4話 白菜料理と試食会
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俺は材料確認に取り掛かった。
白菜、にんじん、玉ねぎ、だいこん、じゃがいも、にんにく、生姜、豚肉もある。ごぼうは…ないな。小麦粉に卵、食用油、味噌や塩、砂糖、料理酒、醤油、ケチャップ、ソースもまだまだある。これなら俺の思ってる三品は出来そうだ。
ちなみに調理の間にガブには食糧庫のダブルチェックをお願いした。俺だけの確認じゃ見落としが怖いからな。ついでに種類、量、状態を書き留めてリストにしてもらうことにした。今後の献立に活用しようと思ってる。ガブは食べ物絡みの仕事でやる気が出るのかサクサク進めてるようだ。
まずは下拵えだ。白菜の葉をめくっては洗いまくる。泥が軸の方に残ってるからしっかり洗い落とす。次に白菜のざく切りを大量に作る。ナタの様な大きな包丁で切り刻みザルに積み上げていく。軸と葉をきちんと区別しておくのはとても大切。玉が大きいから5個もあればガブの試食相手としては充分だろう。残りの野菜も料理別に刻んでおく。
一つ目は一番簡単で作って放置できるやつ、白菜の浅漬けだ。白菜をボウルに放り込み適量の塩を振って揉む。然るのちに鷹の爪…赤唐辛子を刻んで軽く混ぜる。塩昆布があればいいが今回は無いから省く。仕上げにレモンを搾りこれまた軽く混ぜる。後は底を綺麗に洗ったボウルを重ね被せ、石で重しする。冷蔵庫に入れて食う直前まで放置だ。しっかり浸かれよー。
二つ目の豚汁いってみよう、根菜少なめ白菜多めで行く。大鍋を熱してスライス豚肉をたっぷり炒める。豚肉の脂が出てきたらにんにくと生姜を足す。更に火の通りにくい順に野菜を投入っと。根菜、白菜の軸の順に入れていく。香ばしくなってきたら煮干しで取っただし汁を入れる。ほんとはだし粉末入れたいんだけどな。次やる時は煮干しをごりごり摩ってみよう。灰汁取りを丁寧にやって味噌で整えて煮込む。そして白菜の葉っぱの方を入れて更に煮込めばおっけー。
最後の三つ目に取り掛かる。俺は鉄板に火を入れて放置するとその横でざく切りの白菜をさらに細切りにし始めた……
∞
日が傾きかけた頃にガブが食糧庫から戻ってきた。
「タスクさん、こっち終わったよ。今傷んでやばそうな食材は白菜だけみたい。生食出来る野菜はほとんど私が食べちゃったからねえ。他は私とタスクさんで食べ切れるかなあ。種類が多くてリスト作るのに時間かかっちゃったよ、後で渡すね」
「おうお疲れ様、ありがとな。ガブ基準で見てもらったから間違い無いな。こっちもだいたいできたから食堂の方で待っててくれ」
「なーにその基準。うふふふふ、楽しみにしてるね!」
もう夕刻の飯時に差し掛かっていた。食糧庫のチェックを終えたガブを労うと俺は出来上がった料理を食堂へと運び込んだ。期待に目を輝かせる彼女の前にまずは二つの料理を並べた。
「この具沢山のスープおいしそー、それにこっちはピクルス?瑞々しい感じ」
「豚汁と白菜の浅漬けだ。豚汁は白菜をたっぷり使ってある。炊き立てご飯との相性は抜群だ。まずは食べてみてくれ」
「いただきます!」
彼女は湯気立つ豚汁をよく香ってから啜り出した。昼と違って余裕のある食べ方だな。一口目でパッと笑顔が咲くとふうふうしながら肉と野菜を次々口に放り込む。頬を赤くさせながら豚汁を啜り込むと思い出したかの様にご飯に飛びつきかき込んでいく。熱々で口を尖らせてほふほふさせると今度は浅漬けにいく。ここでひんやりした浅漬けがいいアクセントになるんだ。黄金パターンを見つけたガブは瞬く間に全ての器を空にしていった。
「ふわあ美味しい!お昼のお味噌汁と似てるけど…このスープはなんて言うか染みるよ、じんわりじわーっと。白菜がとろりとしてる…具沢山で食べ応えばっちり。これはお肉の脂かな、とっても甘いんだあ…。それに色んなほくほく野菜たっぷりで全然飽きないし…何よりも白菜がすっごい美味しく食べれるよ!」
「豚汁は根菜をたっぷり入れる汁ものなんだが今回は白菜をメインにしてみた。豚肉を炒めてるから結構香ばしくて脂も美味いだろ」
「こっちの白菜のピクルスはあっさりさっぱりの塩味が嬉しいね、さくさくしゃくしゃく歯ごたえがたまんない。口の中が冷たくリセットされてまた熱々豚汁を食べたくなるの。時々ぴりってするの好き」
「白菜の浅漬けは塩と赤唐辛子でよく揉んで冷蔵庫で夕方まで冷やしたんだ。いい箸休め…フォーク休めになるだろ」
「うんうん!食べ始めたらさ、熱いのと冷たいのが上手く噛み合ってやばいループになっちゃったんだよねぇ。もっと食べたいな、お代わりお願いだよー」
ガブの食レポに満足した俺はニヤリと笑うと足速に厨房へと戻る。あれえと首を傾げる彼女を余所に俺は用意しておいた料理を盛り付け、今度はゆっくりと慎重な足取りで食堂へと戻った。
じゅわあああ……!!
