表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/29

21話 竜化とお米

見つけて下さってありがとうございます。

予定通り本日分を投稿します。

第21話になります。食堂開設直前、とある事件が起きます。そしてお米が手に入らなくなるかもしれない?!

 最近みんなのレベルアップが目覚ましい。

 俺の飯を食って強くなったせいもあるが、レベルが上がり難しいクエストをこなせるようになって経験値獲得の機会が増えてきた為でもある。

 

 普段なら冒険屋がやるような仕事、例えば魔物がいる場所への薬草の採取活動の護衛とか、野盗の出易い道を通る荷物運びなんて仕事が公営警察隊や冒険者ギルドから舞い込んでくる。どれも並のレベルでは困難な仕事ばかりだ。

 

 おかげで自警団メンバーは新入りに至るまでみんなかなり強くなった。仕事の達成率が高いので依頼も自然に増えて今ではほぼ毎日のように数件の依頼が舞い込む。


 幸い自警団が常に出払うような治安の乱れは無いので団長代理承認の元、選抜された団員を派遣している。特に団の宿舎を利用するお泊りメンバーは活躍が目覚ましい。

 

 デューメはどんどんレベルが上がり新技を会得したと同意げだ。この年でレベルがここまで上がるとは思わなかったと感激して、先日は得物の両手剣をぶんぶか振り回して竜巻を飛ばす剣技を披露してくれた。やる気に満ちて新人たちへの指導にも熱が入る日々だ。

 

 シスは神格がガンガンあがるせいかご近所でお祝い事や吉報が多発しており歩くご利益状態のようだ。本人はかなり抑えているようだが幸運の素みたいなものがどうしても溢れるらしい。たまに三女神たちと模擬戦をやって発散してるのだとか。相手をさせられているスクルドはまだ準備が整わないとかで降りてこれないらしいがこれはまた別の話。

 

 最近よく飯時に通ってくる公営警察隊のキーは飛び道具のスキルを覚えたとお喜びだ。どうも拳銃スキルが使えるようになったそうだ。この国で銃を使うには免許がいるそうで取得の為の試験勉強を始めたとか。まあ確かにお巡りさんだもんな、拳銃持ってても不思議じゃないか?

 

 サンソン兄妹は剣術や魔法に目覚めたらしく修練場で励んでいる姿をよく見る。マルコは剣技、ノアは支援魔法、マゼちゃんは回復魔法とかなりいい組み合わせのトリオになりそうな感じだ。果ては冒険者にでもなるのだろうか。


 ガブは著しい成長があった。


 昨日の朝の話だ。俺は朝飯の支度で早めに起きて食堂にいたんだ。すると地響きがする程の大きなどーんという音が建屋を揺らし驚いた。ずしんと足の裏にくる感じの音だ。


 慌てて音のする方、修練場に向かった。修練場は建屋に囲まれた中庭にある。中庭出口から庭を覗くといきなり巨大な金色の壁が見えた。


 なんだこりゃ?と触ってみる。すべすべ滑らか人の肌のような…もうちょっと硬いか。そんな手触り…目を凝らしてよく見るとそれは壁なんかじゃなかった。

 

 それは見上げるような大きさの何か生き物の肌、背中らしかった。象を動物園で見たことがあるがそんな大きさどころじゃない。その姿、ファンタジーでお馴染みのやつ、高く伸びた首長頭に二本の角、その背中には二つの大きな翼…肌はツヤツヤした星のように輝く金色のドラゴンだった!

 

 しかしその巨体に見合わぬ優しい…というより弱々しく困ったような顔で見下ろしてくる様子に俺は誰かを思い出した。俺はドラゴンの頭に向かって叫んだ。

 

「もしかして、ガブかー?」


「タスクさぁん!どーしよ私こんな姿になっちゃって」


 ドラゴンイコールガブが口も開かず答えた。

 や、やっぱりガブだ…目がな、なんかわかったんだよな。

 どうやら念話っぽいことができるらしい。

 

「色々聞きたいがとりあえず元に戻れるかー?」


「わかったよ!んー戻れ、戻れー」


 暫くするとドラゴンの体が輝き出してしゅわしゅわぽんと煙に包まれると元のガブがそこに座り込んでいた。

 

