがとうございます。

本日分を投稿します。

今回から1話ずつの更新です。

第7話になります。ちょっとだけラブコメっぽい回です。

「お、終わったな…お疲れさん…いやあ、まじ、すげー疲れた…」


「タスクさんもお疲れさまあ…ごめんねえ、私が来てもらうことにしちゃったからたいへんなことに…」


「そりゃ違うぞ、考えなしに俺が食べてけって言ったからな。人が食ってるとこ見たら自分もってなるよな…しくった…なんか十軒どころの人数じゃなかったような…」


「多分家族を呼んだり他の隣近所の人たちにも声をかけたんじゃないかなあ…私が声をかけたおうちの倍以上いた気がするよう…」


 ふーーーっと二人の重くて長いため息が重なる。やり遂げた達成感か心地よい疲れを体に感じていた。俺は頭でガブのポニテをくいくい押して気になっていた事を訊ねてみた。


「なあガブ、ご近所さんがお裾分け取りに来るって話をした時さ、なんかお前様子おかしかったよな?」


「えっ、あ、うん、あは…き、気付いてた?」


「あの時はそんなに気にしなかったんだけどな。みんなガブにおめでとうって言ってたり、俺をじろじろ見てきたり、俺の知らんところで何かあったのか気になってきてさ」


 しばらくガブは応えなかった。少しして俺の頭を小さく押し返してくると一言こう言った。


「聞いても怒らない?」


 顔は見えないがガブの声は小さくとても申し訳なさそうに聞こえた。確かに今日はしんどかったけど、ガブのせいで俺が迷惑を被ったとか、嫌な思いをしただなんて思っていない。俺は即答した。


「怒らない」


「タスクさん……簡単にそんなこと言っちゃうんだ。もう…黙ってたこっちが恥ずかしくなっちゃう。本当に言い出しづらくて…」


「怒らないって言ってるうちにさっさと言ったほうがいいぞ、時間制限ありだ。ご、よん、さん…」


「わー!言う、言うから待ってえ!」


「わかった、待つから言ってくれ」


 俺はくいくいとガブの頭を押し返して促した。


「もう…ちょっと長くなるよ?えとね…」


 今朝ガブはご近所さん一同が会する場所、井戸端会議をしている共同の炊事場へと足を運んだという。自警団が突然街をでた事を知っていたご近所さんたちは、ひょっこり顔を出したガブにたいへん驚いたそうだ。戦いに向いてないガブはどうしているか、怪我をしていないかととても心配していたらしい。


「そりゃ一週間も音信不通だもんな」


「だいぶ心配かけちゃって申し訳なかったなあ」


 ガブは留守番で残っていたと説明した。そして自警団にたくさん食材が残されていてこのままだと腐らせてしまうから勿体無い、みんなにお料理してお裾分けしたいと話したのだが……。


 ご近所さんたちにはガブの料理の腕はゴートゥーヘル級である事は有名(以前子供のお守りついでに料理を手伝って壊滅状態にさせた黒歴史があるらしい)で、料理をガブが作るのかと皆が恐慌状態になった。そこでガブは自分ではなく俺が飯を作る、とても美味しい料理だと懇々と説明したそうだ。


「まさか過去にも暗黒物質を作っていたのか?」


「うふ。話を続けるね」


「作ったんだな…」


 俺の名前を連呼しながら飯がとても美味しかった、すごく嬉しかったと熱烈に語るガブを見てご近所さんたちは、ガブが男を作った、旦那を迎えたと勘違い。ガブは必死になって否定したが全く取り合って貰えない。忽ち皆でガブの旦那を拝みに行こうという話になり、方々へ話が広まった結果がご近所さんたちの一斉大量訪問というわけだ。成程やっと全てが腑に落ちた。


「どうりでサンソン奥さんがやたら俺の事を見てたわけだ。飯運んでた時もあちこちからじろじろ見られてたしなあ」


「ごっ、ごめんね…!私何度も違うって言ったんだけどみんなニヤニヤして全然話を聞いてくれなくて」


「完全にその発想はなかったな。てっきり俺はガブに部下が出来たってお祝いとか、部下の俺が皆から吟味されてるのかと思ってた」


「うう、私も新入の団員だよって説明したんだけど…」


 ガクーッとガブの頭が下がり俺の頭がガブに寄りかかる。彼女の声は今にも消え入ってしまいそうな響きだ。完全に俯いたのか俺からは食堂の天井が見える。ふわふわとボリュームのあるポニテが柔らかくて頭に心地よい。