歩くたび派手に焼ける音が食堂に響く。
もうもうとたなびいていく湯気が凄い。
「え?なになに?煙?湯気!すご、なんか焼けてる!」
「ちょっと失礼、熱いからまだ触んなよ」
ガブの前に丁寧にリリースしたそれは熱々に熱した大きめのステーキ皿。その上にはきっと日本人なら馴染みのある食べ物…お好み焼きだ。
ソースの焦げる香りが強烈に漂い、豚汁の香りを軽く押し退けて迫ってくる。このお好み焼きのベースは豚玉だ。チーズをトッピングして軽く焦がしてある。仕上げにソース、マヨネーズの順にスプーンの腹でフチから溢れる程塗り広げ、真ん中に刻みパセリをほんの少しだけ振って完成だ。青海苔と鰹節は在庫になかった、これは次回までの宿題だ。
「うわ、うわうわうわ!すごい、まだじゅわじゅわしてる!これキッシュ?そろそろいっていい?ね、ね!」
「どうぞ、ステーキみたいにナイフとフォークで行ったほうがいいぞ」
「はーい!熱そう、あーん、ほふ、あふ、ほ、ほっ」
「ほれ水」
お好み焼きを大きめの一口大に切って口へと放り込むガブ。かなり熱いんだろう、左右に頭を振って口をほふほふさせながら熱を散らす。チーズが溶け伸び、慌てて啜って何とも美味そうに食う。水を差し出すと迷わず飲んで咀嚼しては飲み込む…するとこれまた輝くような笑顔を彼女は見せてくれた。かなり熱いにも関わらずあっという間にお好み焼きを平らげてしまった。
「あっつあつのほくほくが最高っ、私これちょー好き!なかに入ってるのって白菜と豚肉だね、焦がしたチーズが香ばしくって…!それに何だか不思議なコクがあるの、これ何だろう?それとそれと!この黒くて甘いソースと白い酸っぱくてまろやかなクリームみたいなの、めちゃ美味しい!!二つが合わさると食べるの止まんなくなるの…」
「これは白菜メインの豚玉お好み焼きチーズ乗せだ。この料理はキャベツをメインにする事が多いんだが俺は白菜を入れるのが好きでさ、白菜の甘さが出て美味いんだ。ガブが感じたコクは多分天かすかな、隠し味的に入れてる。黒いのはお好みソース、白いのはマヨネーズ、手作りしてみたけど気に入ったみたいだな。ほれ、これだ」
俺はお好みソースとマヨネーズの入った小鉢をガブに渡した。キラキラ目のガブが行儀悪く指を突っ込みひと舐めするとパァァァと発光していた。特にマヨネーズへの反応がヤバい。
「マヨネーズはな、野菜にも合うんだ。人参ときゅうりで試してみ」
人参とキュウリの野菜スティックを入れたグラスを渡してやると彼女は両手に一本ずつ取ってマヨネーズにつけた。チュイーンと鉛筆削りみたいに野菜が口の中へ吸い込まれていく。凄まじい速さで一本食べきってはマヨを塗りまた次の一本へ齧り付く。グラスが空になった途端、ぎょんっとガブがこちらを向いた。
「うえええええええん!」
「うわっ!なんだ突然泣き出して」
「だってだってええ、生野菜でしのいでいた時、このマヨネーズあったらすごく美味しく食べられたのにって。ずーっと青臭いの我慢してバリボリしてたんだよう、うわあああん、美味しいようっ!!!」
ガブには白菜レシピ三種を試してもらってるつもりだったんだが、脇役のマヨネーズがいたく大当たりしてしまったらしい。手作りだから日持ちしないしなあ…作るのはたまにしておかないとガブが大ハマりしそうで怖い。
俺はガブに多めにお代わりを出すといよいよ本題について相談を始めた。
「試食ありがとな、自信がついたよ。食べながら聞いて欲しい。あの白菜の山なんだがもう一部が腐り始めてそんなに長くは保たないかも知れないんだ。だからあの白菜を使って今日の三品をたくさん拵えてさ、自警団のご近所、街の人たちにお裾分けしたらどうかなって考えたんだ。ついでに一家族につき白菜一玉ご進呈ってのも付けてさ。そういう交流ってここではあるだろうか」
「それいいね!もちろんご近所にお裾分けって普通にみんなやってるよ。私もタスクさんの美味しいお料理をみんなに食べてもらいたい!こんなに美味しかったらすっごい喜んでくれるよ」
「隊長の許可を貰えて安心した、さんきゅな。俺はまだここに来たばかりの新参者だ。だからガブのツテでご近所さんに声をかけて欲しい。よかったら飯の足しにこれどうぞみたいに配れたら理想的だ」
私、隊長?とガブは自分を指差すと、思い出したように腕組みしてぬーんと反り返った。このアイデアはサイドストーリーの街の人たちとガブが良好な関係だった話から思いついたんだ。ガブの日頃の行いのおかげだぞ、自慢してヨシ。
「任せてタスクさん!しばらく外に出てないから街のみんなに心配かけてるかもだし、挨拶を兼ねて朝から声をかけてみるね。きっとお昼までにはご近所みんなに話せるんじゃないかなあ。お裾分けはいつ頃にしよっか?」
「俺も朝から仕込みを始めるつもりだ。夕方までには配れるように準備を進めるよ。ガブはその見通しで声かけをやってくれると助かる。ちなみにご近所さんは何軒くらいあるんだ?」
「了解しましたあっ!んとねえ、サンソンさんち、アルナイトさんち、クレべさんち…ほん、ほん、ほん…十軒かな。どこも二人以上は子供がいるお家だよ。………で、で、そろそろお代わりをお願いしまあす!」
ご近所の数を指折り数えたかと思うともう次には空っぽの器を差し出し、涎ダラダラでお代わりを求めるガブに苦笑しながら俺は大盛りの豚汁をよそうのだった。