「おかえりガブ、戻れてよかった」


「うわぁん!怖かったようっ!」


 抱きついてくるガブを受け止める。

 『推し』に抱きつかれて結構俺はドキドキなのだが務めて冷静を装い彼女の背中をポンポンしてやった。

 

「どうした、何があった?怪我してないか」


「あはあ、大丈夫だよぅ。びっくりさせちゃったね、ごめんねタスクさん」


 ガブは眼鏡を外して涙を拭った。


 相変わらず眼鏡の下は超絶美少女してる。先日の食べ歩きの時も眼鏡をしてなくてかなりドキバクさせられた。普段びんぞこ眼鏡に慣れてるからどうにも調子が狂うな。ごほん、それはそれとしてさっきのドラゴンの件だ。

 

 彼女は腰にきてるのかふらふらしていたのでベンチに座らせて話を聞いてみた。

 

「こんな朝早くからガブが起きてるなんて珍しい、本当に何があったんだ?」


「えーとぉ…ちょっと自分でも説明上手くできるか自信ないんだけど」


 頭を抱えてうねうね揺れるガブ。

 まだ混乱してるらしい。


「わかるとこからでいいよ」


「うん、んとねえ。今朝はかなり早く目が覚めたの。それでぼーっと微睡んでたら、さっきのドラゴンになった夢を見た気がして」


「ふんふん?」


「それで修練場に出て夢の通りに私はドラゴンになれるーって念じてみたの。でも何も起きないから部屋に戻ろうと思ったら突然ぼんって煙が上がって私あんなになっちゃって」


「つまりドラゴンになれたと」


 こくんとガブは頷いた。

 俺は黙ってガブの言ったことを反芻していた。

 ドラゴン…俺は知ってるぞ、そのスキル。

 そろそろ来るかもとは思っていたが。


 もう一つガブに確認しておこう。

 

「…ガブ、所で今レベルって幾つになった?」


 きょとんとするガブ。

 彼女は慌ててジョブカードを取り出し確認する。


「えと、レベル780になってるよ?」


 あのスキルで確定だ。

 思っていたよりも到達が早かったな。

 こんな所までゲームに忠実とは女神サルティコ、やり過ぎだろう。

 

 これは恐らく『竜化ドラゴナイズ』のスキルだ。取得レベルは700。ガブは元々星竜の一族だからな、ドラゴンに成れて当然なんだ。あのスキルはゲーム中では簡単には拝めない代物だ。ガブの育成をとことんやった人間にしかみることのできない裏技的なスキルだったから。

 

 本物の竜化のスキルはかなり迫力があるようだ。ドラゴンがあんなにでかいものだとは。運が良かったのか建物を壊さずに済んだようだ。

 

「わかったガブ。ドラゴンになるのは練習したほうが良さそうだな」


「タスクさん、私がドラゴンになって怖くない?」


「驚きはしたけどカッケーって感想だぞ。背中に翼があったし空だって飛べるんじゃないか。最高だな」


 ガブがホッとした顔をする。

 きっと自分でもかなり怖かったんだろう。

 

 竜化はマップ兵器も使えるし、他にもかなり強力な能力を備えてる。不用意にブレスの試し撃ちとかしてなくてよかったよ。下手をすれば一発で街が半壊してしまうからなあ…。

 

「おーい、朝からやらかしてるな。二人とも無事か」


 シスが起きてきた。

 さすがもうわかってるらしい。

 

「お、おはよシス。やらかしてないよっ!」

 

「いやいや。ガブ、よくこの程度の混乱で耐えたな。その力はな、理性飛ばして大暴れしてもおかしくないんだぞ」


 俺とガブはそんな話を聞いてさーっと青ざめた。

 下手すりゃ物語がジエンドする所だったのか。

 さぞ三女神たちもハラハラしてた事だろう。

 

「嘘だろ、そんなにやばかったのか」


「嘘も何も。帝国でやってることを教えてやろう。竜の血を引く人間を初めて竜化させる時はコロシアムに放り込むんだ。他のドラゴンに押さえつけられながら覚醒させるんだぞ、暴走が半端ないからな」


「わ、私暴走しなくてよかったあ…」


 ガブが胸を抑える。


「多分幻竜と星竜の性質の違いだろうな、それとレベルがかなり高くなっていたのも幸いしたな」


「わた、私それよりも…」


「どうしたガブ!?」


 急にふらふら揺れ出したガブに焦る俺。顔色があまり良くない。まさか暴走?あ、こら!シスお前自分だけしれっとバリヤー張ってる!酷いぞっ!