「それでガブはどうしたいんだ?今更どうこう言ったところで誤解はすぐには解けないだろ」


「このままだとタスクさんは私の旦那様だってみんなに思われちゃうよ」


 俺は一拍置いて見解を述べた。


「別にいいんじゃ無いか、時間をかけて行動と態度で示せばそのうち本当の事が分かってもらえるだろ」


「えっ?!それでいいの?タスクさん嫌じゃ無いの?」


 ガブの頭が持ち上がり一息で俺の頭を押し返してくる。声色はとても嬉しそうだ。何で嬉しいんだ?まあ確かにあの人数にいちいち説明するのはかなりの骨だしな…しなくて済むならありがたいか。ガックンガックン頭を揺らされながら俺は考える。


 ガブを助けたい、その目的の為にはいつもそばにいられるだけの理由が必要だ。団員ってだけでなく旦那だと思われていれば彼女のそばにいても何も怪しまれることは無いんじゃないか。ありがたくその設定を使わせてもらう事にしよう。ご近所さんに感謝しなくっちゃな。


「ああ。だから今のままで構わないぞ、誤解なんていつか解けるって」


「んん〜〜〜♪うん!私わかったよ!誤解じゃ無くなるようたくさんたくさん頑張るよ!」


 ん?いまなんか互いの理解に微妙な齟齬がなかったか?


 ばたっ!俺は仰向けになって倒れ込んだ。ガブが急に飛び退いたのか…と思ったら満面フニャらけた笑みの彼女が俺を覗き込んでいた。やれやれと、覗き込むガブの顔を退かし起きあがろうと俺は左腕を伸ばした。ガブの頭に触れそうな距離で突如彼女は俺の手を掴んだ。


 何を思ったかガブは俺の指をかぷりと口に含んだ。目を閉じ、むーむーと小さく唸るガブ。俺は目を丸くしてそれを見ていた。濡れた温かな感触を薬指と小指あたりに感じる。歯が当たってこそばゆい。


「おわっ!俺の手は食いもんじゃないぞ」


 我に帰って俺は指を引っこ抜く。ちゅぽんっと瑞々しく小気味良い音がした。ぺろりと舌舐めずりし悪戯っぽい表情で俺を見つめるガブと目が合う。眼鏡をずらしての艶かしい視線に俺は驚いた。しかし咥えられていた二本の指を見て更に驚いた。


 俺の左手の薬指と小指が光りだしていた。痛くもないし熱くもない、しかし直視が辛い程眩しく指が輝いている。時間にして2、3秒くらいだったろうか、光の中に何か模様のような影が見えたかと思うと、やがて光は収まっていった。もう指には何の跡も無かった。


「ごちそうさまあ」


 光が消えるのを見届けたガブは、口に手を当て満足そうにけふりと軽く息をつく。ぽかんとした俺に構わずガブはすまし顔で立ち上がると、俺の腕を掴んで引っ張り起こした。


「今のは何だったんだ?」


「ナイショ。私お腹空いちゃったなぁ、タスクさん何か作って欲しいなー」


 俺は指をワキワキさせたり灯りに透かしたりしてみたが特に何ともなくて首を傾げた。ガブは後ろを向いてまた何やらウヒウヒ異音を発しているし、俺もたいがい腹が減っていたのですぐに飯に取りかかった。


 サンソンさん一家の帰る頃に仕掛けておいた飯がちょうど炊き上がり、色んな具材を握り込んだおにぎりと残りの豚汁で今宵を締めくくった。同じ飯ばっかですまんなとガブに声をかけたが、「んーん、美味しい!」と彼女はとても満足そうに笑っておにぎりをパクついていた。


 腹を満たした後は二人とも軽く会話を交わす程度で風呂の後はすぐに就寝のコースを辿った。別れ際ガブは何度もお休みとブンブン手を振っていたが…何だこいつまだまだ元気じゃないか。眠い目を擦り軽く手を振って別れると俺は部屋に戻った。もう限界だ…ばたりとベッドに突っ伏すと今宵も深い眠りへと落ちて行った。


最後まで読んでくださってありがとうございました。

次回は10/3、20時に更新の予定です。

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