 

 おっと、それよりガブは大丈夫かっ?!


「お願いタスクさん…」


「どうしたっガブ!!」


「お…」


「おお?」


「お腹空きすぎて死んじゃいそう…」


 俺は真横にズルベターっとずっこけた。

 

 

◆◆◆◆◆



 がつがつ、はふ、はふっ、もぐもぐ…!

 

 自警団メンバーのお泊り組、ガブ、デューメ、シスが一心不乱に茶碗を片手にはふはふ飯を食べている。ガブの騒動で朝飯作りが中断してしまった為、作りかけのおかずをタネにお茶漬けで食べてもらうように俺がお願いしたせいだ。しゃけ焼いたくらいで味噌汁すら作れなかったからな…。


 具は梅干し、海苔、昆布、塩ジャケ、しぐれ煮、わさび、野沢菜、きゃらぶき、たくあん。

 

 味の濃いおかずに炊き立て飯。

 そして熱々のお茶だ。

 

「みんなすまないな、今朝はセルフで頼む。具材を選んで飯に乗せて熱々のお茶をかけて食べる飯だ、そのまんま、お茶漬けと言う。飯に乗せるものでわからないものがあれば聞いてくれ」

 

「わしはこの梅干しを選ぶぞ!これが大好きでな!お茶漬けとやらの具にもできるとはさすがだ」


「梅干しはご飯のお供と言われてるからな」


 デューメはブレないな、梅干しと野沢菜そしてお醤油だ。目を細めて嬉しそうに啜ってる。梅干しを齧ってすっぱあ!と呟くのも忘れない。

 

「私は魚介でまとめるか、しゃけ、昆布、そして海苔だ」


 シスはしゃけ茶漬けだな、しゃけと昆布も相性いいし。ふー、ふーっとやると一気にかきこむ。熱々が得意なシスらしい。


「んふー、私はしぐれ煮を選ぼうかな、なんだか甘い香りがするよ?」


「甘いというか甘辛だな、試してみるといいぞ」


 ガブは具材を一つずつかけては試していくつもりのようだ。しぐれをたっぷりとご飯に乗せてわさびを少し。お茶をかけてから海苔を散らすこだわりっぷりだ。

 

「ずず、ふー、ふー、ずずーはふっ、美味しい!香りがすごくいいね、今朝は寒かったからあったまるよ!うーんたまんない!これなら何杯もいけそ♪」


「ガブ、全部乗せと言う究極技もあることを覚えておけ、なかなかの破壊力だぞ」


「うひっ!それ最後にやろっと!」


「なんとそんな技があるとは!」


「私は言われなくてもやるつもりだった」


 みんな和気藹々と茶漬けに興じる。

 たまにはこんな朝飯もいいもんだ。

 

「ガブ、顔色がよくなってきたな、よかった」


「ありがとぅ…あの力、だいぶ体力も魔力も取られるみたい」


 俺が淹れるお茶を啜りながらガブは目を閉じため息をつく。

 まだ疲れがあるのだろうか?

 シスは覚えたてのスキルについて注意してくれた。


「どんなスキルも取得したばかりの時は身体が慣れていなくて消耗が激しいものだ。ましてや『竜化』ならなおさらな」


「なるほど。わしも剣技を覚えた時やたら腹が減ったがそういう理屈だったのか」


 ゲームではスキルの熟練度なんてパラメータは無かったからな。こんな所は現実世界に置き換えると思っても見ないことが起きる。特にガブのスキルは大技だ。扱いには気をつけないと。


 そのうち出勤時間になってサンソン兄妹や新人団員たちが出頭してきた。もう8時半か。


「えーっ!お姉ちゃんドラゴンになってたんだ?すげー、見たかったな!」


 マルコが騒ぐ。まあそりゃこの世界でもドラゴンは滅多にみられるもんじゃない。子供には憧れの対象になるだろうな。

 

「うん、そうなんだ。今すぐは難しそうだけどお昼にでも見せたげようか」


「それはまずい、ガブリエラ」


 俺が言う前にシスが注意してくれた。

 シスは任せておけと俺に頷き、俺はすまんと頭を下げた。

 

「えーっ、どうして?」


「あれだけタスクくんの飯を食べて感じなかったか?普段よりも体力の回復を緩やかに感じてるはずだ。あれは消耗が激しすぎる、まだお前が竜化に慣れてない証拠なんだ」


「ちょっとくらいはだめかな?」


「タスクくんの食事で体力は回復してもお前の精神力が持たない可能性が高い。言っただろう、暴走の危険があると。今は一日に一回くらいに留めて慣らし練習をしたほうがいいだろうな」


「わかったよ、みんなに迷惑かけられないもんね。ごめんね、見せるのはまた明日だね」


「じゃあお姉ちゃんをみんなで肩揉みしようぜ!疲れてるんだろ?」


 無理無理に変身して事故ってもまずいからな、仕方あるまい。マルコたちは早く見せてほしくてガブを労るように肩を揉んだり腕を揉んだりしてる。おいおい、ガブ、見習いたちに奉仕させてる悪徳団長みたいになっちゃってるぞ。こっちも揉んでとか調子に乗ってんじゃないっ。



◆◆◆◆◆



 そんなこんなのスキル取得イベントを経て、いよいよ食堂開設まで後三日と迫っていた日、事件が起きた。

 

「米が届かない、だって?」


 俺は寝耳に水の出来事に驚いた。

 もし本当なら食堂開店が予定通りにはできなくなる。


「うん、仲卸の人が来てね、今街はいろんな生鮮食料品の流通が止まってるらしいんだ。いずれにせよ物資枯渇と物価高の心配もあるみたい」


「何が起きたんだ?」


「洪水が発生して農産物の輸送に使ってる街道が寸断されたって話だよ、街中でも噂になってるみたい」


 シスが立ち上がると遠い目でどこかを見る。

 多分その街道を千里眼で見てるんだろう。


「農産物というとサルトリ方面か、どれどれ…ああ本当だな、上流の大雨で河川の堤防が決壊したんだろうな。街道が冠水してるぞ、あれは河川の堤防を復旧しないとどうにもならんな」


「そんなに酷いのか」


 前髪を退けて遠くを見やるシスに俺は聞いた。

 シスはため息をついて俺に告げた。

 

「恐らく水が引くまでは堤の復旧は無理だろう。となると米が届かない、それもかなり長い期間だ。食堂どころか我々の食事も危ういのではないのか?」


 確かにそれはまずい。

 俺の献立はほぼ米が主食になっている。

 今日明日で無くなるような備蓄ではないが長期間復旧が遅れるようでは支障が出てくる。ましてや街自体も食糧難に陥る可能性がでてきた。

 

「何か俺たちで手を打たないとまずいか」


「街議会が何か手段を講じるのを待つ手もあるが…いや…」 


 街議会が対策するのはあくまでパールベックの街に対してだけだ。恐らく食糧備蓄を解放する、食料確保の新経路を確保するくらいはやるだろうが…。


 シスは懸念があると言って話を続ける。


「米が問題になる。あの食材はサルトリ方面でしか生産してないんだ、この街に米が全く届かなくなるぞ」


 となるともし食料の新経路が確保されても米だけが取り残されるのか?これはまずい状況だ。

 

 俺とシスがああでもない、こうでもないと議論を交わすなかでガブはずっと黙っていた。俺たちは構わず激論を交わす。

 

「いっそ私が神通力で洪水を消してしまうか?」


「却下だ、人間絡みで個人的に神の技を行使するのはNGじゃなかったのか」


「恩返しの一環で…だめか?」


 行き着くところまで行き着いた感の会話が終りかけた所でガブがぽつりとつぶやいた。


「ねえ」


「ん?」


「どしたガブ」


 俺とシスは突然のガブの発言に振り向いた。


「私良いこと思いついちゃったかも!」


 きらりーんとガブのびんぞこ眼鏡が光っていた。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。

今回は食堂開設の前編でした。

食堂開設の後編に続きます。

ガブの思いつきとはなんなのか?お米はどうなるのか?


次回は11/26の20時更新の見通しです。

どうぞよろしくお願いいたします。


いつも読了、ご評価、ブックマークをありがとうございます。とても励みになっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